圧殺の緊急着陸
女魔族は前のめりになり俺に顔を近づけた。吐息の掛かる距離である。すんすんと匂いを嗅ぐと耳元でささやいた。
「この状況にお互い驚いているわけだけど、落ち着いて聞いてくださいね。片方のおっぱいをもまれたらもう片方も差し出す。あたしは、そうすべきだと思うんです」
初対面で何口走ってんだこいつは。
「いや、そうはならんだろ」
「けど、実際に君の右手は、あたしのたわわちゃんをもっちりキープしちゃってるし。紳士的に敏感部分は触れないようにする気遣い……100点満点。だったら誠意に応えて是非、反対も手ブラで支えてもらいたいものと思うわけなんです」
「わけなんですじゃねぇよ!」
女がムッと頬を膨らませる。
「助けた狐だって鶴だって美女になって恩返しにくるんだから、おっぱいを助けたらその晩、君のもとにおっぱいが美少女になってやってくるかもしれないでしょ?」
玉虫色の瞳が真剣に訴える。同意を求めるな。体の一部が人に化けてくるとかホラーでしかない。
つーか、俺も俺だ。吸い付くような心地よい感触につい現状維持。これがいけなかった。
女の膨らみから手を放す。
一瞬なごり惜しく感じてしまった自分にビンタを食らわせたいところである。
女の眉尻が残念そうに下がった。
「あんもぅ。しょうがないにゃぁ。こうなったら奥の手……不可抗力を行使するしかありません」
女はぐいっと胸を張る。南半球の谷間がゆっくりと俺の顔に覆い被さってきた。
「ああん重たい重たくてこのままだとおっぱいが墜落しそう。着陸許可を求めますメーデーメーデー!」
「却下だ! つーかどけって!」
俺の下半身は女の太ももにむっちり……もといがっちりホールドされていた。振りほどこうと身もだえるが、荒馬でも乗りこなすような腰つきでいなされた。
「やん! 急に腰を動かされるとキュンってなっちゃうんですけどぉ」
「なるな! つーかお前いったいなんなんだよ?」
「普通の人間のちょっとエッチなお姉さんですけど? これで騙された童貞君はコロリなんよ」
「大胆な自白だな。普通の人間が石化して剣にぶっささった状態でいられるかよ」
「あーあーきこえませーん」
だいたいどこの世界に角と尻尾と羽の生えた人間がおるかね。俺のジトっとした視線に彼女は。
「そんなことより閑話休題緊急事態! あぁんらめぇ堕ちちゃう堕ちちゃう!」
「おいやめろって再開すんなコラァッ!?」
むぎゅっ!
制止も聞かず、俺の顔を谷間で挟んで少女は安堵の息を吐く。
「無事、着陸に成功しましたぁ。では最後に深呼吸~! はいたっぷり吸って~! ゆっくり吐いて~!」
桃みたいな匂いでむせそうだ。
下乳に敷かれたまま訊く。
「なあ、俺を殺すのか?」
「え? 急にどうしたの? もしかして会話が苦手な人? キャッチボールって知ってます?」
煽ってくれるな。
人間を食う魔族もいるというし、ただ娯楽のためにいたぶる奴も多いらしい。
俺が遭遇した連中はだいたいが下級魔族で、こっちの顔を見るなり「急用を思い出した」とか「今はまだ刈り取るには早い」だの「見逃すのも愉悦」とかなんとか。
まだまともに戦ったことがない。
「とりあえずお互い、顔を見て話そう」
「えっ!? そ、そうよね。初めてが獣みたいなスタイルだなんて……それもワイルドで魅力を感じちゃうけど。それとも正常な体位で目隠しプレイかしら? ちょっとマニアックすぎるから自重してください」
自重するのはお前の方だぞ。
ようやく俺の顔からもっちりとした双丘がどかされた。
顔を合わせる。
クソッ! やっぱり美人だな。
品のある端正な顔立ちから放たれる残念な中身に合掌。
「お前、名前は?」
「イヴ! 君は?」
当然のように聞き返されて俺は一瞬、唖然となった。
「普通に会話のキャッチボールができるんだな」
「あったり前でしょ? ってゆーかずるーい! ねえ名前教えてよ? あたしだけ教えるのって不公平だと思うんですけどぉ?」
だだをこねるように彼女は俺の上で腰を浮かせてじたばたした。
おいやめろ。色々と弾けちまいそうだ。ナニとは言わんが理性とかが。
「わかったから暴れんな。俺はダリン。ダリン・イサリビだ」
女魔族――イヴがじっと俺を見る。
「そっか」
妙にテンション高めな彼女が、突然しゅんっとなった。
なんか俺、まずいこと言ったかな? 自己紹介しただけで凹まれるのは、それはそれで堪えるものがあるんだが?




