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黒星レストランと薄明昇るタルト Lv.4(七話)

 ゴツゴツとした壁を伝いながら、真っ暗な洞窟を彷徨っていたマチルダと幸。

 マチルダの魔法によって生み出された宝石サンストーンは彼女たちの前を照らしてくれていた。


「マチルダさん、本当にこの道で合っているのでしょうか?」


 不安げに尋ねる幸にマチルダは髪を耳にかけ直しながら話す。


「分からない。今は僅かな風を頼りに進むしかないわ」


 もし、間違った道だとしても、引き返す事ができる。

 気休めになるか分からないが、マチルダは振り返って微笑んでみせた。


「大丈夫よ。さっきの部屋で食べられそうな物はいくつか拾ったし、水くらいなら私の魔法でカバーできる」


 しばらく、絶え凌ぐには問題はない。


 問題を上げるとしたら、暖かなシャワーをゆっくり浴びる事ができない事ぐらいだ。しかし、二人ともその様な贅沢品が無い環境に身を置いていた時期がある。


 耐えられなくはない。


 マチルダの言葉に幸は力強く頷いた。


 まだまだ、ランサン郵便を利用する冒険者に比べれば貧弱に思えるが、それでも、芯の強さは悪くない。


 幸の様な子が側にいてくれただけでも、マチルダは心強く感じられた。


「こんな事を言うのは悪いんだけど……あなたが一緒にいてくれて良かったわ」


 マチルダは先を行きながら、側にいてくれる幸に感謝を伝える。


「ありがとう。少し気持ちが楽になれて嬉しいわ」


「ふふ、マチルダさんにそう言ってもらえるなら嬉しいです。私……まだまだ、冒険者としてもハンターとしても未熟なので一緒に着いていけるか心配でした」


 そんな事はない。


 マチルダは首を振ってしまう。


「アイツの後をついて行けてるのよ。胸を張ってもいいぐらい」


 この場にいない鳥使いとともに依頼をこなしている。

 支部長として見ても、十分すぎる働きだ。


「それにしても、どこまで続いてるのでしょうか……この洞窟は?」


「そうね。ただの天然の冷凍庫として使っていた訳でもなさそうね。恐らく、通路として使われていたわね」


 ぐるりと辺りを見渡して言う。


 気づけば、洞窟の通路は広がり、天井もはるか上の方で見えない。

 一体、どこまで連れてこられたのか、全く想像がつかない。


「本当に熟睡していたのね。随分、奥の方まで連れて来られてしまったのかもしれない」


 子供に騙されてまんまと出された料理を口に運んだ自分が憎たらしかった。


「今、思うに、あの料理は最初から私たちを眠らせる為だったのかもしれない」


 マチルダは腕を組んで憎たらしい思いを吐き出す。


「リラックス効果のある綿雲キャベツに、夢心地にさせてくれる三日月クラゲのスープ」


 まんまとあの少女の筋書きに乗せられてしまったのだ。


 考えると頭が痛くなる。


 こめかみを押さえ込む。


「魚料理の人魚も……あの!」


 マチルダの話を聞いて、最後に出された魚料理について考え込んでいた幸は、顔を上げる。

 アレにはどんな効果があったのか、尋ねようとした。その時、微かな声が聞こえてくる。

 二人は辺りを見渡した。しかし、前からも後ろからも誰も来ていない。


「この声はどこから?」


 不思議がる幸にマチルダは答える。


「上からよ!」


 彼女はサンストーンを上に向けて照らす。

 見上げてみると男が真っ逆様に落ちてきていた。


 このままでは地面に激突してしまう。


 助ける事はできない。その時、視界の端で何かが飛び出していく。


 隣にいた幸だ。


 彼女は両手を大きく広げる。すると、黒い艶やかな羽に変わった。

 地面を力強く踏みつけると彼女は高く飛び上がる。

 真っ逆様に落ちてくる男を受け止めて、クッションの様に勢いを殺して見せた。


 飛び出した幸も共に落ちて地面に激突する。


「幸ちゃん!」


 マチルダは慌てて二人の元へ駆け寄った。

 幸いな事に男も幸も怪我はしていない。


 幸に至っては頭から落ちていったはずなのにピンピン、ベッドから転げ落ちたみたいに頭を抑えるだけだった。


(祝福の力を持っていると本当に体が丈夫なのね)


