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その銘は「聖力絶倫」

「他の貴族にも司祭にも浮かばなかった聖王印の一部を僕は宿しているんだよ。つまり初代エイデン様に選んでいただいたんだ。僕には王になる資格がある。現聖王様にも聖王家にも、聖王印の欠片をもった世継ぎがいないからね。王選の儀が執り行われれば、僕が王に選ばれるに違いないんだよ!」


 ちょっと情報がどばーっと押し寄せてきてよーわからんのだが。


 つまり――


「この国じゃ偉い聖印もってりゃなんでもしていいってのが、テメェの言い分なわけだな」


「僕の言い分じゃない。純然たる事実さ。実際、君らなんて僕が本気を出せば相手にならないんだよ? 一部とはいえ聖王印を持つ僕なら、この教会の聖堂を外の世界と隔離して支配する独自の聖域を作ることもできるんだ。あ、わかんないよねバカな庶民には難しすぎたかな?」


「要は魔族の作る泡界の人間バージョンだろ」


「……驚いた。見た目によらず意外と物知りだね。じゃあ説明はいらないか」


 ナルシスのかざした手から円を描くように光が走り、衝撃波とともに閉鎖空間が発生する。


 こいつの生み出した世界は闘技場だ。


 全周囲を熱狂する観客が埋め尽くし、殺せコールを俺たちに浴びせてくる。


 ナルシスは手に光の剣を生み出し笑う。


「いつかこの手に本物の聖剣を手にしてみせるよ」


 掲げると民衆たちの声がぴたりと止んだ。スッと切っ先を下ろして俺たちに向ける。


「僕が聖域を解除しない限り逃げ場はない。で、君らは僕を不当かつ不法な偽の証拠でおとしめようとして、あまつさえ金銭をゆすりにきた。聖堂を血で穢すわけにはいかないから、僕はやむなく聖域を展開し正当防衛。結果、君らを死に至らしめてしまった……ってことで一つよろしく頼むよ」


「よろしかねぇよ。ったく」


 イヴが俺に「今ならエッチな妄想で内側からぶっ壊せますけど。なんなら観客全員乱交パーティーモードも行けますけど」と視線で訴えてきた。


 おいやめろ。


 ナルシス自慢の聖域を蹂躙レイプして尊厳破壊かよ。


 俺はシュルシュルと銀剣のさらしを解いた。


「先に抜いたのはそっちだからな」


「おやおやおやおや。聖域の主に剣を向けるなんて無謀にもほどがあるんじゃないかい?」


 フォーボスとの戦いで、この手の結界内じゃ作ったやつが最強になるってのは知ってるつもりだ。


 クロエが腕から鎖をじゃらりと落として身構える。


「同時に仕掛けるぞダーよ」


「いいや。逆にやりづらいからイヴと一緒に待っててくれ。不意打ちだけは注意してくれよな」


「貴様! 私に指図するというのか?」


「悪いが俺も全力を出したらどうなっちまうかわからないんだ。巻き込みたくない」


「ぐぬっ……貴様には命を救われた身だ。二度も同じようなことはあってはならぬ」


「頼むぜ。ここはこらえてくれ」


 本当はナルシスをぶっ飛ばしたくて仕方ないだろうけどな。


 クロエは半歩引くと「貴様がピンチと思ったら勝手に加勢するからな」と、ぷいっとふくれっ面になった。


 イヴの玉虫色の瞳が俺を見つめる。


「ダーリン大丈夫? 自分じゃ力……コントロールできないんでしょ?」


「ああ。けどよ……うずくんだ。きっとナルシスの聖印に反応してるんだろうな」


 イヴは深くゆっくり頷いて距離をとった。


 見守っていてくれ。二人とも。


 想いながらリンをそっと構える。


 オーブが金色の光を帯びた。


 銀剣の柄が吸い付くように、これまでになくしっくりと手になじむ。


 俺の握った手の上から、誰かが支えて添えるような気配を感じた。


 そうかよ。ご先祖様。


 そばにいて一緒に戦ってくれるんだな。


 リンを通じてエイデンの魂を感じながら俺はナルシスと対峙した。


「聖域の中では僕は王……いや神だ。神に逆らう愚かしさを思い知るがいい。女どもが見ている前でむごたらしく四肢を切り捨てて……そうだ。君が動けなくなったところで、二人とも犯してやろう……ククク……あーっはっはっはっは!」


 イヴが中指を立てて「あんたなんかまっぴらごめんよ!」と舌を出す。クロエは冷たい眼差しのまま「モテない男の発想だな」と一刀両断だ。


「うるさいうるさいうるさい! 二人ともまとめて慰み者にしてやるよ! この男の目の前でなああああ!」


 本性現しやがったな。


 具現化した光剣を一心不乱に振り回しナルシスが俺に斬りかかる。


 ド素人が。リンで弾いて蹴りをくれてやる。


 が、蹴り足が見えない壁みたいなもんに阻まれた。


何人なんぴとりとも神を傷つけることはできないんだよ?」


 闘技場の観客席はナルシスコール喝采だ。


 こいつ、能力だけなら最強じゃねぇか。自分の世界に引き込んだ相手の攻撃をすべて無効化ってことかよ。


 剣の腕はガキのままごとだが、こっちは一切反撃が通らない。


 いくら斬り返しても全部、不可視の壁に止められる。


 壁が無けりゃ七回は首を落としてたところだ。


「無駄なんだって。諦めてさぁ……斬られちゃいなよ?」


「うるせぇよ」


「百回斬ろうと千回斬ろうと意味ないんだって」


 短く言葉を返す間に十数回の斬撃を乱打した。


 あと数センチのところで刃が止まる。


 防がれるたびワーワーと沸く観客席がうっとうしい。


 ナルシスは手を振って声援に応えると余裕の表情だ。


「あーもう。じゃあ反撃とかしないから。突きでもなんでもしてごらんよ」


 そもそも防御の構えすらしないナルシスが棒立ちだ。


 顔面めがけて突きを放つ。


 切っ先はやつの眼球に触れる前にぴたりと止まった。


「わかっただろ? いい加減さ……諦めなって」


 ナルシスは適当に光剣を振るった。見切り、避けるが手足に裂傷を負う。


 これも聖域の力ってか。客席の興奮も頂点に達しようとしていた。


「ダーリンッ!」


「ダーよ!」


 背中側から二人の悲鳴が上がった。


 すかさずリンも俺を守ろうと、防御の構えをとろうとした。


 ぎゅっと柄を握って訊かせる。


「おいコラ剣が守りに入るんじゃねぇよ! ご先祖も降りてきてんだろ。気張れやリン……いや聖力絶倫!」


 自称この世界の神の目が点になった。


「な、なんで君みたいなのが伝説の聖剣の銘を知ってるのかな? アレの鞘は聖遺物で銘は秘匿されてるはずなのに」


「教えて欲しいか?」


「い、いや別に」


「お前に今向けられてる刃の銘だ。よく見ろよ」


 銀剣の刀身に名前が浮かび上がった。


「嘘だ! に、偽物だよ……ね?」


「偽物かどうかテメェで試してみやがれよ」


 額が熱い。


 溢れ出そうな力をリンに注ぐ。


 銀剣は細かく震えた。振動した。


 やつの胸めがけ放った突きが見えない壁に阻まれる。


 ナルシスの心臓には届かないはずが――


 超振動する切っ先がじわりじわりと空間を侵食しだした。

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