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正体不明の刺客と痺れるバーガー Lv.5(十一話)

 焚き火を起こし、狼煙を上げたサウザーは地面に座り込む。


「さて、貴方にはいろいろと聞きたい事がある」


 チラリと星を宿した黄色い瞳でアウリスの方を睨む。

 木に縛り付けられたアウリスは蜘蛛の巣に捕まった様に身動きが取れずにいた。

 グロい物でもないのにどうしてか目のやり場に困ってしまう。


「まず、誰の差し金なのか、教えてくれないか?」


 落ち着いた物腰で彼は尋ねる。

 馬車を襲撃した目的とその裏で糸を引いている人物が何者なのか調べなければならない。

 アウリスは毅然として眉間に皺を寄せながら話す。


「言ったでしょ、話す気なんてない」


 キッパリと断られてサウザーは目を回した。


 手荒な真似はしたくない。だが、出来る限りの情報を得る事ができれば、後々の為になる。

 大きな仕事をもう一つ出来ると考えたがそう上手くいかないらしい。


 目を回すサウザーを見て、アウリスはせせら笑う。


「残念ね、坊や。私はどんな事をされても雇い主の事なんて……死んでも教えない」


 妙な間にサウザーは目を光らせる。

 二度も話す気がないと断られた以上、今、出来ることはない。

 サウザーのぬるいやり方にアシュメが釘を刺す。


「小鳥の坊や、このエルフに甘いんじゃない? 仮にも彼女は私たちを襲った敵よ。多少の乱暴は許されるわ」


 なんなら、私が変わろうかしら、と意気揚々にアウリスに近づこうとする。


「いい、アシュメさん。貴方の言いたい事は分かる。でも、やらなくていい、やらないでくれ」


 頼み込む様に話す彼の言葉には信念に近い物があった。

 アシュメにだって、分からないわけでもない。


 彼女は肩を窄めてアウリスの方を見やる。


 サウザーのやり方にアウリスは呆れて笑い出す。

 縛られた体で無理矢理前のめりになりながらサウザーの顔を覗き込む。


「AHAHA、本当に甘いわね! そんなんで、何が出来るって言うの」


 彼女の目には弓矢の様な鋭く刺す様な憎悪がサウザーに向けられていた。


「お前の様に甘ったれた野郎は何人も見て来た! 中でも、そうね……お前はアイツに似ているよ。極東から来たクソ剣士にそっくりだ!」


 アウリスはサウザーをかつて、自分を負かした相手に重ねてしまう。

 ゆったりとした布を羽織り、刀と呼ばれる武器を一本使い続けた武士を思い出す。


「自分のルールの為に倒すべき相手も倒せずにいた腰抜け。アイツもお前も強いくせに女には手を出せないんだから?」


 今までの鬱憤は全部、目の前にいる青年が招き入れた様にアウリスは喚く。

 思い返す様に息を飲み、彼女は引き攣った笑みを浮かべていた。


「あの日だってそうよ。私を追い詰めたくせに、私が女と知って殺そうともしなかったわ。くだらない信念とか言うルールで私を殺せずにいたのよ! 結局、私の耳を削ぎ落として満足して帰りやがったの! あの時の顔をよーく覚えているわよ。そう、今のお前の様な顔をしていたのよ! お陰でエルフとしての商品価値はなくなったわ。だって、耳がなければそこらの人間と大差ないものね。AHAHA」


