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あなたは死なないわ。あたしがイかすから……。

 イヴの手がクロエの傷を塞いでいく。


 ピンク髪の少女の手が優しく撫でるたびに、古傷もまとめて綺麗に癒やしてしまった。


 クロエの唇が震える。


「……温かいな……気持ち……良い……死ぬのか……私は……」


「死なないわよ。あと気持ち良いのはあたしのサキュバスパワーね!」


「……ん……あん……あふぅ……」


 黒衣の審問官の吐息が熱を帯びた。


「おい待てイヴ! もう少し手加減できんのか?」


「無茶言わないでちょうだい! こっちは本職がエッチで治療はおまけなんだから! 命に関わるほどの重傷を負った相手なのよ? ダーリンちゃんと理解してる? 全力なの! あふれ出る性的快楽パワーを抑えながらなんて器用にはできないわ!」


 イヴの手がクロエの股関節や内ももをなで回す。


「……ひゃん……あん……らめぇ……おほぅ♥」


「逝かせたりしないわ。生きて! 気をしっかり持つのよクロエ!」


「……ハァ……ハァ……ん……あん♥ ……おごぅ♥」


 腹部の裂傷を手のひらで舐めるようにマッサージする。


「……はう……お腹の中に……響くぅ♥ キュンてなる死ぬぅ♥」


 クロエは全身をビクンビクンと痙攣させた。


「なあイヴ。治療行為なんだよな? 死ぬとか言ってるんだが」


「あったりまえでしょ! これは立派な人助けよ! 死なせたりしないわ!  やらしさと優しさは紙一重って言うでしょ?」


「言わねぇよ!」


 サキュバスの半分は優しさでできてんのか?


「……やめて……や、やめないでくれ……もっと……もっとしてくれ体の……ではない傷のうずきが止まらんのだ♥」


治療行為である。繰り返す。これは治療行為である。


 俺は自分に言い聞かせることしかできなかった。


 イヴの手は休まらない。


「脳内麻薬どっぱどぱで麻酔要らずでしょ? ちゃんと意味があるんだからね。ただエロいことしたいだけじゃないんだからね!」


 誰に向けての言い訳だそれは。


「……くふぅ……くぅーん♥」


 なんか犬が甘えるみたいな声だな。


 クロエはたまらずうつ伏せになった。イヴが背中の傷に手を当てる。腋の下から手のひらを沿わせて胸の曲線をもっちりと支えながら撫でる。黒髪が大きく揺れた。青い瞳を見開き、クロエは足の指をピンっとさせると二度、ブルッ……ブルルッと全身を痙攣させる。


「……もう我慢……できぬ♥」


 ぷりっとした桃みたいな尻をくいくい振ると、クロエの尾てい骨あたりから漆黒の尻尾がふわっさりと広がった。


 


 俺が威嚇したこともあって、冒険者ギルドには受付嬢以外誰もいない。


 女神教団から届いた着替えに袖を通し、クロエはムスッとした表情で俺を睨む。


「ダーの者よ。見たな?」


「み、見てないぞ! お前の裸にゃ興味ねぇ!」


「違うッ!! わ、私の恥ずかしい……尻尾だ」


 顔を真っ赤にしてクロエはうつむいた。お尻のあたりを手で押さえる仕草は、どことなくいじらしい。


 イヴが魔族の尻尾をびたんびたんとさせた。


「尻尾のなにが恥ずかしいのよ? あんなにふさふさでふわふわなのに!」


 青い瞳が淫魔を睨む。


「恥ずかしいのは尻尾ではない。自身の力を制御できぬ我が身のふがいなさだ」


 訳ありみてぇだな。


「ふがいないってどういうこった?」


「私の罪の証なのだ」


「なんか悪いことでもしたのか?」


 と、訊いたところで銀剣が俺とクロエの間に割って入った。イヴが頷く。


「ちょっとダーリン。デリカシーって言葉をご存じないのかしら? 女の子を困らせる悪いダーリンには教育が必要ね!」


 リンもさらしに巻かれた刀身を縦に振る。


「あ、ああ。悪かった。野暮だった」


 警戒混じりの青い瞳から、フッと力が抜ける。


「貴様らは面白いな。気が向いたら話してやろう。それよりも首尾はどうだ?」


 イヴは頷くとクロエにグッと親指を立てる。そのまま受付前に張り付いて戦果報告だ。


「はい! 手配書にあった魔族十人分の角よ! これで満足したかしらしたでしょうしたって言いなさいよ!」


 眼鏡におさげの受付嬢はぶるりと震えた。つーかこの受付嬢、セントイナカの受付と同じ顔だ。双子か?


「え、ええと、聖庁からのご依頼はたしか二十体分とのことですけどぉ」


 サキュバスがピンク髪を揺らしてぶるんと胸を張った。


「ほらクロエ見せてあげなさいよ」


「あ、ああ……」


 わりと強気な魔族狩りの女が、居心地悪そうに提出する。


 俺たちが集めたカラフルな角と違って、全部白い。どういうこった?


「なあクロエ。どうして角が白いんだ?」


 青い瞳が丸くなる。


「殺してから奪い取るのだから、白くなるのが当然だろう」


「そういうもんなのか?」


「むしろ貴様らがおかしいぞ。どうしたら魔族を生かしたまま角を奪えるというのだ」


「身動き取れなくなるまで殴ってからリンでスパッ! な? 簡単だろ?」


 銀剣のオーブが七色に光る。どや顔ってとこだな。


「本当に簡単そうに言ってくれる……」


 黒衣の審問官が落胆した。


 受付テーブルに並んだ角を受付嬢が確認する。


「ひーふーみーよーいつむーななやーここのつ……ですか?」


 クロエが全身血まみれになって集めたのは、魔族九人分の角だった。


 あと一本足りない。


「じゃあ、ラスト一本探しに行くか」


「私の負けだな」


「こっちは三人がかりだ。クロエは一人でがんばったんだろ。すごいと思うぜ」


 明日の朝まで時間は残されている。


 と、思ったところで――


 あんまりお目に掛かりたくない男の声が響いた。

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