正体不明の刺客と痺れるバーガー Lv.5(十四話)
荷物の回収と報告を終えたサウザーたちはいつもの食堂へ向けて、石造りの通りを歩いていた。
大きくはない道で並んで歩くには少し窮屈だ。だけど、白い石造りに緑色の植物が飾られた通りはこの街の美しい外観とも言える。
歩いているだけで楽しい。
「全く……長かった」
報告に時間を食われてヘトヘトになったサウザーはため息をこぼす。
「辻褄合わせの為に馬車の主人を説得するのに苦労したよ」
おかげで、タダ働きをしばらくする事になった。
愚痴をこぼす彼に右隣にいた幸は申し訳ないと眉を寄せる。
「ごめんね。私が余計な事を言っちゃったせいで」
謝る彼女にサウザーは首を振った。
「いや、いいんだ。あれでいい。どうせ、警官に引き渡しても大した情報は出ないだろうから」
長い杖で体を伸ばしながら言う。
左から彼の棒を避けて上目遣いにアシュメは話す。
「そうよ、あなたが謝る事じゃないわ。一度ならず二度も私の獲物を逃がしておいて、罪悪感なんて抱かないでちょうだい」
「そう言われると全く浮かばない……ですね」
サウザーを盾に幸は納得してしまう。
(なぜ、僕を盾にするんだ……)
依頼以外の厄介ごとはお金が貯まらないから、あまり嬉しくない。
サウザーはため息を吐きながら、左にいるアシュメに尋ねる。
「アシュメさん、なぜ、貴方がここにいるんです?」
彼の問いかけにアシュメはニンマリと微笑む。
「決まってるじゃない。そこの小娘を捕まえに来たのよ」
「ヒィ!」
普段、聞く事のない幸の悲鳴が耳元に響く。
怯える彼女を面白そうにアシュメは見ていた。
ヒヨコの反応を見る為にちょっかいを出す子供の様だ。
彼女は肩を窄めて話す。
「でも、残念。私、今、長期休暇中なの。しっかり体と心を休めないとね。取り敢えず、あなたが真っ当に生きられるか、監視しさせてもらうわ♡」
長期休暇中の間、幸の動向を監視する。
場合によっては捕まえずに見逃してもいい、とアシュメは言う事だ。
彼女は残念がる様に空を見上げて話す。
「どうせ、刑務所にいてもしばらく退屈しちゃうわ。なら、あなたを追いかけて、ついでにこの土地ならではの気持ちい事をヤリたいじゃない♡」
自由気ままにリトラルへやって来たのが、サウザーにも想像が付く。
彼女の周りにいる人たちは苦労してるに違いない。
思わず苦笑いを浮かべてしまう。
呆れるサウザーを見て、アシュメはペロリと舌なめずりする。
怪しい瞳で除く様に答えた。
「それにね……」
前へと飛び出して、サウザーの行手を塞ぐ。
「それに小鳥の坊や、あなたに興味が湧いたの」
マゼンタピンクの長い髪を流して尋ねて来た。
「あなた、キャリー・ピジュンのお兄ちゃんでしょ?」
彼女の問いかけにサウザーはピタリと動きを止める。
彼の瞳は驚きで揺らいでいた。
「なぜ、それをって目をしてるわね♡簡単よ。毎日新聞を読んで、素敵な記録を残しておけば、大抵の話題を思い出せる。苗字持ちなんて、この世界じゃ珍しい方でしょ。すぐに繋がっちゃったわ♡」
最速の少女キャリー・ピジュン。ランサン郵便協会設立に貢献した三鳥の一人として数えられている。
知る人ぞ知る有名人だ。
彼女との関係に着いて、尋ねられたのは二度目だった。
サウザーは視線を逸らして頷く。
「ええ、まぁ……」
影を踏まれて不快に思うなんて、そうある事じゃない。
あまりいい顔はしなかった。
確認が取れて満足したのかアシュメは彼の隣に戻る。
「知らなかったわ。小鳥ちゃんにお兄ちゃんがいるなんて、普段から仲良くしているの?」
妹について訪ねられたサウザーは、しばらく何も答えず、ただ道を歩いていた。
やがて、答える気になって、淡々と話し始める。
「キャリーは僕の事を知らない。そもそも、兄がいるなんて覚えていないかもしれないんです?」
彼の話に隣で聞いていた幸は目を丸くする。
幸もこの話を聞くのは初めてだった。
「知らないって、どう言う事?」
「そのまんまの意味さ。別れてしまったのがあの子が赤ちゃんだったからね」
彼の話にアシュメはボソリと呟く。
「生き別れの兄って事ね……」
衝撃的な事実に幸は思わず尋ねる。
「会いに行かないの?」
彼女の問いかけにサウザーの足がピタリと止まる。
彼は俯き、顔に影を落とす。
「会いに行くさ……何もかも乗り越えて……」
小さな声で彼は呟く。しかし、すぐに顔を上げていつもの優しい微笑みを見せて言う。
