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正体不明の刺客と痺れるバーガー Lv.5(三話)

 人混みに押され、進みたい方へ行けない幸はどんどん流されていく。

 幸な事にそう遠くない場所で戻って行ける様になった。

 流れに逆らいながら少しずつ元の場所へ向かって行く。


「うんん……流石に押し流されるぐらい多いなんて思ってもみなかった」


 肩を落としながらボソリと呟く。

 離れた場所に、綺麗な金髪に旅のマントを羽織った青年の姿が見える。

 手には長い杖が握られていた。


 間違えなく彼だ。


 飴みたいな水色とピンクのカラフルな髪の色の少女が怪我をしていて彼が看病していた。


 幸はホッと胸を撫で下ろす。


 すぐに見つけることが出来た。


 安堵のため息を吐いた直後、彼女の背後から、ぬるりと腕が体に絡みつく。


「ひゃ……!」


 突然の事にゾッとする。


 思わず声を上げて、助けを求めようとした。しかし、何者かに口を覆われて叫べない。


「ん……んんー!」


 必死に踠こうとする幸に襲って来た相手は、ドロっとした甘い声色で囁く。


「気持ちいいのは分かるわ♡ でも、喘ぐのはもう少し我慢してちょうだい。あんまり、うるさくするとあなたの胸をグサッとするわよ」


 絡みつく腕は静かに下がる。


 代わりに銀色のナイフを視界の端でちらつかせた。

 体のすぐそばで凶器を見せられた幸は、下手に争う事ができない。


 ゾッとする恐怖に心臓がドクドクと鼓動する。

 乱れる呼吸に襲撃者はクスクスと楽しそうにしていた。


「ここじゃ、騒げないから少し静かな場所に行きましょ。大丈夫、私がエスコートしてあげるわ♡」


 生暖かい舌が幸の耳を舐める。


「……!」


 背筋が凍り、心臓が止まると思った。

 幸は裏路地へと連れて行かれてしまう。


 晴れやかな通りとは対照的に暗い裏路地は冷たく、行き交う通りが白く見えた。


 連れて来られた幸は突き飛ばさる。


 一瞬、口から手が離れたが、息つく暇もなく再び口を塞がれてしまう。


 幸は腕と口を掴まれながら壁に押さえつけられた。


「ほ~んと会いたかったわ〜私の城から逃げるなんて、いい度胸しているわよね。幸ちゃ〜ん♡」


 怪しく輝く黄緑色の瞳に、マゼンタピンクのロングヘアーの女性。


 幸は彼女の事を知っていた。


(アシュメ・ダイ⁉︎)


 神の国バシレイアの北西にある森。

 そこの古城に作られた監獄ファドン刑務所の女看守長だ。


 彼女は囚人や部下からも恐れられる程の変態で、幸もかつて彼女の城に囚われていた事がある。

 飛んで逃げて、南の国まで訪れたというのになぜ、この女がここにいるのか分からない。


 驚く彼女の心の声が聞こえていたのか、アシュメはニヤリと笑みを浮かべて、ゆっくりと彼女の口から手を退けって、教えてあげた。


「なんで、あなたがここにって顔をしているわね。一介の看守如きが囚人を地の果てまで追いかけるなんて、誰が想像するのかしら? ねぇ」


 愛猫を撫でる様に震える幸の頬をそっとなぞっていく。

 その手は次第に下がり胸を握りつぶす勢いで掴む。


「クッ!」


 痛みを感じる幸は叫ぶ事が出来なかった。

 悲鳴よりも恐怖が勝って、彼女は誰かに助けを呼ぶ事すら、考えられなかった。

 彼女の弱みにどっぷりと浸かり込み、アシュメは邪悪な笑みを浮かべて話す。


「私、結構根に持つタイプなのよね。あなたのせいで可愛い小鳥ちゃんの子を全然、可愛がる事が出来なかったし。あなたを捕まえる為に色んな方法で探したの。まぁ、そのおかげでこうして再会出来て嬉しいは♡」


 微笑みを浮かべるアシュメの口角は上がり続け、瞳の色も黒く黄緑色の星を浮かび始める。


 その姿はまさに悪魔の様だ。


 あまりの悍ましさに幸の目から涙が滲み出てしまう。


「泣いたってダメ♡ダメ♡、もう、逃がさないわよ。脱獄囚としてまた、私のお城に入れてあ、げ、る♡」


 啜る様な音を立てて、溢れる幸の涙を舐める。

 アシュメに捕まった幸は呼吸が出来ず、苦しくなっていく。


 段々と視界が暗くなっていく。


(ヤダ……怖い……)


