黒星レストランと薄明昇るタルト Lv.4(五話)
ひんやりとした地面の感覚にマチルダはハッと飛び起きる。
真っ暗な世界に響く水滴の音。
彼女はしばらくの合間、周囲に何があるのか、誰かいるのか、聞き入っていた。
(一人近くにいる……これは、幸ちゃんね。子供っぽい寝息だもの。他は……)
やがて、周囲に誰もいない事が分かると彼女は何もない空間から短い杖を抜き出す。
「サンストーン」
沈黙を破り、暗闇を引き掻く光を生み出した。
真っ暗だった空間に太陽の様な光が照らされる。
灯りがつき、周囲がはっきりと見えて行く。
ゴツゴツとした岩肌に嵌め込まれた扉。
辺りには戸棚がいくつかあり、様々な食材の瓶詰めがあった。
他には丸ごと保存された巨大なお肉や魚、そして、人の死体が吊るされている。
どこかの倉庫だと一目で分かる。もしかすると、あのレストランの地下なのかもしれない。
「う、うう……」
眠りについていた幸は苦しそうに顔を覆って寝返りを打つ。
まだ、寝ていたいのだろう。しかし、状況も状況の為、マチルダは彼女の肩を揺らして身を覚まさせる。
「幸ちゃん、起きて」
軽く譲ってあげると幸はか細い声で尋ねる。
「マチルダさん、どうしたんですか?」
トロンとした表情を浮かべる幸だったが次第に何が起きたか思い出していく。慌てて起き上がる。
「た、大変です。マチルダさん。私たちの料理に毒が!」
「えぇ、そうね。そう見たい」
マチルダは慌てる幸の前で人差し指を示し、落ち着く様に促す。
ゆっくりと立ち上がり言った。
「まんまと、乗せられてしまったみたい」
杖先に乗っかる、輝く宝石を動かして目の前の光景を照らす。
天井からフックで吊るされる大型の食材。その中には決して人が食べて良いものではないものが紛れ込んでいた。
隣で釣られて見てしまった幸は強い吐き気に口元を押さえ込む。
「うっぷ……」
目の前には皮を引き剥がされた人間の亡骸が吊るされていた。
逆さ吊りにされて、首から上は切り落とされている。
すでに何度か、削ぎ落とされているのか、男か、女かすら判断ができない有様だった。
「酷いです……あの子がこんな事、できるのでしょうか?」
あんな、明るく元気な少女にこんな真似ができるはずがない。
幸の気持ちはマチルダも十分、理解できる事が出来た。しかし、これだけは言える。
「人の考えている事は完全に分かる事はない。理解しようとしてようやくよ。今日初めて出会ったばかりなのに、相手を知った気になっちゃダメね。私も気をつけないと……」
自分にも言い聞かせる様に話す。
マチルダは憂鬱そうにため息をこぼして続ける。
「後手に回ってしまったけれど、ここがドス黒い星の付いたレストランという事は分かったわ」
遠い意識の中で吹き上がる風の音にサラは目を覚ます。
ゆっくりと体を起こした彼女は身に覚えのない手枷に戸惑いを見せる。
キョロキョロと辺りを見渡した。
「何、これ……それにここはどこなの?」
ルイと一緒に森の中にある有名なレストランへ訪れたサラだったが、どういう訳か、食事をしていた辺りから記憶がない。
ゆっくりと辺りに何があるか周囲を探ろうとする。しかし、一瞬先、手を這わせたら。
何もない深淵に重たい手枷によって引き込まれる様だった。
サラは慌てて腕を引き戻す。
「穴……もしかして、周り全部?」
時々、吹き上がる風の音に周囲が奈落だと気づいてしまう。
これではどこにも行けない。
「どうしよう……ここから動けない」
呆然としていた彼女は、あちこち見渡す。
ふと、遠くの方にぼんやりと青い光が見えた。