 彼女の丈夫さにはいつも驚かされてしまう。

 落ちてきた男に見覚えがあった。


「あなた……」


 レストランにやって来ていたカップルの一人だ。


 真っ逆様に落ちて来た彼は叫び続けて息を切らしてしまっている。


 必死に整えながら冷や汗を拭っていた。


「どうも……助かりました。危うく僕は馬車から落っこちたトマトの様に潰れていたかもしれません」


 座り込んでいた彼は立ち上がり、どこかへ向かおうとする。


「あ、ちょっと、待ちなさい!」


 マチルダは慌てて止めようとした。しかし、彼はカッとマチルダを睨む。


「すみません、恩人に失礼だと分かっていますが、なにぶん急いでいるもので」


 ふらつきながら歩いて行こうとする。


「彼女さんに何かあったのね?」


 マチルダは食い入った質問をした。


 前を向いていた彼は驚いた表情を浮かべて振り返る。

 こんな事、見ていれば誰にだって分かる事だ。マチルダは今まで読んだ推理小説の探偵の様に淡々と話し出す。


「あなた、森の中のレストランにいた人でしょ? 私たちも一緒にいたわ。そこであなたともう一人、お連れの方がいましたね?」


 彼女がいないという事は何かあった可能性が高い。探しているのであれば、自分たちを頼ったはずだ。

 そうでないという事はすでに場所を知っていると推測できる。


 男はすがる様に歩み寄りながら頷く。


「はい! サラです。サラが! 大変なんです」


 僅かな段差に足をかけて転びかける。側にいた幸が素早く彼を受け止めた。

 彼女の腕は鳥の羽ではなく、ほっそりとした人の腕に戻っている。


「ぼ、僕は上から、あぁ、僕はルイと言います。見ての通りこの上から落ちてしまったんです」


 ルイと名乗る男は上を見上げて言う。

 マチルダも同様に見上げたが、天井なんて見えない程、高かった。


「この上であの忌々しい腐れ料理人がサラを人質にしやがったんだ」


 憎しみに瞳孔を開かせて彼は歯を食いしばる。


「身動きの取れない場所に捉えて、僕たちの愛を試すだの抜かしてきたんだ!」


 彼は髪を開き上げて落ち着かずにあちこち歩く。

 腐れ料理人、恐らくデセール・メリーヌの事だ。


「僕はアイツのゲームに負けてしまった。今、サラを一人にしてしまっているんです。早いところここを登って彼女を迎えに行かないと」


 ルイは焦りを見せながら先へ行こうとした。


「待ってください」


「なんだい? 僕は急いでいるんだ。一刻も早く迎えに行かないといけない。邪魔をしないでくれ」


 イラダチが頂点に達して呼び止めた幸に当たり散らすルイに、幸は気にするそぶりを見せずに言った。


「私が上まで送ります!」


「なんだって?」


 ルイは耳を疑ってしまう。

 マチルダは順を追って説明した。


「この子には他の人にない力を持っているの。あなたを預けたのもその力なんです。この谷からなら、彼女が飛んでもぶつからずに登っていく事ができます」


 ルイは迷う事なく幸の提案を聞き入れる。


「本当に置いていって大丈夫ですか?」


 不安げに尋ねる幸にマチルダは肩を窄めて言った。


「構わないわ。先に行ってサラさんを助けに行ってあげて。あぁ、でも、くれぐれも無茶だけは気をつけるのよ」


 幸の背中に二人も乗る事はできない。


 マチルダは一度ここに残って二人だけ先に行かせる事にした。

 窮屈な洞窟で幸は大きく両手を広げて羽を伸ばす。

 彼女の黒いロングヘアーと同じ羽が生えてくる。瞬く間に幸の腕は鳥の羽へと変わった。


 ルイを背中に乗せていた彼女は力強く地面を蹴り上げて飛び出す。

 一瞬で高く飛んでいってしまった。それでも、上には辿り着けず羽ばたく幸の姿が小さく見えていく。

 一人取り残されたマチルダは上を眺めながら息を着いた。


