第九話 コンキョトブッショウ
角倉が部屋を物色していると、女中が呼び来た。何でも角倉に電話だというのだ。角倉が受話器を耳に押し当てると、良く知った声が流れてきた。
「どうも探偵さん。電報受け取ったよ。まさか招待状の先で殺人事件が待っていたなんてな、お話の中の探偵坊主かと思ったよ。僕はてっきり詐欺だと思っていたのに。」
「敬!」
幼馴染の氷室敬一郎。
角倉は氷室の声に思わず体の力が抜けて座り込んだ。自分でも驚くほどに体が緊張していたのだ。
「それで頼まれたことだが、調べがついた。十五年前の事件のことだが殺害されたのは寺門一郎三十八歳、寺門富子の兄だ。寺門千代三十六歳、長女の和子十六歳、次女の静子十歳、長男の信一四歳。傷跡から刺殺と判断された。その後館は何者かにより放火され、警察が到着したときには崩れ落ちていたそうだ。
瓦礫の下からは四人の遺体が発見された。」
「四人?一家は五人だったはずだろう?」
「ああ、次女だけが見つかっていないんだ。一応湖や周辺の町も探したそうだが行方はつかめなかった。遺体と言っても子供たちの遺体は焼けてほとんど形が残っておらず、警察は死亡と判断したそうだ。
ちなみに夫婦の遺体は応接間に、長女と長男の遺体は長男の子供部屋だったと思われる場所にあったそうだ。」
「その時の使用人たちは?」
「夜だったため、使用人はそれぞれ家に帰っていたそうだ。十五年前とあって調べるのに苦労した。役に立ったか?」
「あー、いや、実は犯人はもう目星はついているんだ。答え合わせが出来た。」
「は?目星がついているんだったら最初からそうと言え。」
「ははっ、ごめんごめん。でも敬の声が聞けて良かったよ。思ったより力んでいたみたいだ。ありがとう。」
「殺人現場だぞ、そりゃあそうだ。じゃあな。」
ぶっきらぼうに切れた電話に角倉は思わず笑みをこぼした。氷室は感謝され慣れていない。照れたのだ。
角倉は再び口を結ぶと、警部の元へ戻った。
「角倉、今連絡がきた。林田末子の家から赤いインクと紙、まだ送られていない脅迫文書が見つかった。それからえらいもんも見つかった。
手紙が見つかったんだ。大部分は燃やされていたようだが、一部分燃え残ったようだ。手紙にはかくかくの字で最近ある人に毒を調達するよう頼まれたとあった。ある人の部分は焦げてしまっていたが微かに潰れた力という文字が見て取れた。
あとこれは役には立たんかもしれないが、捜査した者は文章から差出人は末子ととても親しい間柄であるような印象を受けたそうだ。それにしても、手紙の端っこが今回の事件と関係していた場合、林田末子が殺された原因になった可能性があるな。毒の調合を依頼したのは名前に力が入る人か。
にしてもこの差出人は誰なんだ?毒を調達できる職種は限られるが、それを横流しにするとなるとこいつは危険な人物だろうな。まったく嫌な奴が関わってきたものだ。」
「もしかしたら、差出人は十五年前の殺し屋かもしれませんよ。」
「なに、なぜ分かる?」
「分かりませんよ、ただの勘です。」
警部は角倉の顔を見て鳥肌が立つのを感じた。穏やかなほほえみに静かに開かれた目、笑っていない目には獲物を狙う獣のような黒さがある。二人はそのまま他の人がいる部屋に上がっていった。
「ヒック、お二人さんどこに行っていたんだ?」
部屋に入るとお酒の臭いを放つ勇が肩を組んできた。角倉はその腕を払い、勇を椅子に座らせると、いたずら少年のような声で答えた。
「ちょっと、宝探しに。」