愛おしのルイが倒れている。
「ルイ! 助けて、ルイ!」
サラは悲鳴の様な声で叫ぶ。
繰り返し呼びかけて、ようやく、彼は目を覚ましてくれた。
「うっ……ここは、サラ! どうしてそんな所にいるんだい!」
ぼんやりとする頭を抑えながら、ルイは顔を上げる。
彼はハッと目を見開いた。
愛おしのサラの置かれている状況に驚いてしまう。
お互いに何が起こっているのか、分からずにいると、二人のちょうど真ん中の辺りから、前触れもなく料理を運んできた少女が姿を現す。
「おっはようー! やっと目を覚ましてくれましたね。あたし、二人が起きるのをずーっと待っていました。準備が出来たのになかなか起きて来なくて……すっごく、すっごーく心配しちゃった」
交互にピンクと水色に彩られた髪はまるで飴玉の様で、大きなパチリとした瞳は純粋無垢な子供の様だ。しかし、その瞳は深淵の中にこそ相応しい程、ドス黒いものに見える。
料理人デセールは、にこやかな笑顔で二人が目を覚ました事を喜ぶ。
理解できない場所に連れて来られた二人は睨みを効かせていた。
「ふかふかのベッドに案内できなくて、ごめんなさい」
ペロリと謝る彼女にルイは声を荒げる。
決してそんな事を気にしているわけではないのだ。
「おい、どう言うつもりだ。俺たちを誘拐して、サラを捕まえて、ふざけるな! 今すぐ解放しろ」
静かに聞いていたデセールはうんうんと頷いてから返事をする。
「うんうんうん、あれこれ聞いてきたと思ったら、要求してきて、どっちを先にしたら良いんですかね? まぁ、先に聞かれた方から話しますか」
彼女は一息置いて、大きく両手を広げて言った。
「お二人にはこれから真実の愛を確かめて頂きます!」
「真実の」
「愛……」
デセールの言葉に二人はぽつりと呟く。
サラとルイは付き合って、もう何ヶ月も経つ。そして、もうすぐ結婚式を控えているのだ。
今更、愛を試す理由などどこにもない。
だが、目の前の少女はニヤリと微笑みながら話す。
「はい! お二人の真実の愛を是非とも、あたし、デセール・メリーヌに見せて頂きたいのです!」
デセールはパチンと指を鳴らす。すると、真っ暗だった空間に青白い光が浮き上がる。
その光は蛍の様に周囲を飛んでサラとルイの間に飛び石の様に並んでいく。
青白い光は燃え尽きる様に消える。
代わりに足場へと変わっていった。
「彼氏さんには道を乗り越えて行って、愛する姫の元へ、辿り着いてもらいます。そして!」
デセールはサラの方を見る。
ニンマリと目を細めて、薄らと歯を見せて笑う。
「彼女さん、貴女には彼氏さんがたどり着く事をただ信じて待っていて頂きたいのです」
彼女の言葉にサラは目を丸くする。
それだけで、真実の愛が証明できるのか、サラには理解できなかった。それでも、彼に、ルイに助けてもらいたい。
「ふざけるな! 今すぐこんな茶番は辞めろ!」
頭のおかしな小娘にルイは罵声を浴びせる。しかし、サラは違った。
サラは奈落に落ちない様にしながら、ルイに呼びかける。
「ルイ、お願い助けて!」
助けを求める彼女にルイは一瞬、呆然としてしまう。だが、すぐに真剣な面持ちになり頷いた。
「あぁ、助けに行くとも! 待ってて、今そっちへ向かう」
彼はそう言って助走の距離を取って、走り出す。
飛び石に飛び乗る。
ぐらりと揺れる足場にバランスを崩しそうになった。それでも、踏ん張りを効かせてみせる。
「うわぁ、あ!」
不甲斐ない声を出すルイに、デセールは慌てて応援した。
「あわわ、今にでも落ちちゃいそう。彼氏さん、頑張って!」
