ひゃっはー! 人間だ袋叩きに……え? 今からでも入れる保険ってあるんですか?
山へと続く道の途中、森に入ると気配と殺気に包まれた。
ざっと二十匹ほどか。緑肌の小さな人影が一斉に俺を取り囲む。
「ひゃっはー! 人間の冒険者だあああああ! 殺せええええ!」
ゴブリンである。子供程度の体躯と腕力だが、非力を数と殺意で補う亜人種。
この国――人間第一主義のルヴェリア聖王国では討伐対象だった。
冒険者を返り討ちにして奪ったであろう赤い兜をかぶり、手斧を構えたゴブリンと目が合う。
「ひえっ……」
緑の小鬼は息をのむ。どうやら俺の顔を見てドン引きしたらしい。
失敬な。
相手がゴブリンだろうと誰だろうと、初対面でそういう反応されると、マジで傷つくからやめろって。
俺の正面に陣取った連中は、軒並み膝がかくかく笑っていた。
最初に威勢の良い声を上げた赤カブトも、手斧を投げ捨て両手を挙げている。
反対に、背後側は威勢が良い。キーキーと甲高い声が響いた。
「なにやってんだよボス! とっとと袋にしちまおうぜ……つーか俺様一番乗りいい!」
それじゃ奇襲になんねぇだろ。と、ツッコミかけたその時――
「旦那あぶねぇ後ろだ!」
赤カブトが、俺に忠告した。
いや、言われんでも殺気マシマシの宣言でわかってるって。
刹那のタイミングで裏拳を放つ。飛びかかってきた一番乗りゴブリンの側頭部を殴り抜ける。
「ぐえああああ! 何ちくってんだボス! この裏切りものおおおおお!」
恨み節とともに一番乗りゴブリンが地面に転がった。
その顔面を踏みつけて、他の連中をぐるりと見据える。
「で、次はどいつの番だ?」
「そうだそうだ! 死にたいやつだけかかってきやがれ!」
相棒よろしく横に並んで赤カブトが吠えた。ゴブリンたちは金魚みたいに口をパクパクさせている。
俺の目が届かないところから「ボスが裏切ったーッ!?」やら「なにやってんだよボス! 見損なったぞ!」と声が上がった。
当然の反応だ。組織の構成員として、上を批判する権利があると思う。
裏切りのクソ上司――赤カブトが吠え返す。
「うるさいうるさいはいそこーうるさーい! いいかい君たち。俺より強いこの方こそ、我らゴブリンブリンブリン盗賊団の新たな首領にふさわしいのべふっ!?」
面倒なので隣でわちゃわちゃする赤カブトの顎を膝でかち上げる。ボスゴブリンはのけぞると、そのまま仰向けに倒れて白目を剥いた。
「なんねぇよ。勝手に首領に据えんじゃねぇ」
ゴブリンたちがざわついた。要約すると、俺を背後から襲った奴がこの一団のナンバー2だったらしい。ボスの赤カブトが倒れ、ナンバー2が俺の靴底を舐めている状態で――
「に、逃げろおおおおおおおおおお!」
誰かが叫ぶと、ゴブリンたちは全員が全員バラバラの方向へと走り出した。ボスとナンバー2を置き去りにして。
まだ意識があるナンバー2の後頭部を地面にめり込ませて告げる。
「ボスは裏切るし仲間は逃げるし散々だな」
「殺せよバカが!」
「殺す価値もねぇよ」
それが正直な感想だ。
この手の連中は駆除しないといつか誰かが餌食になる。
なんてことは十分に考えられるんだが、俺の場合は不思議なことに、生かしておいた方がその地域の犯罪数が低下……というか激減する。
ナンバー2が奇声を上げた。
「て、テメェどんな顔してんだぁ!? ツラ拝ませろ! 憶えていつか必ず復讐してやんぞ!」
俺はそっと足をどけた。ナンバー2と目が合うと――
「もうしません。絶対に。他のやつらにもきつく言って聞かせるんで……ハイ」
俺の顔面は人間はもとより、亜人種にすら反省を促すらしい。
うん、知ってた。




