思ってたモテ期と違う!
剣は俺とイヴの間で浮くと、切っ先を彼女に向ける。
ピンクの髪を振り乱し少女が目を丸くした。
「初キッスの相手がなんであんたなのよ!」
瞬間――
刃物が切れた。いや、刃物は切るものだろうに。
剣は刀身をしっちゃかめっちゃかに振り回しながらイヴへと向かっていく。
ミンチにでもしそうな勢いだ。
切っ先が少女に触れるより速く、俺は踏み込み銀剣の柄を掴む。
「待て待て。落ち着けって」
剣を説得するのは初めてだな。
掴んだ柄はしっくりと手になじみ、暴れる刀身が借りてきた猫のようにおとなしくなった。俺に身を委ねたのか、ずしりと重さが加わる。
イヴが頬を膨らませた。
「あっ! ちょっとダーリンにハグしてもらってなに喜んでるわけ? 刃物のくせに丸くなっちゃってええ!」
握る=ハグとはこれいかに。
俺は銀剣に視線を落とす。
意思どころか感情まであるんだろうか。
柄の先についた水晶オーブがほんのりピンクの光を帯びた。
少女に訊く。
「なあイヴ。こいつの言葉がわかったりするのか?」
「見てれば態度で察しが付くでしょ!」
察せられるのか。すごいな。
淫魔は忌々しげに剣をにらみ続ける。
「その剣はキレ易い危ない子だからダーリンは捨てた方がいいです」
「まあ、お前を封印してたんだもんな。サキュバスにとっちゃヤバい奴かもしれんけど……おおん?」
俺の腕が一人でに上がった。剣に引っ張られるような形でイヴに突きを放つ。
のを、力尽くで腕を引いて止めた。
イヴもイヴだが、この剣も確かに相当アレかもしれん。
「おいコラァ剣。俺の意思に反して勝手に動くんじゃねぇよ」
柄の水晶が青く点滅し、しゅんとしおれたように切っ先が地面につく。
イヴがニヤニヤした。
「怒られてやんのぉ。道具が使い手を動かすなんて、まるで呪いのアイテムよねぇ?」
途端に剣が俺の手からスポッと抜けると、部屋の壁に切っ先を押しつけてガリガリと文字を刻んだ。
『刺して殺す』
銀の刃がゆっくりと淫魔に向き直る。呪いの武器だぁこりゃあ。
俺は二人(?)の軸線上に割って入った。
「穏やかじゃねぇな?」
イヴが乗っかってくる。
「そーよそーよ! いくらあたしがエッチでかわいいサキュバスだからって物騒すぎない? これからダーリンと二人でおもしろおかしく生きていくんだから、邪魔しないでよ! ね、ダーリン?」
俺の左腕に巻き付くように抱きついて、二の腕をたわわで包みながら少女は頭を寄せた。
「勝手に決めんな!」
すると銀剣も水晶の部分を俺の右の二の腕に擦るようにしてくる。まるで猫が気に入った相手に匂いをつける仕草だった。
人も亜人も下級魔族も猫も寄りつかない俺に、サキュバスと剣が密着してくる。
モテ期到来である。
思ってたのと、なんか違う。
「お前ら、行く当てとか帰る場所はないのか?」
「うーん、しいて言うならダーリンの居場所になりたい……かな?」
「俺でなくてもいいだろ」
少女はピンク髪を振り乱しぶんぶんと首を左右に振る。
「救ってくれた恩人だもの! 感謝してるの! ありがとねダーリン。だからいーっぱい尽くしちゃう! ご奉仕しちゃうんだから」
少女の玉虫色の瞳は真剣だ。
「封印を解いたのは俺が勝手にやったことだし、恩返しなんてせんでいい。お前は自由にしてくれ」
「自由ってことはダーリンと一緒に居てもいいってこと? やった~♪」
前向きかよ。
わーいわーい♪ と、少女は無邪気に万歳する。胸がぷるんと上下した。求む、目のやり場。
サキュバスに服を着ろというのは、人間に服を脱げというのと同義……かもしれん。知らんけど。
喜ぶ淫魔。と、同時に、銀剣も水晶球をピカピカと明滅させた。
イヴが俺越しに剣めがけてあっかんべーする。
「君は持ち主の元に帰ればいいじゃない?」
剣は刀身をぶんぶんと左右に振った。危なッ。
虚空を斬る銀剣の動きを少女は読み解く。
「え? 存在を感じない? もう死んでるかも? ……そっか。だから自分を抜いてくれたこの方は恩人で、先代に続いてお仕えするにふさわしいマスター……っていうわけ?」
翻訳助かる。
銀剣の元の持ち主が誰かは知らん。封印のためにやむなしだったのかもしれんけど、剣からすれば古城に置き去りにされたようなものだ。
こいつにも帰る場所……いや、収まるべき鞘がなかった。




