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慣れない日々と孤島の食材 Lv.1(十二話)

 食堂を飛び出したティーレは無我夢中で走り出す。

 これさえあれば、ママを喜ばせられる。


 揺るがぬ自信が上がる息を飲み込み、先走る気持ちに追いついて行く。

 人混みを潜り抜けて、お家へと向かった。


 煌びやかな大通りから外れて行くと、周りの明かりも一つ、二つと少なくなって行く。


 一寸先の見えない闇に足を掬われる。

 ティーレは転ばない様になんとか堪えた。


 足場を踏み誤ったらしい。


 転んでしまったら、大事な物が壊れてしまう。

 脳裏によぎった不安が彼女を迷わせる。


 ゆっくり歩くべきだ。


 頭ではそう分かっていた。しかし、早く届けたいと気持ちは言うことを聞かない。

 勝手に進んでいく思いに危機感を覚えてしまう。


 次に足を滑らしたら、どうなるのか、たまらなく恐ろしくなった。その時、彼女の先を一羽の鳥が飛んでいく。


 優しくも強く光を放つ鳥は、太陽の様に道を照らす。

 もしかすると黄色かもしれない。


 あの鳥に見覚えがあった。


 今日、出会ったお兄ちゃんの黄色い鳥だ。


 前をいく鳥のおかげでティーレの進む道がはっきりと見えた。

 挫けそうな石段の出っ張りや、転がった太い枝など、避けて行ける。

 ティーレは今日、いっぱい助けてくれたお兄ちゃんに、力強く背中を押してもらった気がした。


 彼女は足を止める事なく、お家へとたどり着く。


 玄関の扉を開けると僅かに照らす、蝋燭が灯っていた。

 彼女は急いでママがいる二階の寝室へと駆け上がって行く。


「おや、あの子が帰ってきたね」


 しわがれた声は静かに語る。


 ティーレは来客が来ている事も気にせず、扉を開けた。

 全力で走ったせいで身体中が燃える様に熱い。

 心臓は鳴り響き、肩で息をするのもやっとだった。


 寝室ではマントを羽織った姿勢のいい老婆がこちらを振り向いて微笑んでいる。その後ろでは、ベッドに腰掛けていたママが目を大きくしてティーレを見つめていた。


「ママ……」


 不思議と顔がニヤけてしまう。


 長い間、会えていなかったような気がする。

 グッと胸の内から込み上げる思いに目が熱くなっていく。


 ママも溢れる涙を堪えていた。


「ティーレ……」


 名前を呼んでくれた事でティーレはようやく、うちに帰れたのだと実感する。

 彼女は走り出して、ママの胸に飛び込んだ。


「ママ、ただいま!」


 ほっそりとした体でママは優しくティーレを抱きしめる。


「おかえり、ティーレ」


 優しく頭を撫でてくれた。

 くすぐったくて気持ちがいい。


 やっと帰って来られた。


 長い旅をして来たティーレは、ママにこれまでの事を急いで話そうとする。でも、まずは謝らなくては。


「ごめんなさい、ママ。でもね、でもね、ママの為にわたし、探して来たの!」


 彼女の手に持ったバスケットを差し出す。

 ママはそっと手に取って被せてあった布を捲った。


 中には小瓶が二つ、スプーンも二つ、入っている。

 小瓶の中には真っ白な蜜の花のプリンが入っていた。


「ママ! 食べよ。これね、白い蜜の花なの!」


 目を輝かせて話すティーレにママは驚く。


「本当に?」


 ティーレはその反応が嬉しくて笑みを浮かべてしまう。そして、今日であった青年と旅の話をし始めた。

あやしいものじゃないよ、あやかしだよ。

どうも、あやかしの濫です。

気持ちと行動がどうしても合わない時、焦っている時などはよくあります。

分かっていても、止まるのが勿体ないとティーレは走り続けました。そんな、彼女の行く道を雷鳥が照らしてくれるシーンはとても、気に入っています。

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