「さて、私はどうしたものか……まぁ、待つしかないわよね」


 彼女たちが無事に戻ってくる事を祈りながら、マチルダはここで待つ事にした。

 すーっと吹き抜ける微かな風は首筋をなぞり、身震いを引き起こす。


 ジッとしているのも落ち着かない。


「あれ……あんな場所に階段なんてあったかしら?」


 腰を下ろそうとしたマチルダだったが、岩陰の隙間から見える通路に気がつく。

 覗いてみると上へと続く階段があった。


(見落としていたのかもしれないわね)


 彼女は杖を構えて慎重に登っていく。


 階段の中を吹き抜ける風はせせら笑う様に響く。

 長い階段を登っていくと開けた空間に繋がっている。

 すぐ近くに上へと登っていた幸たちを発見した。


「マチルダさん!」


 思わぬ再開に幸は目を丸くした。


 お互い、こんなに早く合流できるとは思ってもみなかったのだ。

 マチルダは思わず、後ろを振り返った。しかし、そこに道はなく微かな残り香の様なものを感じ取る。


(この感じ……)


 マチルダには心当たりがあった。


(魔法ね。粗雑に作られていたみたいだけれども)


 壁を触りながらマチルダは思う。

 これはまるで自分たちを一緒に行動させたいと言う他はなかった。


「何を企んでるの……?」


 ボソリと呟く。その時、辺りを見渡していたルイが叫び出す。


「どこにいるんだ、サラ!」


 彼は必死に彼女さんのサラの名前を叫ぶ。


「あそこ! あそこにいたんです。お願いだ。さっきみたいに向こうまで連れて行ってくれ!」


 ルイは遠くを指差す。


 闇の向こうにポツンと小さな岩場が離島の様に立っていた。


 僅かな空間には誰もいない。


 幸はそんな場所に行く意味があるのか疑問を抱いてしまう。

 マチルダもサラがどこに行ったのか考え込む。


 指先に顎を乗せて、考えを巡らせてみる。

 不意に不気味な呻き声が風の中に混ざって響いてきた。


「待って、二人とも聞こえる?」


 マチルダは慌てて顔を上げて、渡ろうとする二人を呼び止める。

 彼女の言葉に幸とルイはピタリと止まり耳を傾けた。

 呻きの様な、啜り泣く様な、音が微かに聞こえている。


 誰かが泣いていた。


 突然、震える様な轟きが鳴り、洞窟を大きく揺らす。

 彼女たちがいるこちら側の奥の岩陰から聞こえた。


 ドス、ドスと重く踏みしめる足音がマチルダたちの方へ近づいていく。

 マチルダは近づいてくる正体を知る為にサンストーンの明かりをより強く照らす。


 岩石の曲がり角からゆっくりと巨大な影が現れ、その姿を見せる。

 この世の物とは思えない醜く歪んだ花嫁が花婿を迎えに姿を現した。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

ルビーの商人にぎゃふんと言わせたロトンドさんはすこぶるいい気持になった。こんなに晴れやかな気分は久しぶりだと茶番に付き合ってくれたサウザーたちに感謝をする。嬉しすぎてお土産すら渡しちゃう。

楽しくしている所に一羽の雷鳥がやって来る。

ふとした偶然や幸運を感じた時、それが何かの陰謀ではないのか疑ってしまうなんて事、ありませんか?

マチルダの前に現れた階段、あれは偶然や神のイタズラでもなくデセールの仕業です。

サプライズは一気に見せたいとのことです。

「リトラルの鳥使い」面白かったらぜひ、ブックマーク高評価をお願いします。

また、お気軽に感想など書いて言って下されば励みになります。


他作品も書いていますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。

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