「会いに行くさ、お金を貯めて迎えに」
サウザーは言い終わると足早に食堂へと向かっていく。
この話題は彼にとって繊細な部分だったのかも知れない。
離れていく彼を見て二人はそう思ってしまう。
取り残された幸とアシュメはしばらく、呆然としていた。やがて、アシュメがチラリと幸の方を見て呟く。
「あまり、聞いちゃいけない事を聞いちゃったみたいね」
幸は小さく頷く。
あの子との関係に着いて聞いたのは、初めて出会った頃以来だ。
改めて考えると幸はサウザーの事を何も知らずにいたのだ。
「……」
俯いて考え込んでしまう。
「ふふ……」
不敵に笑うアシュメに幸はゾッとする。
一緒にいるのが耐えられなくなった彼女は、急いでサウザーの後を追いかけていった。
健気に青年の後を追いかける幸を見て、アシュメはペロリと舌なめずりしてしまう。
「ん〜アオハルな恋ね。食べちゃいたい♡」
食堂にたどり着いたサウザーは立ち尽くしていた。
中を覗くと思わぬ先客が座っていたのだ。
艶のある綺麗な金髪のロングヘアーにエメラルドの様な瞳をした美人な旅人が水を飲んで待っていた。
両耳に耳当てをしている彼女は旅のマントを脱いで、綺麗に横に畳んで置いている。
サウザーたちがやって来た事に気づいた彼女はフッと微笑みを浮かべて席を立つ。
サウザーたちの前に現れた綺麗な人は馬車を襲った弓使いアウリスだった。
見逃した相手が再び目の前に現れた事に驚かされる。
唖然とするサウザーにアウリスは髪をいじりながら呟く。
「数千年も生きてきたせいで、行く当てがなかったんです……」
体をくねらせて恥ずかしそうに話す。
「しばらくの間、私を雇ってくれませんか?」
行く当てのない彼女はサウザーの元に戻ってきてしまう。
返事を伺うアウリスだが、サウザーはなかなか答えられずにいた。
アウリスは不安に駆られて自分を売り込み始める。
「弓の腕には自信があるの。他にも出来るわ。掃除に狩り、それに……」
後を言おうとした。その時、サウザーが手を前に出して話を遮る。
「それ以上は言わなくて構わない。自分の体は大事にしてくれ」
腕を下ろしてサウザーは握手を求めた。
「ランサン郵便協会リトラル支部所属サウザー・ピジュンだ。よろしく」
サウザーは自身の所属と名前を名乗り彼女を迎え入れる。
アウリスはにっこりと静かに微笑む。
「私はエルフのアウリス・アイウェンデルと言います」
アウリスは伸ばされた腕をしっかり握り返した。
握手が交わされた事に側で見ていた幸は大いに喜ぶ。
「アウリスさん、よろしくお願いします!」
勢いに任せて抱きつく幸。
彼女の優しさにアウリスは眉を寄せて困ってしまう。
「私はあなたを撃ったのですよ。いいんですか?」
幸は平気な顔をして答える。
「いいのいいの。私はアウリスさんが幸せになれたらそれでいいの!」
そこ抜けた優しさにアウリスは困惑してしまう。
チラリと背後にいるサウザーの方を見た。
彼もまた、幸の優しさに肩を窄めてしまう。
そこに後から来たアシュメが加わりながら話す。
「ふふ、そしたら、私とエルフのお姉さんの歓迎会をしないとね」
ギョッと目を見開く幸だったが、サウザーは気にせず席に向かう様に言った。
「何はともあれ、依頼は解決できたんだ。食事にしよう」
彼女たちを席に案内して、自身も隣に座るのだった。
食堂の女将さんに注文を取ってもらう。
ふと、アウリスがメニューの表紙越しにサウザーにだけ聞こえる声で話す。
「ありがとうございます。こんな私なんかの為に……」
エメラルドの瞳が揺らいで見えた。
頬がほんの少し赤くなっている。
サウザーはいつもの様に微笑みながら呟く。
「紳士ですから……それに」
彼は視線を注文している幸の方に向けた。
「幸のおかげだ。あの子の優しさがなかったら僕は勇気を出して優しくする事は出来なかった」
暖かな食卓を囲い、サウザーと幸は新たに加わった二人と共に食事を楽しむのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
気づいていた人は多いかもしれません。サウザー・ピジュンはキャリー・ピジュンの冒険の主人公キャリーの兄です。ですが、キャリーの方は彼が兄と言う事情を知りません。この訳は彼らの物語に関わる部分なので少しずつ語っていきます。
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