慣れない日々と孤島の食材 Lv.1(五話)
灰色の岩肌が続く孤島に到着した彼らは、サウザーを先頭に坂を登っていく。
サウザーは時折、手に雷を纏うと簡単に雷鳥を作り出し、空に放つ。
緩やかな坂を登りながら、サウザーは口を開く。
「白い蜜の花はこの丘の上にあるよ」
「本当!」
白い蜜の花があると聞いて、ティーレは目を輝かせる。
サウザーは頷いて続けた。
「あぁ、だけど、途中にきり……あ」
話している途中で待ちきれないティーレが走り出してしまう。
「ま、待って、ティーレちゃん!」
走り出した子供を追って幸も釣られる様に走り出してしまった。
「この先、霧に包まれてるから、足元には気をつけるんだぞ」
サウザーは霧の中へ飛び込んでいく二人を見ながら叫んだ。
彼女たちに聞こえていたのだろうか?
ほんの少し心配になってしまう。
走り出したティーレは灰色の岩肌を駆け上がり、霧の中へと潜っていく。
幸もその後を追うが万全の体調でない為、追いつくことがなかなかできない。
一寸先も見えない景色の中、ティーレはひたすらに前へと進み続ける。
彼女がまっすぐ走れたのは、甘い香りが花のあり方を教えてくれたからだ。
幸にも分かる。濃密でミルクの様な香り。
匂いがより甘く感じられるとティーレはさらに早く走っていく。
あっという間に灰色の霧を潜り抜けてしまった。
次の瞬間、彼女は息を呑む様な光景を目撃する。
どんよりとした灰色の曇り空が広がる孤島。
ひんやりと冷たい岩肌の丘を登り終えた先には真っ白に咲き誇る白い花畑があった。
見渡す限り一面に咲く蜜の花。
後から来た幸もこれには驚く。
「すごい、これが全部蜜の花なの?」
どこにでも咲いている蜜の花。しかし、白色は珍しく今まで見たことがなかった。
それ程珍しい花がこの島では数えきれないほど咲き誇っている。
幸は思わず息を呑んでしまった。
シンとした空気に広がる絶景はまるで絵本の一ページに迷い込んだ様だ。
心を奪われていた幸は、ゆっくりと花畑に近づいてみた。
小さな純白の花には光沢のある蜜が詰まっている。
幸はそっと花を摘み取ると思わず口をつけてしまう。
軽く吸い込むとチュッと蜜が抜け出て口の中へと入っていく。
濃密なミルクの味が口いっぱいに広がっていった。
あまりの甘さに幸はうっとりとしてしまう。
今までにこれ程甘い物を食べた事があっただろうか?
少なくともここに来てからは初めてだ。
花を食べることに、幸は胸の内から込み上げる思いに温もりを感じていた。
懐かしい日々を思い出す。
ぼんやりとしそうになる意識に気づき、幸は一息入れる。
ふと、隣を見るとお母さんの為に沢山積もうとする少女がいた。
彼女の目は輝いており、一切の濁りも感じられない。
ティーレを見ていると心が洗われていく気がする。
幸はチラリと反対側を見る。
優しく摘み取りながらも、いやらしい顔で花を取るサウザーがいた。
彼は蜜の花をお金の様に数えながらかき集めている。
途端に現実に叩き起こされた様に幸は心が暗くなってしまう。
二人が思い思いに花を積む中、幸はもう一度だけ花の蜜を堪能した。
しばらくして、満足に取れたのか、サウザーが立ち上がる。
「蜜の花はこれで十分だろ。あと、他の素材も取りに戻ろう」
彼は先程、駆け上がってきた霧の方を指差して言う。
「あっ、うん」
幸はサウザーの後に続いて立ち上がる。
くらりと頭の中が揺れるのを感じた。
一瞬、動きを止めてしまう。
(あぁ、眠い……)
顔を押さえながら襲ってくる眠気を噛み殺す。
「大丈夫かい?」
彼の問いかけに幸はすぐに答えた。
「大丈夫」
幸は息を整えてサウザーの後を追いかける。
二人は霧が立ち込める坂道へと戻っていくのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
ギャップの寒暖差で風を引くかもしれない。
楽しそうに集める隣で金を見る風に集めるサウザーくん。
幸が眼を背けたくなるのも分かるかもしれませんね。
にしても、幸の体調不良が心配です。皆さんも夏の間に限らず、体調には気を付けてください。
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