危険な道を渡らせようとする人間がする事ではない。
「ルイ、怖いの、お願い!」
見ているだけで心臓が張り裂けそうだった。
サラは耐えられる気がしない。
彼女は彼がたどり着く事を願った。
サラの期待が伝わったのか、ルイは着実に一歩ずつ近づいて行く。
遂には、あと一歩で辿り着く所までやって来れた。
「をぉ~彼氏さんすごいね」
パチパチと煩わしい拍手を鳴らす。
「ルイ!」
サラは何度も彼の名を呼んだ。
ルイもまた、同じ様に呼び返す。
「サラ、待たせてすまない。今、そっちへ行くよ」
狭い足場に残された距離を生かして彼は勢いよく飛び出した。
なんなく届く距離だ。
ルイの足先が真っ直ぐ届く……はずだった。
不自然にサラがいる足元が動く。
「!」
ほんの少し、ズレたせいでルイの足先は崖に擦ることも無く、奈落へ通じる暗闇に足を踏み入れてしまう。
「うわあああ!」
奈落へ向かいかけた彼は、間一髪の所で崖際を掴むことが出来た。
両腕でしっかりと掴まる彼は、今にでも落ちて行ってしまいそうだ。
「あわわ、見ていられないよ!」
デセールは両手で目を覆いながら叫ぶ。もちろん、薄らと見える様にして彼らの様子を見守っていた。
「ルイ!」
心配して覗き込むサラ。そんな彼女にルイは安心させようと微笑みを浮かべて見せる。
「大丈夫だ、サラ。今、ここを登って……必ず助けに行く……だから、待っていてくれ」
這い上がろうとしていた。
サラは恐怖と不安が入り混じった顔で涙を堪えながら頷く。
彼が必ず這い上がって迎えに来てくれる事を待った。しかし、サラの期待は簡単に裏切られてしまった。
必死に堪えていたルイだったが、登ろうと力を入れた。次の瞬間、岩の出っ張りはクッキーの様に簡単に割れてしまう。
「え?」
彼との繋がりがあっさりと途切れた様な気がした。
一瞬で深い奈落へと引き摺り込まれて行く。
「うわぁぁ!」
ルイは悲鳴を上げながら闇の中へと消えてしまう。
大きな悲鳴はこだまして、洞窟に響き続けた。
反響する音が消えても、サラはぼんやりと状況が飲み込めずにいる。
「嘘……」
晴れ渡る青空の下で、共に笑ってくれた彼の優しい顔が脳裏に浮かぶ。
そっと抱きしめてくれる手の感覚や温もり。
もう二度と戻らないと理解しそうになる。
「いや……いやぁぁぁぁぁ!」
ルイに二度と会えないなど、考えられない。
想像するだけでも耐えられない。
サラは手枷を乱暴に振り回して地面を殴りつける。
耐えられない。
耐えられない。
胸が引き裂かれて、焼かれ続ける様だ。
サラはうずくまりルイの死に咽び泣く。
哀れな彼女をデセールはただ、大きな瞳で見つめていた。
思わず、薄ら笑いが溢れてしまうのだ。
「あなたもきっと、そうでしょ?」
彼女の大きな瞳がギョロリとこちらを見上げてくる。
ロトンドさんの受け取った手紙には因縁の相手ルビーの商人からの会いに来る手紙だった。彼らは商人として競い合う中ですこぶる悪い。見下されるのが嫌なロトンドはサウザーたちに見得を張るのを手伝ってもらう事にした。しかし、仮面の女性は彼の側にいる事を拒む。ロトンドさんは耳なしエルフは嫌だが、仮面の女は初めてだから気にしないと言って協力をお願いするのだった。
SASUKEを強要するデスゲームって中々ですね。語彙力があったらもっとアスレとか用意したかったんですけど……残念です。読んでくださっている皆さんの中には物語を書いている人がいると思います。
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