聖剣『が』守護者 ~早すぎたタイトル回収~
なんとか説得して諦めさせ、折を見て剣で再封印するしかない。
俺は彼女の頬に両手を添えた。
「いいかイヴ。魔族のお前にはわからんかもしれんが、人間はその……こういったことはお互いをよく知った上で、同意の下にするものなんだ」
「もっとわかるように言って」
「す、好きな相手とすることなんだよ!」
「あたしは好きだよ。ダーリンのこと」
「好きってお前……今、会ったばっかだろ」
イヴの頬を一筋、雫が伝う。
「だってずっとずううううっと、封印されてたから。何日経ったかもわかんなくて、ぼっちで寂しくて。助けてって声を出しても誰も来てくれなくて。誰かに興味をもってもらいたくて、ちょっとエッチな感じでお願いしてたんだけど……グスン」
鼻声で少女は泣く。
あれがちょっと? 淫魔の基準は人間に推し量れるもんじゃあない。
「お前のSOSの出し方に問題ありだな」
「けどダーリン来てくれたし。剣……抜いてくれたし」
しおらしい百合のようにイヴはうつむいた。
さっきまでの騒がしさが嘘みたいだ。
そっか……。
ずっと古城に閉じ込められて寂しかったんだな。
誰も来てくれない孤独のつらさは、知ってるつもりだ。
封印を解いた責任は俺にある。だから俺の手で元通り、封印するのが筋ってもんだろう。
なのに……できそうにない。
うっかりとはいえ、一度すくい上げた奴を、再び孤独の淵に突き落とすなんてあんまりだ。
いっそイヴが極悪魔族ならよかった。それなら心置きなく戦える。
封印されるくらい危険な奴かもしれんのに、妙に人なつっこいし。
なによりこいつは俺を怖がらない。生まれて初めてだよ、お前みたいなのは。
ぼっち同士か。
もし更生の余地があるんなら、一緒にいるのも……。
って、魔族相手になにコロッと堕ちそうになってんだよ。
イヴは俺の首に腕を巻き付けるようにして抱きついた。
大ぶりな水蜜桃が俺の胸に密着する。柔らかい。やばい。脳がジンとしびれる感じだ。
見つめ合う。
「キスだけでいいから」
「本当か?」
「嘘、その先もお願いします」
「嘘つきのくせにバカ正直なのはどうかと思うぞ」
互いの吐息がかかる距離で、イヴは目を閉じて桜色の唇を寄せてきた。
「んっ……冷た。初めてはレモンって嘘じゃない。ダーリンとのキスの味ってなんだか金属っぽいかも」
感想を述べる淫魔がさらに熱烈にねぶる。
「んちゅ……ダーリンからも好きにしていいからね……あむ」
俺は……言葉が出ない。
突然だった。
粘膜がふれあう瞬間。横から鼻先すれすれのところに剣が差し込まれたのだ。刃ではなく腹側が滑り込むようにして壁となり、俺とイヴの接触を阻んだのである。
気づかずイヴは剣の腹をぺろぺろむちゅむちゅ。いったい誰が剣を? と、首を動かすと――
う、浮いてる!?
十字柄の銀剣が空中に静止していた。イヴが舐めるたびにぷるぷると細かく震える。
「あむ……ん? やぁんぷるぷるって振動したら舌が感じちゃうらめぇ」
俺は咳払いをした。
「落ち着いて訊いてほしいイヴ」
「はむん……キスしてるのにおしゃべりできるなんてダーリンて器用……ぷるぷる気持ちいいかもぉ」
「お前がキスしてるのは俺じゃない」
「はへ?」
気の抜けた声を上げサキュバスが恐る恐る目を開く。
「いやああああああああああああああああああああ! なんで!? なんでええええええ!」
イヴはガバッと身を起こした。
浮遊する剣もビクンと跳ねる。イヴの悲鳴に驚いた(?)ような動きだ。剣の腹でサキュバスのおでこをはたいた。
「痛っ! ちょ、やめて!」
ビタンビタンビタンビタン!
まるで意思が宿ったように銀剣はイヴのおでこを執拗に狙ってペチペチする。
少女は下から水蜜桃をもりっと押し上げ支えるように腕組みをした。
「ふ、不退転!」
「我慢すんのかよ」
「やっぱ無理! 苦渋の決断です! 撤退! 撤退!」
やっと淫魔が俺の腰から離れる。
こうして部屋には男とサキュバスと銀剣という、謎の三すくみができあがった。




