正体不明の刺客と痺れるバーガー Lv.5(九話)
エルフは存在する。
はるか昔から生きてきた彼女たちは決しておとぎ話の存在ではない。
アウリスもその一人である。
艶やかな金髪に、エメラルドの様に煌めく瞳をした美しい女性のエルフだ。しかし、彼女にはたった一つ欠けている物がある。
エルフの特徴とも言える細長い耳がアウリスにはなかった。
それでも音を聞き漏らす事は決してない。
深い森に隠れていたアウリスは、静かに耳を澄ましていた。
空気の音を伝って些細な情報すら目で見るよりも分かる。
遠く離れた場所で森を駆け抜けていく青年の足音がはっきりと聞こえていた。
草木を払いのけて放たれた矢を叩き落とす。
骨のある人物である。しかし、アウリスには関係ない事だ。
単なる標的でしかない。
彼女の目的は鳥使いの排除。
あの青年が食の国リトラルに来てから物流や警備が強化された。しかし、それをよく思わない連中も多くいる。
今回の依頼人もその一人だった。
「厄介な相手だと聞いていたのですが……拍子抜けですね」
アウリスは呆れてため息をこぼす。
「半世紀にも満たない赤子じゃないですか」
何も知らない赤子はアウリスの仕掛けた罠に何も知らず、走り続けていた。
お陰で簡単に、赤子を始末できる。
彼女はずっと後ろの方から常に動向が分かる様に監視をしていたのだ。
気づかれない様に、向かい側から撃って見せていただけだった。
「そう、こんな風に……」
肩に携えた矢をスッと取り出す。
僅かに湾曲した矢をアウリスは慣れた手つきで弓に番える。
木材が擦れる音。
弦に引っ張られて軋む音がよく響く。
アウリスは木陰の隙間を狙って遠く離れた青空に矢を向ける。
一瞬の合間に彼女は森に溶け込んでいく。
深く息を吸って、吐き出した。
ピンッと高い音と途切れる様な音と共に空へ撃ち出される。
矢は真っ直ぐと飛んで行き、空高くまで行く。
ある程度、登っていくと突然、思い返した様に身を翻して地面に向かって行った。
その時にはもう、アウリスがいた場所から遠く離れ、標的である鳥使いに向かう。
鳥使いからしてみれば、目の前から矢が飛んでくる様に見えているに違いない。
お陰で彼は場違いにも人質から離れていき、山の方へと向かっていってしまう。
本当に始末が楽になる。
アウリスは口元を僅かに緩ませて、再び矢を番えた。
次は真っ直ぐに伸びた矢だ。
矢の湾曲の違いによって飛び方が変わっていく。
彼女は先程と同様に青空へと向けて狙いを定める。
鳥使いの動きを聴き分けた。
彼は今、山の傾斜を登り始めている。
本当に自分を探す気あるのだろうか?
