第一印象から決めてました♥ 逮捕します♥
顔をさらして街を歩くと数分でゴーストタウン完成……も、しばしばだ。
前に闇市で買った白無地の仮面をかぶる。あの時の店主、気前がよくてただ同然で譲ってくれたんだよな。
視界は悪くなるし口元まで覆うんで息苦しいが、しゃーなしだ。
外套のフードをかぶればさすがに――
と、思ったのもつかの間、街を守る衛兵が六人、俺を取り囲んだ。
リーダー格が前に立つ。
「先ほど不審者が冒険者ギルド前にいると通報を受けたが、貴様かッ!?」
「不審者が『はいそうです』と、自分から認めるわけないだろ」
「怪しい仮面で素性を隠すとは、さては入り込んだ魔族だな?」
背後から他の衛兵に取り押さえられ、つけたばかりの仮面をリーダー格にひっぺがされた。
「あ、あわわわ……」
リーダー格は仮面を放り出し、腰を抜かして石畳に尻から着地する。他の兵士がざわついた。
「ど、どうしたんですか隊長!」
「ぜ、全員逃げろ! いや女神教団の人呼んできて! じゃない拘束しちゃダメ! 解放してさしあげて!」
俺はゆっくりと首を後ろに向けた。
「だとよ。とっとと放せ」
「はひぃッ!?」
悲鳴混じりの衛兵たちを振りほどく。連中は蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。
地面にへたり込む守衛リーダーに手を差し伸べる。
「大丈夫かおっさん?」
「も、申し訳ございませんでしたー!」
「いや、白昼に仮面してフードかぶった男がいたら、不審に思うのも無理はないし、あんたはちゃんと職務をまっとうしただけだ」
「あ、あの……その手はアイアンクロー制裁でしょうか? はい喜んで! ですからどうか命ばかりは……」
リーダー格の方から俺の手に額を差し出しあてがった。
何がそこまでさせるんだよ。俺は貸すはずだった手を引っ込める。
信頼してもらうにはどうしたらいいんだか。
「なあ、しばらくこの街で冒険者として活動したいんだが……」
「ひいいいッ! し、しばらくというと明日ですか? 明日には立たれますか?」
「いや、もう少し滞在したいんだけど。だいたい一ヶ月くらい」
「お……終わりだ……この街は……」
隊長は死んだ目をしてぽつりと呟く。
「終わらせんな。で、冒険者たるもの人を助けて報酬を得るのが本懐。何か困ったことはないか?」
「今、とても困っております!」
「おっ! そうかそうか。どんなトラブルだ? 魔物相手なら俺、結構強いんだぜ」
剣も魔法もからっきしだが、腕っ節には自信ありだ。
「怖いんです! それはもう死ぬほど怖いんです!」
「そんなやべぇ魔物がいんのかよ。腕がなるぜ」
軽く開いた手のひらに拳を打ち付ける。
「ひいっ! ぶたないで!」
「いや、ぶっ飛ばすのはその魔物だって。で、どんな化け物なんだ?」
「口が裂けても言えません」
「それじゃあ倒しにいけないだろ。どこにいる?」
「こ、こちらにおわします」
目を伏せ顔を背け、守衛リーダーは俺の足下を指さした。
「んだよ、やっぱり俺のことかよ!!」
薄々気づいちゃいたけどな。
――そう、怖いのだ。俺の顔は。
自分じゃ整ってる方だと思うんだけど、他者の評価とは必ずしも一致しない。
見知らぬ誰かと目が合うと泣くか漏らすか土下座か命乞い。
……ああ、知り合いでもか。
確かに、銀髪赤目は自分以外に見たことないし、額にゃ十字の傷がある。ちょっと珍しい外見だ。
けど、これで強面ってのも無理があんだろ。つーか普通よりほんの少しだけ目つきが悪い程度で、死ぬほど怖がられるのが誠に遺憾である。
守衛リーダーは生まれたての子鹿みたいにぷるぷるしながら。
「そ、そそそそそういえば街の北西に草木も生えぬはげ山がありまして、山頂に古びた城が建っているんです」
「ほほう。いかにもなんか出そうだな」
「は、はい! 満月の夜になると、風向きによっては山の方から獣のようなおぞましい声が響いて……冒険者たちも気味悪がって調査依頼は誰も受けてくれず、街の住人も不安で不安で」
子守歌にするには穏やかじゃない。本当に困ってるなら放ってもおけん。
「声がするだけで実害は出てないのか?」
「今のところ、あなた様ほどでは……はうっ!?」
守衛リーダーは両手で口元を押さえた。
「俺はなんもしてねぇだろ! ぶん殴るぞコラ」
「ひいいいいッ!」
と、いけねぇ。びびらせちまった。
俺は仲良くなりたいし、普通に社会に貢献して人と人の輪の中で暮らしていきたいんだ。
「わかった。俺が声の正体を突き止めてきてやる」
さっきの悶着で石畳に落ちた白仮面を手にとる。と、守衛リーダーに押しつけた。
「こいつはとっといてくれ」
「は、はいい?」
「必要なくなるからな」
解決すれば、信頼されて街にも良い噂が広まるはずだ。
となれば仮面で顔を隠さなくていい。以上、証明終了である。
誤解されるのは仕方ない。行動で示す。
それこそが、たぐいまれなる凶相貌で生まれた俺の、たった一つしかないやり方だった。




