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てんどん

 目が覚める。


 俺の頭は淫魔の太ももにぴたっとくっついていた。膝枕ってやつだ。


 上からイヴがのぞき込む。


 玉虫色の瞳は涙に濡れていた。


「おかえり……ダーリン」


 声色が悲しげだ。


 上体を起こし、周囲をぐるり見る。


 森に差し込む光が赤い。


 日が落ち始めて太陽が燃えるような色になっていた。


 表情に影を落としたままの淫魔に訊く。


「クロエは無事……だよな?」


 見た夢の話は後だ。俺をかばって死にかけたあいつの安否が気になる。


 イヴの視線が遠くを示した。


 盛り土の上に簡素な十字架が目に入る。


 周囲を色とりどりの草花が飾っていた。


「嘘……だろ?」


「ごめんねダーリン。あたしじゃ……力不足で……」


 力が抜けた。


 一度起こした上体を倒して前腕で目のあたりを押さえる。


 涙が止まらない。


 こんな顔をイヴには見せられないと隠しても、俺の涙腺から止めどなくあふれ出る。


「ダーリン……そんなにクロエのこと……ごめん……ごめんね……本当に……」


「お前のせいじゃねぇよ。お前まで泣くんじゃねぇよ!」


 夢で見た魔王がイヴなら、きっと本気で救おうとしたんだ。


 もしイヴに全盛期の力があれば。


 いや、そんなこと今更言ってなんになる。


 この世界に神ってのがいるんなら、俺の命をくれてやるからクロエを……助けてやってくれよ。




「復活してほしいならクロエちゃんかわいいと言え。ダーよ」




 聞き覚えのある声にハッとした。立ち上がる。


 森の陰から黒衣に黒髪の少女が姿を現した。


 はだけた胸元の傷は塞がって、うっすら浮かぶ聖印が光を帯びていた。


 いや、少しだけ変わっている。


 獣の印にイヴの魔印みたいな意匠が組み合わさって別の聖印になっていた。


「本当にお前なのか? 偽物とか幻とか妄想じゃなくて……」


「どっきり大成功」


 クロエはVサインだ。しかもにぎにぎWピースだった。


 振り返るとイヴが腹を抱えて笑い転げる。


「ふっっっっざけんじゃねえええええええ! 本気で心配したし死んだと思ったんだぞ!」


 俺のガチ涙を返せ。


 こんなたちの悪い連中だったなんて。やっぱりイヴは悪い魔族だ。


「墓まで建てて悪質極まるぞコラァ!」


「アレはお墓じゃなくてフォーボス撃破記念オブジェよ? そうよねクロエ?」


「その通りだ。華々しい勝利を祝うため、イヴイヴと二人で花を摘んで来たのだぞ。ちなみにリンリンはパワーを使い切ったようで、寝ている模様だ」


 視線を落とすと銀剣が刀身をさらしに巻かれていた。


「おいリン。見て見ぬ振りか? お前も共犯なんじゃなかろうな?」


 柄についた水晶球はうんともすんとも言わない。


 が、一瞬だけ青く光った。


 あっ……これはやってんなぁおい!?


「テメェらには仕置きが必要みたいだな」


 誰の発案かは知らんが、ひとまず手近なところにいるイヴをひっ捕まえて鼻フックをめた。


「いたいいたいやめてむりむり第二関節はむりだからああああああ!」


「うるせえよクソ淫魔!」


「ぶひぃ!」


 情けない声をあげてイヴはその場にどさっと倒れる。


 美少女が台無しだ。


 まずは一人。


 逃げようとするクロエに向き直る。


「次はお前の番だ」


「私が無事だったことを喜ぶ権利をやろう。だから額に聖王印を光らせながらこっちに来るんじゃない」


「なんだよ聖『王』印って」


「すべての聖印の祖。ルヴェリア聖王国の国章に刻まれた初代王エイデンのそれではないか」


 夢の話は事実なのかもしれんが、今はそんなことよりも――


「テメェがぶひぶひ言うまで鼻の穴ほじくり回してやるから覚悟しやがれよ」


「く、来るなああああ!」


「そっちの自業自得だろうが! この悪質女神教団職員が!」


「アッー!」


 クロエの悲鳴が森に響き、カラスたちがバサバサと一斉に飛び立った。


 銀剣がふらりと宙を舞い、カラスに紛れて逃げようとした。


「やましいことが無けりゃ逃げないよな」


 リンはビクンと反応して止まると、ゆっくり下降。


 布地に包まれた切っ先で、土の地面に文字を書く。




『剣だからわかりません。意思とかありません。私は道具。道具自体に善悪はなく、使い方次第なのです』




 今更通るかそんな言い分! 自己主張つよつよ聖剣がよぉ!


 柄をぎゅっと握ってオーブをつかみ握る。


 俺が力を込めると銀剣の刀身がキュイイイイインと高周波振動した。


「次やったら鍛冶屋でその根性ごとたたき直すからな」


 リンはぶんぶんと刀身を縦に振った。その衝撃波でかりそめの墓が吹き飛ぶ。


 まったくもって仕方の無い連中だ。


 こんなもんで済ませてやる俺は、むしろ人間ができてると思う。


 さて、仕置きといえばもう一人。


 フォーボスと組んでクロエをハメた上級司祭だかが残ってるな。


 なんだか楽しみになってきたぜ。

シリアスはここまでだ

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