元気100倍な例のアレ
クロエがフォーボスに蒼炎鎖を叩きつけまくっている。
消える相手を捉えようと攻撃は加速し続けた。
ペースが速い。速すぎる。
長期戦はどのみち不利だってクロエもわかってるからだ。
肩で息をするのも時間の問題だった。
イヴに訊く。
「どうして今なんだよ」
「あのね、あたしってサキュバスでしょ? 愛されてるって気持ちがあればどんな困難にも立ち向かえるの。ダーリンが助けに来てくれて元気になったし。だから愛をくださいお願いしますなんでもしますから」
急に下手に出るなよ調子が狂うな。
本当になにを考えてるんだかわからん変な奴だ。
けどよ、このままフォーボスに殺されちまったら、俺も気持ちを伝えられないままになる。
イヴにどうにかできるとも思わないけど――
言えなくなる前に伝えよう。
「お、お前が好きだ」
「もっと! 大きな声で!」
「お前がが好きだッ!!」
クソッ! わけわからんけど勢いで告白しちまったぞ。
イヴはぶんぶんとピンク髪を左右に振る。
「っていうか言葉だけじゃなく行動で! ん~! むちゅ~! きすみぷりーず!」
口をすぼめるな。美少女が台無しだろうが。
俺は彼女の前髪を手で上げる。じっと目を見る。見つめ合う。
やっぱり美人だ。かわいい。黙ってりゃいい女だ。
俺の顔を見ても怯えるどころか、笑顔を浮かべてくれる。
受け入れてくれる。
そんなイヴが愛おしかった。
けどやっぱ恥ずかしいんだよ! 自分から率先してこういうことすんのは初めてだから。
だから……だからさ――
彼女のおでこにそっと唇を寄せた。
「ベロチューじゃなくていいって言ったけどデコチューなの!? んもうダーリンったら童貞丸出しなんだからぁ」
イヴの尻尾がピンと立つ。彼女は指先で俺の額の十字傷をそっとなぞった。
「おいくすぐったいぞ」
「お返しよ♥ ダーリンのおかげで元気百倍アンアンパンパンなんだから」
なんだその不穏な擬音は。
ああクッソ恥ずかしすぎて悶絶死しそうだ。今まで女の顔を見れば泣かれる逃げられる漏らされるだったのに、
もうどうにでもなれ。と思った矢先。
みるまに少女の全身の傷が塞がっていった。だけじゃない。俺の足に空いた穴まで閉じていく。
全身に力が戻る感触だ。
イヴがしてるってのか。彼女の下腹部にピンク色の光芒が走り、印になって浮かび上がった。
魔印が発現したのって、俺と出会った時ぶりじゃねぇか?
戦いながらクロエが吠えた。
「貴様らなにをいちゃついているのだ!」
イヴが倍返す。
「サキュバスが男の子といちゃつかなくてどうするってーのよ!」
どうもこうもないだろ。と、ツッコミを入れる間も無く――
「こんな不愉快な泡界は崩壊して正解よ!」
突然韻を踏むな。吟遊詩人もびっくりだぞ。
イヴが背中に翼を広げて天を仰ぎ、両腕を開いて掲げると宣言する。
「この世のありとあらゆる性欲よ! えっちぱわーよ! あたしの元に集って! 愛の力の偉大さを見せつけて恐怖も絶望も吹き飛ばしてやるんだから!」
大気が鳴動し空がピンク色に染まった。
フォーボスの動きが止まる。
「雑魚の分際で俺様の世界に干渉だと!? バカなあり得ん!」
空がひび割れガラスのように砕け散り、イヴを中心に世界がゆがんでいく。
視界を埋め尽くす無数の泡は、まるでシャボン玉だ。
一つ一つに二人の人物の姿が閉じ込められている。
だいたい全部、肌色のモザイクがかったいろんなアレなあられもない二人の行為。
サキュバスの妄想垂れ流し。
全部、俺とイヴがいたしている場面である。
空いっぱいに泡が広がって……うわぁ……お空綺麗。
「って、なにやってくれてんだよアホ淫魔!」
「だってダーリンしてくれないから妄想で補完するしかないじゃない!?」
「じゃないじゃねーよ!」
「あ! みてみてダーリン! 右奥の隅っこのやつダーリンのお尻開発中……ごめんなさいお願いしますリン様どうか命ばかりはご勘弁を……よよよよぉ」
弱った時に「よよよよ」って言う奴、初めて見た。
唖然としたのは俺だけじゃねぇ。
クロエの冷たい視線が俺に刺さった。
「いや、なんで俺なんだよイヴだろそこは常識的に考えて」
「う、うるさい! この頭の中ピンクの獣が! どうしてその甲斐性を獣化した時に発揮しないのだ馬鹿者!」
「だから俺の妄想じゃねぇってイヴの創造性豊かなアレだっつーの!」
まあ、そのなんだ。男なんだし俺だって考えたことがないと言ったら嘘になる。
他人に見える形で垂れ流したりせんけど。
フォーボスが頭を抱えて動きを止めた。
「恐怖と絶望が汚らしい愛に埋め尽くされ、蹂躙されたというのか!?」
クロエの鎖鞭が黒牛鬼の背中を穿つように打ち据えた。
「うごぁ! なにをする!?」
魔族狩りの女はにっこり微笑んだ。
「当たる。当たるではないか私の攻撃がッ!! ふふふ……あはははは……あーっはっはっはっは! 当たる! 当たるぞ!」
イヴのエッチな妄想が充満した異空間で、フォーボスは地の利を失った。
自分でもなにを言ってるんだかわからんが、実際そうなのだ。
淫魔が俺を上目遣いで見る。
「ね、ねぇダーリン。やっぱり恥ずかしいよね? もう止めておいた方がいいかな? リンちゃんも激おこぶんぶん丸であたしの首を狩るスイングし始めてるし! スパッ! じゃなくてぎーこぎーこしないでぇ!」
俺は空中で水平斬りモーションを連打するリンの柄を手にした。
「もっとエロいことを考えろイヴ」
「いいの!?」
「ああ、俺が許す。お前らしさが必要なんだ」
「任せて! エッチなの得意だから! ダーリンとしたい108のポージングをばっちりイメトレしちゃうんで!」
空間を埋め尽くすシャボン玉がさらに増える。
中身については触れないでおこう。
「あん……なんだか興奮してきておまたがむずむずしてきたかも。このままだとあたし、おかしくなっちゃう。ダーリン……ナデナデシテー!」
「よしよし。よくやったぞ。このまま頼むぜ」
「はぁい♥ 妄想はかどるううううううう♥」
今や形勢は逆転した。