笑ってしまいそうな疑問を浮かべてしまう。しかし、そんな疑問、些細な疑問など数千年生きていれば意味もなくなる。
アウリスは最後の止めに矢を撃ち出した。
空高く飛んだ矢は山形に弧を描き、真っ直ぐと落ちる。
草をかき分けて、自分を探していた哀れな鳥使いの後頭部目掛けて飛んで行く。
避ける事は出来ない。
耳を済ませながら彼女はクスリと笑みを浮かべる。
「まぁ、当然だけど……頭に当たったみたい。脳髄の血が垂れる音がよく聞こえるわ」
後は逃げ出そうとする人質を片付けるだけだ。
アウリスは腰に巻きつけた鞄から干し肉を取り出してつまみ食いをする。
「丁度いい頃合いに仕留められた……一度、食べてからにしましょう」
硬く平たい干し肉を指と指の間を転がしながら呟く。
これは聴覚を極限まで高める事のできる干し肉である。
初めは何が何だか、分からず苦しむ事になったが、慣れてしまえば便利な道具だ。
硬く噛みちぎるのに力がいる。
パサパサな触感とジューシーな肉の旨味、しつこい塩気で携帯食料としてこれ以上適している物はない。
アウリスはしっかりと噛み潰して飲み下す。
耳鳴りと共に周囲の様子が頭の中で鮮明に広がっていく。
木陰に隠れて助け合う人質たちの様子がよく分かる。
アウリスは背中から紫色の矢を弓に番えた。
これは獰猛なキメラから手に入れた血を三日間、染み込ませて作り出した毒矢だ。
掠れば体が痺れて動けなり、やがては死に至る。
狙いを定めて耳を済ませた。その時、アウリスは耳を疑った。
彼女は目を見開き、はるか遠くの景色に驚く。
「危ない所だった……」
森を超えて、山へ入ろうとする中でピリピリと雷の音。
「あり得ない……」
唖然とする彼女が聞いたのは、先程、罠にハマってまんまと撃ち抜かれたはずの鳥使いの声がハッキリと聞こえた。
彼は地面に座り込み、一人呟く。
「ずっと気になっていたんだ。どうして姿を見せずに僕たちを狙う事が出来たのか?」
彼は淡々と語りかける様に話す。
「視野の届かない場所から矢が飛んで来た。僕たちのすぐ側にいないという事になる。なら、遠くから自分たちを見ていたと言う事になるだろう。だけど、それは違う」
サウザーにはアウリスの姿が見えている様に聞こえる。
敵を見つけて、真実を語る様に彼は話し続けた。
「馬車から離れた僕やアシュメさんを狙わず、幸たちを狙って、僕たちを追い詰める事が出来ずにいた。そこに何らかの理由があるとしたら、僕たちが狙いない場所にいたからだ。弓使い、貴方の腕なら見えていたら狙えるはずだ」
彼の周囲に高密度の雷が走っている。
「見えない場所から撃っていたと言う事は、僕たちの事を耳で把握していたに違いない……僕はそう、仮定した」
サウザーはため息をこぼして笑う。
「ここまで追い詰められたのは久しぶりだ。貴方はきっと腕が立つのでしょう。最初の数手、仲間を撃って注意を逸らし、攻撃の手を潰す。おまけに、魔法封じの粉をばら撒いた。貴方のやった全てが僕の動きを封じ込んだ……」
姿も正体も分からない相手にサウザーは賞賛するのだった。
彼は息を大きく吸い込み、立ち上がる。
周囲を纏っていた雷は一箇所に集まって、音が収縮しているのが聞こえてきた。
「だけど、僕も負けられないんだ」
彼の背後にあった何かが、破裂する。
果肉が飛び散り、血液に似た果汁が滴っていく。
アウリスが撃ち抜いたのは鳥使いの頭ではない。
そこら辺に生えていた大きな果物だったのだ。
今、果物の中から一羽のオウムが姿を現す。
ピリピリと痺れる音を立てながら毛繕いをするオウムは、次の瞬間、大爆音の叫び声を上げる。
聴力を上げていたアウリスの耳には音ではなく震える様な衝撃として全身に伝わっていく。
キーっと耳鳴りが響き、周囲の音が聞こえなくなる。
木の上に隠れていたアウリスはバタンと地面に落っこちてしまう。
何も聞こえなくなった事で状況が最悪になる。
アウリスはよろめきながらも、急いで走り去っていくのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
論理的推理をして敵の正体を手繰り寄せていく様子はとてもかっこ良かった。
果肉まみれの姿なのが唯一の残念感がありますがここから反撃の開始です。
「リトラルの鳥使い」面白かったらぜひ、ブックマーク高評価をお願いします。
また、お気軽に感想など書いて言って下されば励みになります。
他作品も書いていますのでよろしければ、そちらも読んでいただけると嬉しいです。
よろしければ、X(Twitter)のフォローもお願いします。
https://x.com/28ghost_ran?s=11&t=0zYVJ9IP2x3p0qzo4fVtcQ




