清楚! 清楚! 清楚! 淫魔として恥ずかしくないの?
「なんだその素っ気ない反応は」
「なななななんでもないわよ! いやむしろこの名前は……ダーリン?」
「は?」
「これからはダーリンって呼んじゃおうかしら♪」
「呼んじゃおうかしらってお前、今後ともよろしく感覚でなに言ってやがるんだ?」
「え? ち、違うのダーリン!?」
「なあええと……イヴ」
「初めて名前で呼んでくれた実績が解除されました。これってもう、ラブラブって……こと?」
「ポジティブが過ぎるぞ」
イヴはペロッと唇を舐め「てへ」っとおどけて見せた。
本当にやるやついるんだな……てへぺろって。
ところで――
「俺のこと……怖くないのか?」
「じ、実は……」
イヴは伏し目がちになった。ああ、やっぱりな。こいつが奇行に走ったのも、俺の凶相貌にパニクってただけなんだ。
桜色の唇を震わせて女魔族は呟いた。
「あたしってドMだから怖い方がドキドキして興奮しちゃうの」
「そいつは難儀な性格だな」
「で、人間のお姉さんって言ったのは嘘」
「んなもん最初から信じてねぇよ。魔族なんだろ?」
「そうそう! しかもね……こんなに清楚で清楚で清楚なのに実は淫魔なの!」
清楚とは全裸で男に物理的マウントをとることではない。
しかしまいったな。俺の流儀は「殴りかかってくるやつには殴り返す」なんだが、エロいことをしようとする相手には……。
どうすりゃいいんだ。
イヴが人差し指をピンと立てて小さく振る。
「ここでなぞなぞターイム♪ 若い牡とサキュバスが二人きりですることってな~んだ?」
「あっちむいてほいか?」
「惜しい! じゃあ、正解は……実際にやってみましょう」
言うなり淫魔は俺の上着に手を掛けた。ずるりと剥かれる。
「おい待てって! お、俺はその……は、初めてなんだが!」
「あたしだって初めてだもん!」
「サキュバスなのにか?」
「そ、そうよ? 文句あります? 別のぶっといので貫かれちゃって、ずっとお預けだったんだから」
イヴの視線がちらりと床に落ちる。先ほど俺が抜いた銀剣が転がっていた。
「なるほど。襲った相手に返り討ちにあったんだな」
「処女より先に命を散らすとこだったんだからね! 危なかったの! だから心配してダーリン!」
「ああ、俺はお前が心配だよ。特に頭が……」
「頭いいですけど天才ですけど?」
サキュバスのほっぺたがぷっくりと膨らむ。
個人的な感想だが――
こいつは悪い奴じゃなさそうだ。もし凶悪な魔族なら、とっくに俺を始末しているだろう。
かといって、世に解き放っていいんだろうか。
もう一度、剣で刺せば封印できるかもしれない。
俺は視線を斜め上に向けた。
「あっ! あんなところに異様に胴の長い猫がッ!?」
「え!? 猫いるのどこどこッ!?」
イヴがキョロキョロと見回す。隙を見てそっと腕を伸ばし剣を取ろうとする。が、あと五センチ届かない。
少女の尻尾が鞭のようにしなって、剣を遠くに弾き飛ばす。
「だ~め。油断も隙もないんだから。猫もいないししょんぼりだし、いっぱい慰めて! 役目でしょ?」
「知るかよッ! とにかく俺の上からどきやがれ!」
「どいたら逃げちゃうし」
「逆に訊くが、この状態でどうやって俺のズボンを脱がせるんだ?」
腰と腰が密着状態だ。イヴの目が盛大に泳いだ。
「その発想はなかったかも。ど、どどどどどどうしよう」
動揺すんな天才(自称)。
「諦めろ」
少女はキリッと柳眉を上げてドヤ顔になった。
「ダーリンに教えてあげるね。この姿勢になったサキュバスは不退転。我が辞書に引き際の文言無し!」
「うっせーわ」
イヴの体をのけようと腕を突き出したが、吸い込まれるように彼女のたわわを包んでしまった。
あーもうばかばか俺のばか。
イヴはうれしそうに目を細める。ぽっと頬が赤らんだ。
「痛くしないでくださいね?」
「襲ってる相手にするお願いじゃねぇだろ!」
途端に玉虫色の瞳がうるっとなる。
「もしかして、あたしとじゃ……嫌なの?」
涙ぐめば普通の女の子だ。
嫌なの? なんて訊かれたら困るだろうが。




