表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵角倉聡介~水鏡湖のセイレーン~  作者: はつき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/11

第八話 ギネン

 角倉は部屋から走り出ると、富子が倒れた部屋に向かった。


(なぜ、富子はあの部屋で人々を見張るように依頼したのか。そもそも空いている部屋持て余すほどにあるのに、なぜあの離れた二階の部屋だったのだろうか。隣にも部屋はあるのに。偶然か、それとも何か意味があったのか。)


部屋は町に面した側とは反対側の二階にあった。角倉は首元をさすった。頭の中にあの時の映像が流れる。


(赤いドレスを身にまとった富子はにこやかに僕を迎え、他の人々を紹介した。その間誰も不可思議な動きをした者はいない。いや、一人いた。一見不思議には思えないが、よく考えると効率的でない行動を起こした人物が。)


角倉は窓に近寄って目を凝らしたが段々と強まった雨のせいで何も見えない。すると角倉は何を思ったのか今度は傘も持たずに庭に走り出た。


薄暗い庭には丁寧に手入れされた低木が連なり、愛らしい花が雨に打たれている。ふと庭の隅に目を向けると細々と一本の木が立っていた。


傘を探していた警部が遅れてたどり着くと、角倉はびしょ濡れのまま突っ立っていた。視線の先の茂みには鞄が一つ。鞄を見つめる角倉の目は驚くほど静かで何かを悟ったようであった。



 重い鞄を屋根の下に運び込むのは思いのほか大変だった。というのも角倉はとんでもなく非力なのだ。結局角倉は鞄のひもを引っ張る程度で大方は警部によって担ぎ込まれた。

鞄を開けると濡れた紙幣たちが顔を出した。



「こりゃあ、とんでもない額だ。ここの家主はどんだけ不用心な人だったんだ?」



警部が他の刑事たちを呼んで紙幣を数えていると、濡れた髪を拭いていた角倉が不意に言った。



「警部さん、林田末子は寺門富子を殺していません。」



警部は言葉の意味を理解していないのかしばらく固まると、聞き返した。



「なにを言っているんだ?どうしてそう思う?」



「林田末子がこのお金を要求した人物である可能性が高いからです。

寺門富子が私に依頼したのはある部屋に集まる数人がおかしな行動をしないか見張ることです。私がこの部屋に足を踏み入れその数人を紹介された後、寺門富子は私に目配せをしました。あの目配せが合図であると仮定すると、私に依頼があった部屋は先ほどの現場の部屋であると解釈できます。

それから気づくのが遅くなりましたが、あの部屋にいた間、一人だけ効率的でない動きをした人がいるのです。

林田末子は窓の反射で髪を直していました。」



「その行動のどこにおかしな点があるんだ?私も良く窓の反射とか身だしなみを直したりするが。」



「外出中とかふと目に入ったときに窓の反射を使うことはあるでしょう。しかし、あの部屋でその行動を、しかも窓際まで移動して行うのはおかしいのです。」



警部はあごの髭をいじりながらしばらく考えるしぐさを見せた。



「鏡か。」



「はい。あの部屋には大きな鏡がありました。近くにより鮮明に反射する鏡があるのに窓を使うのはいささか効率が悪い。ではなぜ窓を使ったのか。窓の外にあるものさりげなく見るとしたらどうですか?」



「そうか、あの部屋の窓からはちょうどこの鞄のあった庭が見える。

しかし、仮にお金を要求したのが末子だとして、なぜ富子殺しの犯人から外れるんだ?お金を手に入れて、脅したことが他の人にばれないように口封じをしたという事も考えられる。」



「いえ、もうすぐお金が手に入るのに寺門富子を殺して騒ぎになって容疑をかけられ、挙句の果てにはお金も手に入りにくくなるなんてこと、普通の人なら望みません。人間は面倒なことを嫌う生き物です。しかし、たしかにこれは推論で仮定しなければ成り立ちません。証拠が見つかれば話は別ですが。」



「今末子の家を捜査している。何か見つかり次第君に伝えよう。しかし末子が殺していないとすると、末子の自殺の線は薄れる。また振り出しだ。一体犯人は誰なんだ?」



警部は大きくため息をつくと、近くにあった椅子に座り込んだ。角倉も隣に座り、静かに雨音を聞いていた。



「警部さん、末子さんの遺体がある部屋も見れたりしますか?」



またも急な申し出に警部は困惑しながらも角倉を部屋に通した。





 部屋は真っ暗だった。冷たい隙間風がヒューと音を立てる中、角倉は地面に顔を近づけると、あたりを探した。



「もうこの部屋は調べつくしたぞ。何が気になっているんだ?」



「末子さんの荷物の中にハンカチはありましたか?」



「いや、ハンカチは持っていなかったぞ。」




「桃のハンカチはどこへいったんだ。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