慣れない日々と孤島の食材 Lv.1(三話)
深い森の中で苔むした猪チンギアーレが網に入れられて、何十羽の雷鳥によって運ばれていくのを見送ったサウザーはくるりと振り返る。
「さてと、ティーレ。僕は君のお母さんの依頼で探しに来たんだ」
「ごめんなさい」
彼の言葉にティーレは申し訳なさそうに謝る。
サウザーはそんな彼女の様子を見て、頭をかく。
「困ったな……別に怒るつもりで言ったわけじゃないんだよ」
苦笑いを浮かべながらサウザーは膝を突いて、ティーレと視線を合わせる。
彼女はモジモジとしながら何か尋ねようとした。
少し待っていると彼女は恐る恐る尋ねる。
「マ……ママ、心配してた?」
ティーレにとってこれ以上ない深刻な問題だった。
大好きなママは病気で余計な心配をさせたくなかった。できる事なら蜜の花も昨日見つけて家に帰りたかったのだ。
サウザーはゆっくりと首を振る。
「あぁ、心配していたが、もう大丈夫。さっき、君を見つけたって連絡をしたら安心してくれたよ」
サウザーはそっと彼女の頭を撫でて宥める。
「それで君は家にも帰らずに何を探していたんだい?」
彼の質問にティーレはポカンとしてしまう。
なぜ、その様な事を聞かれたか彼女には分からなかった。
サウザーは直ぐに察して訳を話す。
「この国で家出をするなんて、喧嘩か、食材を探しに行くぐらいな物だ。君はお母さんと別に喧嘩した訳じゃないだろ?」
ティーレは小さく頷く。
質問の意味にようやく気づく事が出来た。
「えっとね……蜜の花を、蜜の花を探してたの」
「蜜の花だって?」
サウザーは耳を疑う。
「蜜の花なんて、そこら中に生えているじゃないか」
辺りを見渡せば、赤やオレンジ、黄色といった花が咲いている。
花の真ん中には濃密な蜜が詰まっており、指先で掬ったら、ジャムの様に取れる甘い蜜が着いた花。だが、ティーレが探していたのはこれじゃないらしい。
彼女は首を大きく振って言った。
「違うの。探してるのはそれじゃなくてね。白い花なの。ミルクみたいに白い花」
「ミルクみたいに白い花……」
サウザーが静かに呟くとティーレはうんっと頷く。
「昔、ハンターさんが遠くから帰ってきた時に貰ったの。真っ白な蜜の花でね。ママがそれを美味しい、美味しいって話してて、それで……」
ティーレの話す勢いが次第に弱くなる。
探しに出て帰らなかったのがまずいと思っている様だ。
話を聞いたサウザーはしばらく考え込む。
目の前の少女にも聞こえないほどぶつぶつと呟いた。
ふと、思い当たる節を見つけて顔を上げる。
「あそこなら……」
「どこにあるか知ってるの!」
彼の様子にティーレは食いつく。
すがる勢いで尋ねてきた。だが、サウザーは歯切れが悪そうに話す。
「いや、すまないが、子供が行ける様な場所じゃ……」
「子供扱いしないで!」
「そう言われても」
難しそうに目を瞑るサウザーは別の提案をする。
「僕が代わりに白い蜜の花を取ってくるのはどうだい? ほら、早めにお母さんの所へ行って安心させてあげるのが……」
「やだ! 自分で取りに行く! 連れてって」
癇癪を起こしたティーレは地団駄を踏んで、サウザーを困らせ来た。
これには彼も強く言う事が出来ず頭をかいてしまう。
(まぁ、少し遠いぐらいだし……)
少女のお願いを聞こうか揺らぎ始めた時、彼女がプルプルと震えていることに気づく。
あと少しで大粒の涙が溢れそうになっていた。
サウザーは慌てて叫ぶ。
「あぁ、分かった。分かったから、泣かないでくれ!」
「本当!」
彼の言葉にティーレはパッと花開いた様に満面の笑みを浮かべる。
まんまと乗せられてしまった。
サウザーはため息をこぼし、雷鳥を一羽飛ばす。
彼はティーレのお母さんに事情を伝える事にした。
何も知らずにいるのは不安で体に良くない。
一様、彼女を見つけられた。それだけでも、報告した方が二人のためになる。
飛んでいく雷鳥を眺めながらサウザーは息をつく。
見えなくなる雷鳥は直ぐに一人の少女を連れて戻ってくる。
ティーレよりもずっと年上で、黒髪に特徴的に跳ねた前髪の子。
彼女は森の中を必死で走りながらやってくる。
別の雷鳥が戻ってきたのだ。
サウザーはクスリと微笑みを浮かべてしまう。
「やぁ、おはよう幸」
息を切らせて手に膝をつける幸は、今朝の事について話す。
「はぁ、はぁ、ねぇ、あれ……どうにかならないの? はぁ、はぁ、毎回あんな風に起こされると心臓がいくつあっても……持たないよ」
幸はイライラしながら素肌の見える肩を動かして息をする。
彼女は南の国の暑さに耐える為に動きやすいホルターネックの服を着ている。
ようやく落ち着き、顔を上げた時、サウザーは目を背けていた。
「何、目を逸らしてんのよ」
明らかに視線を避けている彼だが、幸が落ち着いた所を見て、ようやく視線を合わせる。
「すまない、まさか、苦情が来るほどとは思わなかった……」
謝るサウザーはすぐに話を切り替えた。
「それよりも丁度いい所に来てくれた」
彼の言葉に幸は思わず首を傾げる。
「孤島へ向かう。ついて来てくれ」
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
黒咲 幸
神の国からやって来た少女、鳥の羽を持つ彼女はサウザーの相棒として日々、彼の後を追いかけています。好きな物はお米で毎日の様に食べているのをサウザーに呆れられている。
サウザー君……米は魂だぞ!




