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黒星レストランと薄明昇るタルト Lv.4(十話)


 灰となった怪物を見届けたマチルダはどっと疲れが襲い掛かる。

 クラクラする頭を押さえながら、倒れている幸に声を掛けた。


「幸ちゃん、終わったわよ……動けそう?」


「いいえ、全く動けません」


 地面に倒れる幸はマチルダの声を聞いて、安心したのかクスリと笑いながら言う。

 お互い、大きな危機を乗り越えて安心してしまった。

 そのせいで倒しそびれた相手を忘れていたのだ。


「アヒャヒャ! 随分な大業だったじゃないか魔法使いは発想と理論だけでどんな事でもしでかすから恐ろしい」


 よっこらしょと起き上がりながらコウモリ男は呟いた。


「石を作るだけでも相当、魔力を使ったんだろ? だから、あの化け物を倒す為に最初に俺たちを撃った光の矢は出せなかった」


 燃費の悪い技だと言いながらゆっくりとマチルダの元へと近づいていく。

 マチルダはもう魔法を使う事も逃げる事も出来ずにいた。


「全く残念だったな。俺の能力を知っていれば、もう終わっていたのかもしれないのによ」


 ニヤニヤと君の悪い笑みを浮かべながら、マチルダの横を通り過ぎて行く。

倒れている幸の元へ向かう。


「何をする気!」


 カッと険しい顔で睨みつけた。

 コウモリ男にはそれがたまらなく心地よく感じる。


 喉を鳴らしながら話す。


「なぁ〜に、この小娘の生き血をいただくんだ。殺しはしない。そしたら、死人の血に変わっちまうからな」


 そう言いながら幸を抱え上げて、首筋を見える様に傾ける。

 幸はかろうじて動ける範囲で拒絶した。


「あ、クソ。動くんじゃねぇ」


 思う様に出来ない事にイラダつコウモリ男は幸を殴りつけて手についた血を舐めた。

 すると、乾いた風が血生臭い香りと共に吹き抜ける。


 灰となって散ったはずの怪物となったサラが形を取り戻しつつあった。


「嘘……」


 苦労して倒したはずの相手が、蘇っていく事に呆然とするマチルダ。

 コウモリ男は愉悦に浸り、楽しそうに叫ぶ。


「どうだ! すごいだろ? 俺を見なかったお前の罰だ。知ろうともしないカスがアヒャヒャ」


 再びサラを相手にするには全力を出し過ぎた。戦えない。

 敵を蘇らせる怪物に万力の化け物を相手するなどもう出来ない。


 かろうじて立ち続けようとしたマチルダだったが、圧倒的化け物を前に支えていた糸がプツンと途切れてしまう。


 胸焼けしそうな汚らしい高笑いに。


 先の見えない暗闇。


 遠くで薄らと明るかった薄明は風前の灯火の様だ。

 これを絶望と言わずして、なんと呼ぶのだ。

 マチルダはガクンと膝をついて倒れてしまう。


(あぁ、日が沈む……)


 消えていく太陽を見ながらマチルダは思わず手を伸ばしてしまった。


「薄明なんて縁起でもないわね」


 皮肉混じりに彼女はボヤいてしまう。


 こうなる事なら無理して自分が出向かず、サウザーに任せるべきだった。

 幸を危険にさらしたバチが当たったのだろう。


 目の前ではあの世から蘇り完全に傷が癒えたサラが鎖のブーケを握りしめていた。

 一瞬のうちに羽虫をはたき潰すようにブーケが振り下ろそうとされる。


 その時、真っ暗な森の奥から一羽の鳥が飛んできた。


 黄色く光輝く鳥は甲高い声を叫んで、通り過ぎて行く。


「なんだ⁉︎」


 驚くコウモリ男だが、サラの拳が地面に殴りつけられる。

 土煙が上がりよく見ることが出来ない。


 マチルダはその場にいなかった。


「違うよ。マチルダ……」


 丘の上に立つ青年はマチルダをそっと腕の中で抱えて呟く。

 綺麗な金髪に、黄色い瞳には優しくも上げしく燃える星が灯っていた。


「なんだテメェ?」


 コウモリ男の問いかけに旅の杖を握りしめた青年は答えない。


「サウザー……」


 来るはずのない男がここにいる事にマチルダは驚く。だが、ほんの少しだけ嬉しそうにはにかんでしまう。


 帰りが遅かったマチルダたちを心配したサウザーは、追う急ぎで探し回っていた。


 雷鳥を飛ばしていた為、なんとか、駆けつける事が出来たのだ。


 彼は優しく彼女の頬を撫でて語りかける。


「あれは夜明けだ」


 背後で薄らと消えかけた日の光は突如、山すら超えて強く輝き始める。


「僕たちを照らす。希望の光だ」


 サウザーは優しくマチルダに語りかけるとそっと地面に寝かす。


「サウザー……」


 側に倒れる幸が弱々しく呟く。

 彼が駆け付けてくれた事に驚きと喜びが入り交じる。

 サウザーは優しく微笑みかけて言った。


「大丈夫、すぐに終わらせるから」


 彼はそう言うとギロリと得体の知れない怪物共を睨みつける。次の瞬間、千の鳥がサウザーの背後から群をなして羽ばたく。


 群れに覆われたサウザーは、姿を暗まし、一瞬でサラの懐に潜り込む。

 旅の杖がぴかりと雷光を放ち、薙ぎ払われる。


 ズバッとサラの腕が宙を舞う。


 間髪入れずにサウザーは猛攻を与え、一瞬でサラを跪かせた。

 動けなくなった彼女を雷鳥の突撃を繰り出す。一瞬にして灰へと葬る。


 続けてコウモリ男の方を睨む。


 不敵に笑う男だったが、一瞬でサラが倒されたで笑顔が消える。


 鋭い歯を隠していた口を大きく開けて威嚇する。だが、サウザーは気にも止めず体を低く、構えをとった。


 旅の杖を引き締めて、狙いを定める。


 刹那、鳥の羽ばたき似た音が、明るくなる丘の上に響く。

 素早く飛び上がり、雷を纏った一撃をコウモリ男の心臓に突き立てる。

 心臓を貫かれたコウモリ男は呆然として青年を見つめていた。


「……」


 言葉の一切も残さず、コウモリ男はガクンと膝をついて倒れてしまう。

 コウモリ男はブクブクと泡を吹いて溶けていってしまった。


 サウザーは一瞬で怪物たちを倒してしまう。


 その様子を遠く離れた木の上からドーナッツの穴越しに、見ていたデセールは思わず驚いてしまう。


「えー嘘! あたしの傑作を簡単に壊すなんて。出来立てのサラさんにコウモリ男さんまでやられちゃった……なかなかの素質を持ってたのに……」


 しかし、残念そうに話す彼女は全く持って平然としていた。むしろ、期待以上の事が起こり満足してしまう。


「まぁ、名前も覚えてなかったから気にしてもしょうがないよね。そ~れ~よ~り〜も~」


 大きな瞳がニンマリと細くなる。


 沢山の雷鳥を従える綺麗な金髪に黄色い瞳に星を宿した青年を彼女は愛おしそうに見つめていた。


「あぁ、美味しく出来そうなのみーつけた」

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

サウザーは雷で鳥を作るのが得意ですが、他にも刃の様に切れる様にしたり、鞭の様にすることもできます。あまりしませんけどね。

デセールは一体何を企んでいるのか、あやかしですら全貌をまだ把握していません。しかし、吐き出してしまいそうな企みなのは確かだと思います。

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