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王の資格

 クロエがナルシスに問う。


「貴様は魔族と裏で手を組み、私の故郷を滅ぼさせた……違うか?」


「酷い言いがかりだね。何を根拠にそんなことを言うんだい?」


「フォーボスが証言したぞ下郎。貴様は上級司祭としての地位を高めるため、女神教の布教にいそしんでいるそうだな」


「偉大なる聖王国のためだからね。にしても下郎とは驚いたよ。仇を討ったら手のひら返しとは困っちゃうなぁ」


 黒衣の執行者が両手の鎖をじゃらりと鳴らす。


「まだ終わってはいないぞ! 恭順しない種族を滅ぼすために魔族と手を組んだのだろう!?」


 クロエに顔を指さされてもナルシスは眉一つ動かさない。


「あーあ。誤解だよそれ。僕は魔族なんて知らないよ。麗しい女神様の庇護を受け入れないから、野生の魔族に蹂躙されるのさ。一つ村が滅ぶと周辺地域の下等種族どもが自分たちから『入れてください』って頭を下げるんだけどね」


 べらべらとよく喋る男だ。内容はゲスが極まってやがる。


 クロエの故郷が滅びて、おかげでそのあたりの集落はみんな改宗したってか。


 イヴの表情が曇る。


 時々こいつが悲しげな顔をした理由も、今の俺には少しだけわかる気がした。


 そっとサキュバスに告げる。


「お前は悪くねぇよ」


「ダーリン?」


「この女神の元ネタってだけだろ」


「な、ななな、なんのことかしら?」


 本人は秘密にしたがってるようだがバレバレだ。


 イヴのためにも女神教団は健全な組織にしなきゃならん。


 まずは目の前のクソ野郎からだな。


 ナルシスが鼻で笑う。


「君はクビだ。今ならそれで許してあげよう。教団職員としての権限はすべて剥奪封印。依願退職じゃなくて服務規程違反による解雇だから、今後は冒険者登録も不能になるけどね。食い扶持がない? だったら娼館にでも行けば良いさ。見た目だけはいいから奴隷堕ちしても買い手はつくんじゃないか? あっ……ペットにするには狂暴すぎるから僕はパスだけど……ククク。誰の子ともつかない子供をはらんで増やせばいいよ。一族復興おめでとう」


 青い瞳に炎が揺らいだ。


「最初から辞表を叩きつけるつもりでいたが、私も気が変わった。貴様を内部告発する」


「告発だって? 証拠はあるのかい?」


「フォーボスを倒した時に貴様の名が書かれた契約書を手に入れたぞ」


「偽物なんじゃないかな? ああやだやだ。上級司祭の僕をおとしめるために、そこまでするなんて浅ましいよ。ほんとにさ」


「偽物なものか。魔族と契約すれば魔力や聖力といった力の痕跡が必ず残る」


 手元でリンのオーブが静かに光を称えた。


 見向きもせずナルシスは薄ら笑いだ。


「で、現物はどこにあるんだい?」


「厳重に隠してある」


「それじゃあ告発はできないよね? 持ってきてるんだろ?」


 ナルシスはクズだがバカじゃないらしい。


 クロエの前に姿を現したのも、直接証拠を処分するため……ってか。


 俺はリンを手元に寄せた。刀身をさらしに巻いたままだ。一歩前に出る。


「実力行使しようってんなら、こっちだって正当防衛くらいはさせてもらうぜ?」


 ナルシスはため息で返した。


「ふう……あーもう君らなんもわかってないんだね。これだからガキは嫌いなんだよ。社会の常識ってものがない」


「常識外れなのはテメェの方だろうがクソ司祭。人を救うために女神の教えを守り広めてんじゃねぇのかよ?」


「実際守られたじゃないか? 一つの村がなくなったけど、八つの集落が聖王国の庇護下におかれたんだ。みんな今じゃ幸せに人間様の奴隷として暮らしてるよ。いやー、通りすがりの魔族のおかげとはいえ命拾いしたねぇ。あっ……残念な結果に終わったクロエ君の故郷の皆様には、この場にて謹んで哀悼の意を表するよ」


 瞬時に獣化して飛びかかろうとするクロエ。だが、イヴが腰に抱きついて止める。


「挑発に乗っちゃだめよ!」


「放せイヴイヴ。やつにこれ以上、一族の誇りをけがさせるわけにはいかぬ」


 クロエに代わって俺が告げる。


「ともかくよぉナルシス。悪事の証拠はこっちがばっちり握ってんだ。そいつをなんだ……ええと、しかるべきとこってのに出せば、お前は終わりだろうが」


 優男は目を細めて肩を小さく上下に揺らした。


「上級司祭の僕をいったい誰が裁くんだい? 王族でもない限り無理な話じゃないかな。聖印の格が違うんだし」


「はぁ? なに言ってやがんだ」


「もう一度言ってあげよう。聖印には格がある。で、下級の人間は逆らえない。それがこの国の常識であり、ルールってもんさ」


「なら上のやつはなんでもありじゃねぇか」


「そうだよ。知らなかったのかい?」


 これがご先祖エイデンの望んだ世界なのか?


「強い奴が何やってもいいなんて無法だろうが。この国は人間を守るために建国されたんだろ? 弱い者が平和に暮らせる。そんな世界を最初の王様も願ってんじゃないか?」


「あーはいはい。ご高説どーも。だいたい無法もなにも、こっちの言い分としては、そうだな……魔族との契約はあくまで危険な魔族を制御下におくためのもので、辺境地域に被害を留めおくため仕方なくしていた……ってとこかな」


「んな理由が通るかよ!?」


「通るんだよ。バカな庶民に教えてあげよう。仮に君らの持つ証拠が本物で、僕が魔族と契約していたとする。で、告発しても、取り調べをするのも裁判をするのもみんな僕の息の掛かった人間なわけ」


 ナルシスの顔が悪魔じみたものに変わった。人間、どこまで堕ちればそこまで醜くわらえるんだよ。


「だから無駄なんだよ。無駄無駄無駄無駄。むしろ君たちを告発しようじゃないか。上級司祭を侮辱し名誉を傷つけ信頼を過失した罪でね」


 イヴが声を上げた。


「どーしてあんたみたいなクズにみんな味方するわけ?」


「それは僕が選ばれし人間だからさ」


 ナルシスは右の手のひらをこちらに向けた。


 聖印が浮かぶ。


 紋様の一部が聖王印と一致していた。

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