正体不明の刺客と痺れるバーガー Lv.5(二話)
行き交う人だかりの中でサウザーと幸はホクホクの串焼きをほうばりながら歩いていた。
依頼の荷物を運び終えた二人は次の依頼を貰いにランサン郵便協会へと向かっていたのだ。
「なかなか、前に進めないね」
溢れそうな串焼きのタレを手にすくって舐めながら幸は言う。
「そうだね。これなら飛んで行った方が早く戻れたかもしれない」
もぐもぐと串焼きを食べながらサウザーは進めない事に少し焦っていた。
「まあ、もうすぐ祭りだから仕方ないのかもしれないね」
「そうなの? 祭りって当日が一番混むんじゃないの?」
彼の言葉に幸は思わず首を傾げる。
祭りの時は、確かに混むのは当然だ。しかし、この国ではまだ、前夜祭も行われていない。
混むにしては早すぎる気がした。
「まあ、こっちに来る人が多いからね。祭りと一緒に観光で早めに来る所も多いんだ、おっと……」
何気ない会話をしながらゆっくりと進んでいたサウザー。しかし、ふと、隣を見ると幸の姿がいなくなっていた。
辺りを見渡すと遠くに流されていく彼女の姿が見える。
「あ、幸!」
後を追いかけ様とした。その時、トンと隣を歩いていた人にぶつかってしまう。
「わぁ!」
「あっ、すみません!」
運が悪かった。ぶつかった人は踏ん張りきれず、倒れてしまう。
うつ伏せに大きく倒れた相手は、抱えていた紙袋を地面にばら撒いてしまった。
中に入っていた食材はあちこちに転がっていって行く。
サウザーは思わぬ出来事に目を丸くしてしまった。
遠くなる幸を見てから、すぐに倒れてしまった少女に声をかける。
「だ、大丈夫ですか!」
「イタタタ、うん、あたしは大丈夫!」
慌てて起き上がる彼女はドロっと鼻血を垂らしながら言った。
「大丈夫じゃないですよ。僕のハンカチを使ってください」
サウザーはハンカチを取り出して少女の鼻をそっと抑える。
周囲を通りかかった人たちも転んだ少女を心配して足を止めていく。
散らばった食材を拾い集めていく者も現れた。
「えへへ、皆さん、ありがとうございます」
健気に笑う少女は水色とピンクの二色が交互に並んだ髪に、パッチリと大きな目をしている。
半袖とミニスカートの上からフリル付きのエプロンを羽織った彼女は、おそらく、どこかのレストランの見習いだとサウザーは思った。
様子を伺っていると少女は頭をかきながら話す。
「あたし、すっごくドジで仲間からはこのマヌけって揶揄われたりするんですよ。でも、その分、体は丈夫なんで、鼻血も止まるんだよ。ほら! ハンカチ返しますね」
ハンカチを退けようとした側からドバドバと再び鼻血が溢れ出す。
「いえ、もう少し鼻に当てていてください。本当……すみません、買い出しの最中に」
軽くぶつかっただけでここまで酷い怪我を負わせるとは夢にも思っても見なかった。
サウザーは眉を下げて謝るしかない。
「そんなに悲しい顔をしないで下さい。あぁ、そうだ! あたし、料理人なんです。今度、ご馳走しますよ!」
「いえ、そんな!」
「あたし、デセール・メリーヌと申します。担当はデザートですけど、メインもスープもなんでも作れちゃうよ」
断ろうとしたサウザーだが、デセールの勢いにかき消されてしまう。
彼女は腕を持ち上げて力瘤を見せる。
怪我をさせたのに、無碍に断ることもできないサウザーは諦めた様に目を瞑った。
彼は静かに答える。
「ぜひ、今度、食べに行きます」
サウザーの返事にデセールはクスリと微笑みを浮かべる。次の瞬間、大きな目はさらに開き、突然、叫び出した。
「あー! それに触っちゃダメ!」
食材を拾い集めていた一人を呼び止めようとする。
視線の先には大きく実った刺々しいパイナップルが転がっていた。
ピリピリした空気にサウザーは慌てて手から雷鳥を放つ。
黄色く輝く雷鳥は素早く地面を這う様に低く飛んで行った。
