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役立て! 癒やし系いやらしサキュバスちゃん♥

 意外って言っちゃ悪いんだが、イヴが有能だった。


 森の中、カマキリ魔族の鎌を両方たたき折り、リンが触覚みたいな角をパキンと切り取ったところで――


「あっ! ダーリン怪我してるじゃない。それに筋肉に乳酸もたまってるみたいだし、まとめてヌルッとヒーリング♪」


「おいやめろって触んなよ?」


「直接おさわりしなきゃ効果出ないんだから遠慮しないで。あれ? もしかしてズボンの中も怪我してる? これは触診が必要ですにゃぁ」


「ベルトに手ぇかけんな! わかった……いや、頼む」


 俺はカマキリ魔族に切られた左腕を差し出した。傷にそうように手を滑らせる。


 文字通り「手当」だ。イヴの手のひらから生暖かい粘液がじわっとにじみ出た。


「そうだヌルヌルの腕をおっぱいの間で挟むのってどうかしら?」


「なあイヴ。後ろでリンがお前の首筋狙ってるぞ」


「じょ、冗談です! 冗談だからねリンちゃん? 怒ってばっかりだと刀身に白さび浮いてきちゃうわよ?」


 銀剣がヒュンと空を斬る。


 ピンクの髪が数本、はらりと待った。


「美容院は間に合ってるからお願い許して! どうか前髪だけは……前髪だけは勘弁してくださひぃ!」


 悲鳴を上げながらイヴは大人しく(?)俺を治療する。


 触られるのがくすぐったいやらヌルヌルしてるやらで困る。


 困るけど、擦り傷切り傷はまるで無かったみたいに消えて、痛みも疲労も無くなるのである。


 そこらの治癒術士より優秀なんじゃねぇか?


 イヴが俺を癒やせるということで、リンも厳重注意にとどめたらしく、サキュバスの前髪がばっつんされることはなかった。




 洞窟の奥でモグラ魔族を追い詰める。


 リンの刀身が光をまとって周囲を明るく照らした。


 最初は闇に紛れてうっとうしかったが、聖力絶倫(照明モード)のおかげで見敵必殺拳のラッシュ。十発ほどたたき込んだところで観念したようだ。


 目を細めモグラが俺の前にひざまずく。野生の熊くらいデカい図体が、すっかり縮こまっていた。


「すまなかった。もう畑は荒らさない。約束するから見逃してくれ。おれにも家族が……」


 まさかこいつ、家族を養うために畑の作物を盗んでやがったのか?


 イヴが叫ぶ。


「騙されちゃダメよダーリン! 魔族は眷属を作って従えることはできても、家族は作れないの!」


 瞬間――


 平伏していたモグラの体がグッと持ち上がり、鋭いツメが俺の鼻先をかすめた。


 こいつ騙しやがったな。イヴが注意してくれなきゃ鼻がもげてたところだ。


 ツメで空を切り万歳状態のモグラを睨み上げる。


「なんか言うことはないか?」


「ご、ごめんなさい」


「よく言えましたッ!」


 素直に謝れて偉いので、ご褒美にえぐり込むようなアッパーを鳩尾にたたき込んでやった。


 泡を吹いて悶絶、気絶し倒れたまま痙攣するモグラ魔族。立派な一歩角をリンがニンジンでも切るようにサクッとカットする。


 イヴが拾って道具袋にしまい込んだ。


「ほんとにもう魔族の話なんてまともに訊いてたら命がいくつあっても足りないわよ?」


「おっ、そうだな上級淫魔」


「あたしはいいの。ダーリンにとって特別な存在だもの」


「自分で言うかそれ?」


「ダーリンに愛してるをもらえるまでは、自分で自分を鼓舞していかなきゃいけないと思うの!」


 拳を握ってどや顔で、イヴは楽しそうだ。


「お前のポジティブさ、一周回って見習いたくなってきたぞ」


「一周回ったら同じ地点じゃない? ってことは、すでにあたしをリスペクトしてるってことね! ダーリンってばこのツンデレさん♪ ご褒美におっぱい揉む?」


「揉むかよッ! つーか、さっきの話なんだが……魔族について俺はなんも知らん。いったいどういう連中なんだ?」


 イヴは腕組みをする。胸をゆっさりもちっと盛り上げるようなポーズだ。厚手の服を身にまとっていても、膨らみの大きさについ、視線が泳いじまう。


「魔族は呪いで他種族を支配できたりしちゃうわけ。その力が強くなれば限定的に自分の『世界』をこの世界の中に生み出すことも可能なの」


「よくわからんのだが」


「吸血鬼とかゾンビみたいに呪いを広めて手下を増やせるって感じね」


「なるほどな。その呪いってのは大本の魔族を倒すとどうなるんだ?」


「綺麗さっぱり消えて元通り……とは言えないかも。死んじゃうとさすがにアウトね。けどダーリンも体験済みでしょ? カブトムシになっちゃったけど、元通りだし」


 俺は小さく頷いた。


「あのカブトムシ野郎は世界中の人間をカブトムシにしようとしてたのか?」


「ま、どうかしらね。世界とまではいかないけど、町一つくらいは支配して自分だけの『世界』に作り替えたりしてたかも?」


「人間よりも強いのに不思議だな。よくこの国が滅んでないもんだ」


「魔族には人間みたいに協力するって意識が無いんだもの。だから魔族同士の縄張り争いで勢力が広げられなかったりするのよ」


「なあイヴ……魔族は死ぬとどうなるんだ?」


 イヴは俺の肩に手を添えると、背中から羽を生やしてパタパタと浮かび上がった。


「ん~わか~んな~い」


 困った時だけ幼女モードかよ。


 まあ、言いたくないならかまわんし、本当に知らないのかもしれんし。


 にしても魔族か……。


 放っておけばヤバい連中みたいだ。こいつらの仲が悪かったのって、人間にとっちゃ不幸中の幸いだったのかもしれん。知らんけど。

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