第六話 ダイニノジケン
食堂に着くと、すでに畑山勇、村田文子、中川清重、北村健介が着席していた。あるものは仏頂面を、あるものは少々やつれた顔をぶら下げていた。角倉が席に着くと、後から入って来た警部がようやく言葉を発した。
「おはようございます。皆さん、お揃いですかな?あれ、林田さんはどちらに?」
「そういえば、今日はまだ末子さんを見ていないな。」
部屋に不穏な空気が流れた。
「私、様子を見てまいります。」
「いや、私が行こう。皆さんはこの部屋にいてください。」
警部は外で待機していた女中に案内を頼むと、足早に部屋を出て行った。二人が出て行ったあと、部屋に残された居心地の悪い空気に耐えかねた健介が苦しげに唸った。
「はあー、まったくどうしたものか。昨日と今日だ。嫌な考えが浮かんで仕方がない。」
「きっと、部屋に籠っているだけですよ。私たちもそうですが、特に林田さんは昨日ずいぶん取り乱していましたから。ご友人を目の前で亡くしたのですから無理もありません。」
頭を抱える健介を秘書の清重が冷静な声でなだめた。角倉は席についている他の人たち、いや今は被疑者たちを見つめた。苦しげな表情や真剣なまなざし、固く閉ざされた口が並んでいる。ここにいる誰もが頭に片隅に同じ考えが浮かんでいた。
「ぎゃーーー!」
突如、悲鳴が館を揺らした。心臓が跳ね上がる。どこからの声かすぐに分かった。部屋を飛び出し、息を切らしながら階段を上がると女中が座り込んでいた。開いた扉の向こう、暗い部屋の中に人影が浮かんでいる。警部が言う。
「全員入ってくるな!」
角倉たちは部屋の捜査が済むまで別の部屋で待機することとなった。
角倉はめまいを感じていた。こうなる可能性は確かに頭に浮かんでいた。しかし同時にまさか小説じゃあるまいしと、油断していたのも確かだ。その油断が新たな死体を生み出した。自分は止められたはずなのに、一人の人間が死へと向かうのを許してしまった。
頭の中がうねるのを感じながら女中に電報を頼むと角倉は部屋の隅に座り込んだ。静かな部屋に雨の音が微かに響き始めた。時計の正午を知らせる鐘の音と共に警部が部屋に入って来た。
「ごほん、混乱しているところ申し訳ない。察した人も多いだろうが、林田末子が亡くなった。死因は首が圧迫されたことによる窒息死。現場には遺書が残されていたことから我々は自殺と見ている。また遺書より林田末子が寺門富子を殺した犯人である可能性が高いことも分かった。」
「遺書?それはどういうことだ?」
他の者が警部の言葉に困惑する中、驚いた様子で勇が声を荒げた。
「私、林田末子は寺門富子を殺しました。自らの死をもってこの罪を償います。」
警部は咳払いをすると、持っていた紙から読み上げた。内容が内容なだけに、騒いでいた勇も口をつぐむしかなかった。
「その字は本当に末子さんの字ですか?」
「うわっ、角倉さんか。その、この遺書をまもなく鑑定に送る予定なんだが、あまりに弱弱しく薄いため、鑑定に出しても思い通りの結果は得られそうにない。そうだ、皆さんはこの筆跡に覚えはありませんか?」
そう言うと、警部は紙きれをその場にいた者に見せた。紙に連なる字は鉛筆で書かれたものと見え、警部の言う通り筆圧は薄く、まるで書いた人の衰弱した精神状態を表すかのようであった。
肝心の筆跡については誰も心当たりがなかった。