 ガクガクと震える足は力が抜けて、二度と動けなくなりそうになる。

 このままでは狂った看守長に身も心も人生もめちゃめちゃにされてしまう。


 怯える彼女は必死に助けを祈った。


(助けて……サウザー……)


 その時、つんざく様な鳴き声が聞こえてくる。


 怯えていた幸は聞き覚えのある鳴き声に目を開いた。

 青空を飛んでいた黄色い雷鳥が一直線にアシュメと幸の間を通り抜けていく。


 突然の事に驚いたアシュメはパッと幸から腕を退ける。


 僅かな希望に幸は引っ張られる様にして、裏路地から抜け出して行った。

 彼女は人混みを押し除けて、アシュメ・ダイから逃げていく。


 息も吐かず走り続け、もう走れないと足を止めた時、彼女はようやく、サウザーの元まで戻って来られた。


「はぁ、はぁ……助かったの?」


 肩で息をしながら自分が無事な事に驚く。

 彼女はチラリと走ってきた道を振り返る。しかし、多くの人混みでよく分からなかった。


 頬を伝う涙を拭き取る。


 飴色の髪の少女を見送るサウザーを見ながら、幸は小さくお礼を言った。


「ありがとう……」


 彼の使役する雷鳥によって命拾いしたのだ。

 用を済ませた彼は一息ついて、振り返る。


「おや、戻って来られたんだ」


 安堵する彼だったが、幸の異変に首を傾げた。


「幸、何かあったのかい?」


 心配する彼に幸は口を開きかける。しかし、彼に余計な負担をかけたくないと思った彼女は口をつぐみ、首を振った。


「うんん、なんでもない」


 幸の返事に納得いかない彼は眉間を寄せる。


「そうか、無理はしないでくれよ」


 だが、それ以上は聞いて来ないでくれた。

 彼の優しさに幸は胸を撫で下ろす。


(ごめん、サウザー。でも、あんな女、優しい貴方が知らなくていい存在だよ)


 そう思いながら幸は何事もなかった様に振る舞おうとした。その時、一羽の雷鳥がサウザーに飛んでくる。


 先程、助けてくれた子かと思ったが違った。

 雷鳥は手紙を一通、サウザーに届けにきてくれた様だ。


「マチルダからだ」


 サウザーは黙って手紙を広げた。

 しばらく、内容を読んでいた彼に幸はどんな事が書かれていたのか、尋ねてみた。

 幸がいた事を一瞬、忘れていたのか、彼は思い出した様に彼女の方を向いて答える。


「依頼だったよ」


「なら、早速……」


 早速、こなしに行こうと思った幸だが、自体はそう単純でもない様だ。


「君は来ない方がいい」


「どうして?」


 不思議がる幸にサウザーはバッサリと答える。


「危険だからだ」


 手紙を鞄にしまいながら話す。


「この依頼はランサン郵便協会との関係が深いドラード家からの依頼で緊急だ。レベルは五……最も危険な依頼になっている」


 正直、君を守りながらこなせるか怪しい、とサウザーは俯きながら答える。

 ランサン郵便協会では、一から五までの五段階でレベルが分かれている。


 依頼の距離、危険性、機密度などによってレベルが決められていた。

 その中でもレベル五は最も報酬が高い代わりに危険な依頼である。


「そうある仕事じゃない。出来れば、確実に完遂したいんだ」


 報酬を手に入れたいサウザーは幸がついてくる事を拒む。

 彼の気持ちはすごく分かる。しかし、幸は彼の思いを無視してしまう。


 一人になるのが、本当はたまらなく恐ろしかった。しかし、彼女は本心を言えずに明るく笑みを浮かべて答える。


「私も着いていく。危険な依頼なら一人で解決するよりも、二人で力を合わせた方が絶対に良いはずだよ」


 普段よりも食い気味に答えた幸にサウザーは驚く。だが、彼女の言葉にも一理あると小さく頷く。


「助けてやれる保証はできない。それでもいいなら……着いてくるかい?」


 彼の問いかけに幸は迷うことなく答えるのだった。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

はい……滅茶苦茶お触りしております。こそこそする痴漢も気持ち悪いですけど、あそこまで行くと怖いですよ。なんですか、あの女は?

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