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あーもうこれはアウトなやーつー

 広場を抜けて村の奥の「聖域」へとリンが導いた。


 大小様々な石が積まれていた。クロエ曰く、それらはすべて先祖代々の墓なのだという。


 俺が切り払ったのは全部、墓石だったのだ。


「悪いことしちまったな」


「気にするな。ここにあるのはすべてまやかしなのだから」


 彼女の種族は女神教ではなく先祖霊や精霊を信仰していた。


 だから教団や教会のような意匠は村のどこにも見られなかった。


 ついにフォーボスとご対面って雰囲気だな。


 聖域の最も奥にたどり着く。


 中央に鎮座するは石の台座。そこに全身をなます斬りにされたイヴが供物のように捧げられている。


 あまりのむごさに声を失いかけた。


 まだ、彼女の胸は呼吸をしてかすかに上下している。前髪が降りて顔を隠しているが苦しげなのは見るまでも無い。


 白化していないことだけが唯一の救いだった。


 手前に立ち塞がるのは黒く巨大な背中。


 頭部に雄々しい四本の角。


 黒い丸太のような腕。


 間違いない。


 こいつが黒牛魔族――フォーボスだ。


 クロエの故郷を滅ぼし、再び彼女の心を蹂躙した。


 なによりイヴをさらって傷つけた。


 ぶん殴るだけで済むと思うなよ。


 黒牛がゆっくり振り返る。


 その刹那、俺の腕が、足が、勝手にはしる。


 問答無用だ。こいつの角は落とさない。首ごともらう。


「待てダーよ! うかつすぎるぞ!」


 クロエの制止は届いている。だが、俺の剣は一瞬でフォーボスの首筋に迫っていた。


 輝く刃を叩き込む。


 はずが、黒牛鬼の姿はふっと消えた。クロエが悲鳴を上げる。


「後ろだ!」


 とっさに防御姿勢をとったが、そのまま黒い拳に吹き飛ばされた。


 こいつ瞬間移動しやがんのか!?


 石の小山に激突しめり込む。クロエの声に受け身の意識をできただけマシだが、衝撃で一瞬肺から空気が全部抜けて、全身の骨がバラバラになったかと思ったぜ。


 黒牛鬼がわらった。


「お前さんノコノコやってきて挨拶もなしで斬りにくるとは、聞いてた話と違うじゃねぇか」


 体を起こして首をポキポキ鳴らし訊く。


「なんだテメェ。誰になにを聞いてたって?」


「これから俺様の養分になって死ぬ前に教えてやろう。絶望は恐怖を引き立たせる最高のスパイスになるからな。がっはっは」


 フォーボスは腕組みしながら右手の人差し指を立てる。


「ナルシスって人間を知ってるだろ? 俺様はあいつと契約をしてるんだ。どんだけ暴れようがなにしようが自由にしていいってよ」


 思い出したくもねぇ名前だ。クロエがぶるっと震える。


「な、なぜその名が魔族の貴様から出る? 訳がわからないぞ!」


「契約してるって言っただろうが。こいつがその証拠だ」


 黒牛鬼が指を鳴らすと一枚の羊皮紙が突然虚空に現れた。いくつかの条項の最後に、ナルシスのサインと血判がされている。


 右足は止血したが話をしてる時間はない。


 このままだとイヴが死んじまうかもしれん。


 地を蹴り銀剣を振るうがフォーボスは瞬間移動で消えては現れる。


「逃げんじゃねぇよ!」


「俺様は食事はゆっくり楽しみたいんだ。そこの魔族狩りの女よ。俺様を追ってきたそうだが会えて嬉しいか?」


 クロエは鎖をじゃらりと鳴らして身構える。


「貴様を倒すこの時をずっと心待ちにしてきたぞ。だが……」


 蒼い瞳が俺に目配せする。


 クロエが言いたいことがなんとなく理解できた。


 彼女が飛び出し蒼い炎をまとった鎖でフォーボスを打つ。


 火花を散らした一撃はむなしく空を切った。瞬間移動でかわされたのだ。


 同時に俺は石の祭壇で横たわる、傷だらけのイヴの元へ。


 リンを手放し抱きかかえる。銀剣は俺の背に張り付くように浮かんだ。悪いが背中は任せたぜ。


 イヴの全身から赤い血が滴った。


「おいイヴ! しっかりしろ! 助けにきたぞ!」


「ダーリン……ごめんね……リンちゃん逃がすので……てへへ……やっぱあたしってダメだね」


「おかげで助けにこられたんだ。もう大丈夫だからな」


 クロエの故郷を模したこの村は、フォーボスが作った魔族の泡界だ。


 一旦外に出て体勢を立て直す。


 クロエとともに元来た道を戻る。


 腕の中でイヴが震えて首を左右に振った。


「ありがとね。あとでいっぱいハグして……チューしてあげる……それくらいしかできないから」


「どうにか自分の体を治せないのか?」


「そんなことよりダーリン怪我してるでしょ? あたしが……治して……あれ……だめみたい……力……使いすぎちゃったのかも……こんなことなら……斬り刻まれたままにしてれば……えへへ……やっぱりダーリンがいないとあたしダメッ子だね」


 少女の玉虫色の瞳に涙があふれた。


「そんなことねぇよ……ごめんな。遅れたこと、心から謝罪する」


 よほど酷い目に遭わされたんだ。


 イヴが癒やしの力を使い果たすほどに。


 ようやく村の出入り口に戻る。村境を示すしめ縄を越えたところで景色が一転し、俺たちは村の際奥の聖域に戻っていた。


 無限にループ……ってことかよクソが。

あけましておめでとうございま~す!

今年もよろしくね☆

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