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ボロボロじゃないですかやだもー

――ある魔族の証言。




 いやね、あっし寝てたんですわアジトで。洞窟の奥の方でさ。まあ、静かなところよ。


 時々旅人を襲ってたくらいで、そりゃあ慎ましやかに暮らしていたんでさ。


 その日、突然背後にソレは現れてね。


 振り向いたら殺すって耳元で囁くんだ。


 あんな恐ろしいASMR初めてだわ。


 背筋が冷たくなってまるで冷やした鉄板でもあてがわれてるみたいでよ。


 それになんか足下の方からヌルヌルってしたのが絡みついて、生き物みたいにズルッ……ズルル……って這い上がってくる。


 もう生きた心地がしなくて、けどね、振り向いちゃダメっていうじゃない。


 だから、訊いてみたんだよ。


「もしもし、どちらさまですか」


 って。そしたら言うんだよ。


「これまでテメェに殺されてきた人間だ」


 って。


 抵抗するやつもしないやつも通りがかったら暇つぶしに殺してきたけどさ。んなもん通りかかった連中が弱いのが悪いんじゃねぇですかい。


 だからね、訊いてやったんだ。


「殺した人間がなんのようで?」


「首か角か?」


 会話にゃならんけど、声はそう言うんですわ。


 心底怖くなりましてね。こりゃ、間違ったら殺されると。


 俺が殺してきた人間も、圧倒的な力の前にねじ伏せられた時にゃ、こんな気持ちだったんだなって。


 諦めながら「じゃあ、角で」って言った瞬間――


 スパンッとね、もっていかれたんですよ。自慢の逸物いちもつが。


 幸い、首はまだこうしてつながったままですけど。


 で、振り返るかどうか迷ったんですがね、本当はそのまま目を閉じてりゃよかったのに、つい、魔が差して後ろに視線を向けると……


 暗闇の中にぼんやりと赤い目が二つ浮かんでいたんですよ。


 額には十字傷。この世のモノとは思えんほどの恐ろしい顔。


 ぶるっちまって、そっから先の記憶はなくなっちまいました。


 気絶しちまったんでしょう。逆に運が良かったといいますかね。


 あのまま目と目があってたら、きっとあっしは発狂してたって思います。


 だから旦那も気をつけてくだせぇ。


 最近、このあたりに出るんですよ。


 魔族狩りの化け物が。角折りの銀髪灼眼、額に十字傷の化け物がね。



 俺たちは日暮れ前にツグーニオの町に戻った。


 冒険者ギルドでクロエと待ち合わせだ。


 賑わうロビーの片隅で戦果を確認する。


 手に入れた魔族の角は十本。並べてみると大きさも色も形も様々だ。


 イヴがぶるんと胸を張る。


「あとはクロエを待つだけね」


 リンのオーブもぴかりと光った。二人に頷きつつ返す。


「そうだな。けど、足りなかったらこの後も頼むぞ」


 る気まんまんでリンが刀身を振る。さらしで巻いてても危ないっての。


 イヴがウインクした。


「つまり今夜は寝かせないってことねダーリン? 一晩中魔族を激しく責め立てちゃうのね?」


「言ってることは間違ってねぇが、誤解を招くからやめろ」


「ふぅん誤解ってどんな誤解なのかしら? ねぇねぇダーリン教えて? 純真無垢なイヴちゃんを調教……じゃなくて教育し痛い痛い体罰反対~!」


 途中でイヴのこめかみをぎゅっと片手で握って黙らせた。これが俺流の指導法だ。


 そんな時――


 ギルドに集った冒険者たちがざわついた。




「おい見ろよあの女……血まみれじゃねぇか」


「実力を考えないからこうなる」


「この中に治癒魔術師の方はいらっしゃいませんかーッ!? (笑)」


「つーか血で汚すんじゃねぇよ公共施設だぞ」




 入り口に姿を現したのはクロエだった。


 肩で呼吸する彼女の服は無残に切り裂かれ、血を吸いぐったりと重くなっている。


 よれよれになりながら壁にもたれるようにする彼女に、イヴが飛び出した。


 俺が肩を貸すよりも早い。


「どうしてそんなに死にかけなのよ! 全くもう見てらんないわ! ダーリンとあたしを祝福してくれたよしみで治してあげるから大人しくしててね!」


 祝福ってお前。恋仲って言われたのがよっぽどうれしかったのか。


 俺はニヤニヤしながら遠巻きに見てくる連中をぐるりと見回した。




「ひっ!?」


「な、なんでもありません」


「俺は善意で呼びかけただけで……」


「掃除でもなんでも手伝いますから許してくださいぃ」




 野次馬連中を黙らせる。人を遠ざける威圧感が役立つこともあるんだな。


 リンも「寄らばKill」と言わんばかりだ。人混みを払うようにして場所を作る。


 俺はクロエの体を支えてゆっくり床に寝かせた。


「ダー……それにイヴイヴにリンリン……か」


「意識朦朧としてんじゃねぇかよ。床で悪いがひとまず横になれ。イヴ……頼む」


「もちろんよ!」


 てっきり「がんばった分のご褒美」でも要求してくるかと思ったんだが、サキュバスは素直に従った。


「全身血まみれ傷だらけね。脱がせるけどいいわね?」


「…………」


 クロエはかすかに首を縦に振る。


 俺は周囲の冒険者たちに告げた。


「オラ見せもんじゃねぇぞ! 散れ! 散れ!」


 ホールの人払いくらいしか今の俺にはできない。が、リンも手伝ってくれた。


 イヴが俺の背中に言う。


「あたしだけじゃちょっと大変だから、ダーリンがクロエの服を脱がせてあげて」


「お、俺がか? いやそれはまずいんじゃ」


「死んじゃうでしょ? 早く!」


「お、おう!」


 サキュバスに言われるままクロエの服を脱がせるのを手伝った。


 白い肌に無数の裂傷が刻まれて痛々しい。


 が、傷は新しいものばかりではなかった。


 全身傷だらけだ。あらわになった胸元でクロエの聖印が弱々しい光を点滅させていた。


 まるで息を引き取る寸前みたいで……クソッ。こんな状態で一人、戦わせちまったのか。


 別行動なんて取らなきゃよかった。


 自分の事でもねぇのに思うなんてな。


 悔やんでも悔やみきれないぜ。

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