パイナップルを拾おうとした人は、目の前を横切る雷鳥に驚き腕を引っ込める。
同時に雷の様な光を放つ。
一体、どうしたのか分からないサウザーにデセールは立ち上がり、パイナップルに近づきながら話す。
「その食材は、と~ても危険! 雷がよく降る森に生えているんだけど、触れたらビリビリってなっちゃうんだ。だから、最低でもこんな風に挟んで」
彼女は他の食材を使って器用に挟む。しかし、力加減が難しく腕を交差させて滑らせてしまう。
デセールの腕に刺々しいパイナップルがぶつかる。次の瞬間、眩い光と共に彼女の叫びが市場に広がってしまう。
雷に打たれる様に感電してしまった彼女はピクピクと魚の様に震える。
焦げ臭い匂いにデセールはケホッと咳き込む。
「こんな風に触ると危険なの! だから、絶対に素手で触っちゃダメ、」
くるくると目を回しながら彼女は周囲の人に忠告する。
デセールの体を張った忠告に周囲の人々は唖然としてしまう。
中にはその狂った言動に距離を置く者も現れた。
気づけば、いつも通り道を行く人々だけに戻ってしまう。
デセールは去って行く人々に気づいておらず、首を傾げる。
彼女は拾い集めてくれた人々から袋を受け取ると黙々と落ちた残りの食材を集め始めていた。
ただ一つ、刺々しいパイナップルだけが拾えずにいる。
何かで挟もうとしても滑り落ちて上手く取れない。
「あーもう、逃げないでよ〜君は皮を剥けばそのままでも食べてもらえる手間のかからない商材でしょう? なら、取られる時も大人しくしてってば」
上手く取れない事に困ってしまうデセール。
この状況を見ていたサウザーはゆっくりと立ち上がり、歩み寄る。
地面に転がった刺々しいパイナップルを手に取ろうとした。
「ダメ! 痺れちゃう」
大きな目を見開くデセールだったが、サウザーは何事もなく拾い上げる。
驚く彼女はサウザーに尋ねた。
「痺れないの?」
彼は静かに答える。
「少し……」
ほんの僅か、手にチクチクとする痛みだけが続くだけだ。
彼はパイナップルを袋の奥に入れる。
「これで食材は全部かな?」
そう言いながらいつの間にか止まったデセールの鼻に残った血を拭き取った。
刺々しいパイナップルを素手で拾った事がそんなに珍しいのか、デセールはポカンと立ち尽くしている。しかし、やる事を思い出した彼女は首を振って叫んだ。
「ありがとうございます。いや〜鳥使いさんは優しいですね」
ニンマリと笑みを浮かべて言う。
「当然です。紳士ですから」
サウザーは肩をすくめて返す。
こうなったのは自分の責任でもあるから、当然である。
ハンカチをしまおうましたサウザーだったが、突然、デセールが無理やりハンカチを袋に入れて奪う。
「ああ、ハンカチはあたしが預かりますよ。今度、綺麗にして返しますね。あ、あとあと、ぜひ、あたしの料理食べに来てください! 絶対ぜーったい、空っぽの心を満たしますから!」
足早にさっていく彼女は自身の店の名前も言わず、遠くへ行ってしまう。
慌ただしい少女にサウザーは頭をかくしかなかった。もしかすると、どこかでまた会うかもしれない。
その時に店の名前を尋ねる事にしよう。もしくは、知らずに彼女の店に訪れるのかもしれない。それもまた、いいのかもしれない。
彼はそっと息を吐いて、別れてしまった相棒を探しにいくのだった。
あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。
どうも、あやかしの濫です。
愉快で変わった子が出てきましたね。彼女が落としたパイナップルは避雷針の様に電気を浴びて、
蓄えるのでヒライパイナップルと言われています。
デセールは市場で売られていたこれを両手がふさがっている事を理由に紙袋に突っ込むことを店主にお願いしたそうです。危険な食材を雑に扱うなよ!
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