 自身の境遇を皮肉めいた笑いで語るアウリスは本当に痛ましかった。


「数千年、数千年もの間、お前ら人間のおもちゃとして使われ続けてきたんだ。故郷も、家族も全部奪ったくせに今更、善人ぶらないでよ」


 ゼェ、ハァ、とすべて吐き出した彼女は息を切らしてしまう。

 彼女は吐き捨てる様に呟いた。


「分かったならさっさと殺して……殺して……」


 叫び続ける事すらもはや、意味がないのだと思い出してしまったのかもしれない。


 彼女は、ぐったりと項垂れてしまう。


 サウザーはゆっくりと空を見上げる。


 流れる雲を眺めながら、重く固まりそうな息を吐き出した。


「弓使い……あなたの言う通り、僕はどうしようもない甘い人間だ。自分のルールを覆してまであなたを殺したくない」


 彼は付け足す様に話す。


「それに拷問してまで情報を引き出す事もしない」


「あら、ざ〜んねん」


 話を聞いていたアシュメが本当に残念がる。

 サウザーは愛想笑いを浮かべながら言った。


「当然です……そもそも、雇い主の顔も覚えていないのに何を聞き出したらいいんですか?」


 彼の言葉に項垂れていたアウリスは思わず顔を上げる。

 彼女は驚いた顔をして首を振った。


「そんなわけ無い! 私は雇われたんだ。鳥使いあなたを殺せって雇われたのよ。それはハッキリ覚えているわ!」


 雇い主について思い浮かべる彼女は一瞬で青ざめていく。

 朧げな記憶の中、凍えるような恐怖と寒さだけが色あせずにあった。


 目の前にいる道化師の様な少女が言う。


「アウリスちゃん、あたしたちの活動に邪魔な鳥使いを殺してくれる」


 お願いの様な口調で話す命令に身が引き締まる。

 少女は言い終わると抱えていた真っ白なお菓子を覚えるアウリスの口に放り込む。


 サクッと軽いものが潰れる。


 その時と少し前の記憶が破裂した様に無くなってしまう。

 震える唇は慌ててすがる様に話し出した。


「私は覚えているわ。えぇ、そうよ。でなきゃお前たちを襲う理由なんてないじゃない? ほら、坊や、私を拷問して無理矢理吐かせてみなさいよ。痛ぶるなりめちゃくちゃに犯なりしてよ! 聞き出してちょうだい」


 彼女はサウザーに近づこうとした。


 体に食い込む縄が擦れ、擦り傷から血が滲む事にすら気づかずに。

 狂気に囚われたアウリスをサウザーは見ていられなくなる。


 彼が目を背けた。その時、見ているだけだったアシュメが前へ出る。

 彼女はアウリスの首を締め付けると木に追いやりニンマリと溶けそうな笑みを浮かべていった。


「そんなに望むなら……あぁ、望み通りにしてあげる♡」


 夜闇に浮かぶ様、怪しい黄緑色の星を宿した光アシュメの目は本気である。


 今すぐにでも行ってしまいそうなほどだった。


 アシュメの恐ろしい眼差しを前に喚いていたアウリスから狂気が抜け落ちていく。


 彼女はか弱い子鹿の様に震え始め、涙を滲ませる。


 蛇の様にゆっくりと締め付けていく相手に息ができなくなる。その時、青年の手がアシュメを止めた。


「やめろ」


 サウザーは普段よりも低い声で呟く。

 彼は静かに、されどはっきりとした口調で言った。


「そこまでする必要はない」


 短い言葉だったが、アシュメには十分、伝わった様でゆっくりとアウリスの首から手を退けてくれた。


「ありがとう。すまない」


 お礼と謝罪を話すサウザーにアシュメは肩を窄める。


「謝る必要はないわ。勝手に手を出していただけだもの」


 彼女の言葉に何か言うわけでもなくサウザーは静かに微笑む。

 彼は疲れ切った様子で呟いた。


「ご飯にしよう。馬車から少し食材を借りて……」

アウリス、見っともないから暴れないで、ほら、乳房が零れてしまうよ。

何年も前に命拾いしても彼女の運命は変わらなかった。そもそも、相手は殺さなかっただけですからね。

何も変わるはずがない。それどころか、楽に終われない様にしてしまった。もし、その男が生きているなら、きっと、とても悲しい顔をしたんでしょうね。

サウザーは彼女の恨みつらみを浴びて、心をすり減らしてしまっている。

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