正体不明の刺客と痺れるバーガー Lv.5(十話)
狩る側から狩られる側に回ったアウリスは急いでその場を離れる。
(一体、どう言う事?)
魔法妨害の粉の効果は切れていない。
それなのに鳥使いは力を取り戻した。
森の隙間を縫って黄色く輝く鳥が追ってきていた。
彼女は慌てて魔法妨害の粉を再びばら撒く。
空高く撃ち上げられた矢は花火の様に爆ぜ、花吹雪の様に散っていった。
魔法は使えない。だと言うのに、鳥は消えず、増える一方だ。
(あり得ない! 彼は魔法使いでしょ、何で魔法が消えないのよ!)
アウリスは追ってくる鳥を同時に、かつ正確に撃ち落としていく。
(魔法の代わりになる方法なんてあるはずが……)
無い、魔法妨害がされて使える魔法など上げるのにも難しい。
そんな技術をあんな赤子が持っているはずがないのだ。
(とにかく、一度引かないと……体制を立て直して次は確実に仕留める)
まずは、逃げる事が先決だ。
アウリスは黄色く光る鳥の追撃から逃れようとする。しかし、彼女は気付いていない。
死角から迫る狂気の悪魔の存在に。
耳鳴りはまだ、続いて周囲を聞き分ける余裕がなかった彼女は見落としていた。
敵は鳥使いだけではない事を。
突然、視界の端から誰かが飛び出して来た。
マゼンタピンクのロングヘア―に、暗闇の中、怪しく光る黄緑色の邪悪な眼差しをした旅の女が行く手を塞ぐ。
「はぁ〜い、怯えないで。た~くさん可愛がってあげるから♡」
アウリスは咄嗟に矢を握りしめて、突き立てようとした。たが、簡単に受け止められてしまう。それどころか、手首を掴まれ、ぐるりとひっくり返されてしまった。
反撃の隙もなく、アウリスはとうとう捕まってしまう。
弓使いを捕まえたアシュメを雷鳥越しに確認したサウザーは、ゆっくりと馬車の方まで戻ってくる。
ほんのりと自身の体から漂う甘酸っぱい香りを気にしていた。
馬車の方まで戻ると、少し離れた木陰で休む幸たちを発見する。
「幸……大丈夫かい?」
言葉が上手く出せない。
自分がどんな顔をして彼女に尋ねているのか、とても、心配になった。
普段通り笑顔で聞いているのか、それとも無表情なのか、そして、どんな顔をすればいいのか分からなくて怖い。
サウザーの呼びかけに目を瞑っていた幸は、目を開けて小さな声で頷く。
「うん、大丈夫だよ……サウザー、そんな顔しないで」
幸が無理に笑おうとしている。
間違った表情だった様だ。でも、幸には申し訳ないが変えられない。
変え方を知らない。
モヤモヤとした思いのまま、彼は幸の前にしゃがみ込む。
「いつまでも矢を刺しっぱなしにしてはいけない。傷薬は持って来ている。痛いと思うが抜いていくよ」
サウザーの言葉に幸は歯を噛み締めながら頷いた。
そう多くない矢を一本ずつ、丁寧に抜いていく。
この時、彼女は一言も悲鳴を上げず、堪えていた。
その度にサウザーは自身の弱さを思い知らされる。
(これじゃ守れない……また、奪われてしまう……幸も、あの子も守る事なんて出来ないんだ……)
丁寧に幸の治療に没頭していた。
彼女の治療と自身の心が落ち着いて来た。ちょうどその時、アシュメが戻ってくる。
サウザーはここで初めて敵の正体を知る。
彼は思わず息を飲み込んでしまう。
艶やかな金髪に、息を呑む様な美しいエメラルド色の瞳をした女性だ。
耳元には丸い耳当てを当てていた。
細長い耳がない以外はアシュメの言う通り、エルフの特徴をしている。
アシュメの背後から連れてこられた彼女は逃げられない様に縄でキツく結ばれていた。
身動きが取りづらく、無理やり姿勢を正されている。
さらにロープで首を繋がれてアシュメの手にしっかり握られていた。
「……!」
サウザーはハッと驚き目を背けてしまう。
「アシュメさん、どうして捕まえるのにそんな風に身体中を縛るんですか?」
よくない物を見たサウザーは目を背けて、アシュメに尋ねる。
純真無垢でいた青年に彼女はケラケラと笑いながら話す。
「逃げない様にする為よ。な〜にを思ちゃったのかしら、小鳥の坊や♡ これはバシレイア流の拘束術よ。今度、教えて、あ、げ、る♡ それにこの子は私の邪魔をした。つまり、看守の邪魔をした罰で多少の恥は感じてもらわないと。いいじゃない、どうせ、大衆の前に晒し出すわけじゃないんだから……あっ、でも、貴方がいいならここで♡」
「あぁ、あぁ、それ以上は何もしなくていい。僕らの方で引き受けますから」
よからぬ事を口走りそうになったアシュメに、サウザーは慌てて話を逸らす。
残念そうに唇を尖らせる彼女を横目に、サウザーは辞退の収集に当たった。
手始めにランサン郵便協会に救援を呼ぶ事にした。
生き残った雷鳥を連れ戻し、手紙を簡潔に書き始める。
「私は何も話さない。殺すならさっさと殺して」
捕まった弓使いアウリスは険しい顔を浮かべて、サウザーを睨む。
覚悟を決めている者の顔だ。
腹を括った相手など骨が折れるとサウザーはため息を吐く。
「別に貴方を殺す気はない」
サウザーは言いながら雷鳥に手紙を持たせて、空高く飛ばすのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
鳥使いの恐ろしい所は雷鳥による人海戦術……鳥海戦術? 物量で押して来るところです。
アウリスも彼の得意分野に押し負けてしまいました。途中まではとても良かった。
本人は思っていないけど、遊ぶ癖がなければ確実に終わらせていたかもしれません。
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