剣の名は
ちょっと現状を確認しておこう。
「なあイヴ。お前がこの剣の持ち主に封印されてから、どれくらい経ったんだ?」
「わかんないっていうか、こっちが訊きたいんですけど?」
剣もうんうんと頷いて(?)いる。
ええとつまりだな――
かつて淫魔イヴを封印した剣士がいた。
封印からある程度の年月が経過している。
銀剣曰く、すでに持ち主はこの世におらず。というわけだ。
俺は淫魔をじっと見る。
凝視すると卒倒するやつも少なくないんだが、イヴは「やん♪ 熱い眼差しで、さてはおっぱい見てるんでしょ?」と、胸を腕で隠してみせた。
丸出しがなにを今更である。
「お前はお前を封印した人間に復讐したかったんじゃないか?」
少女は目を丸くした。
「あっ……ええと……死んじゃってるんだよね。もう一度会ってみたかったけど、復讐とかそういうんじゃないかも」
嘘をついているとは思えない。
人間に封印された恨みを晴らすなら、同族の俺に恩義だの感謝だのはしないだろうしな。
「どうして封印されたんだよ?」
「たぶんエッチすぎたんだと思うの。セクシーがイキすぎるっていうのも考え物よね?」
少女は内ももをスリスリさせる。真面目に訊いたのがバカだった。
封印を解いたのは俺だ。ずっと封印されていてかわいそうだったとも思う。
だけど――
付き合ってられっか。変態魔族に空飛ぶ呪いの剣なんぞに。
「そうか。まあ、好きにしろ。俺は行くから。じゃあ二人とも達者でな」
立ち去ろうとするとイヴが俺の腰に腕を巻き付けて泣きついた。
「いかないでえええええ! っていうか一緒にイかせてええええ! 封印解いた責任とってえええええ! ダーリンしか頼れる人いないのおおおおお! 好きにしろっていうならもっともっと好きになるからあああああ!」
「変な声上げるんじゃねぇよ!」
浮遊する銀剣が切っ先を俺の喉元に突きつける。先端がぷるぷるしていた。震え声みたいなもんか?
「お前もお前で脅迫やめろや!」
俺がどうにかしてやらんと、こいつらどうにもならんかも。
「わかった。二人ともちゃんと俺の言うことを聞けよ?」
「やった~!」
喜ぶ淫魔が銀剣の水晶球とハイタッチ(?)をかわす。なんだよお前ら仲良しか?
と、思いきやイヴがムッとふくれっ面になった。
「って、この子も一緒なのダーリン?」
「どっちかだけってのも仲間はずれみたいでなんか嫌だろ」
「んもう。超優しいんだから。そういうとこも好きになっちゃう」
「うるせぇよ」
ギロリと睨めば――
「やん! 男らしくてワイルドで素敵ぃ♪ その獣性であたしのことめちゃくちゃにしてもいいんですけど?」
「しねぇから……ったく」
なにを言っても評価が上がる。無敵かこいつは。全肯定淫魔め。
ちぇーっと不平の声を上げながら、イヴの視線が浮かぶ剣に向き直る。
「ま、ダーリンのお許しなら百歩譲って珍道中の仲間に入れてあげてもいいけど。君みたいなまな板ぺたん子にも優しいダーリンに、いっぱい感謝しなきゃだよね?」
剣は水晶球を赤く点滅させた。細かく振動する。なんか、怒ってるっぽいな。また勝手にイヴに斬りかかりかねん。
仲裁しよう。
「イヴは剣をいじめんじゃねぇよ。それにまあ落ち着け剣……って、なんか剣を剣って呼ぶのも変な感じがするな。お前、名前はないのか?」
銀剣は俺の目の前に刀身を見せる。と、柄側の端にうっすらと文字が浮かんだ。
「聖力絶倫って書いてあるな。変わった銘だ」
良い剣には名前がある。ってのは、俺の育ての親だったじじいの言葉だ。しかし――
誰だよこんな誤解を招きそうな名前を、こいつの体に刻み込んだのは。




