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魔族狩りの男(とサキュバスと聖剣)

 ほがらかな日差しの中――


 俺はうつ伏せになった魔族の背中に乗って、左右から生えた角を掴んでいた。


 街道から外れた森の奥。青肌金眼の屈強な魔族が涙ながらに叫ぶ。


「鬼! 悪魔! 人でなし! 人間のクズ! ゴミ! スカタン! 根源悪! ギブ! ギブギブ背骨言わしちまうからあ”ーッ!!」


 ひどい言われようだ。イヴが両手の中指を立てた。


「ちゃんとダーリン訊いたでしょ? お前は悪い魔族かって? あたしみたいに良い子ならこんなことになんなかったのにね? ダーリンに逆らう魔族は皆殺しなんだから♪」


 いや、なんでそうなるよ。


 サキュバスの隣で浮遊する銀剣まで、水晶オーブをピカピカと激しく点滅させた。テンション高いなおい。


 現在、魔族にまたがって角を掴んで背骨を極めてる俺も二人のことは言えんのだが――


 審問官クロエ曰く、森でも洞窟でも塔でも、町の外で遭遇する魔族の99割が悪い奴。とのことだ。十割超えてるじゃねぇか。


 とはいえ、万に一つでもイヴみたいな悪気の無い魔族じゃないか、確認してる。


 ま、大半は話しかけるより先に俺の顔見て逃げちまうけど。


 で、逃げない奴はむしろ絡んできたり攻撃してくる。カブトムシ上級魔族と同じような展開になりがちだ。


 おかげで気兼ねなくぶっ飛ばせた。


「んじゃ、勝負は勝負だ。もらっていくぜ。リン……ひとおもいにやってくれ」


 銀の刃が宙を舞い、スパッと青肌魔族の右角を切断した。同時に、魔族の背中に浮かんだオーガっぽい魔印が消える。


「ひいい! もう旅人を襲いませんからどうか命ばかりは許してくださいいいい!」


 馬乗りから解放すると魔族は逃げていった。


 イヴが俺に向けて親指を立てる。


「ダーリンだんだん魔族の狩り方が上手くなってるんじゃない?」


「魔族のお前が言うとなんかアレだな。いいのかよ? 同じ魔族だろ?」


「群れをなし社会を作る人間とはちょっと違うの。他の連中はライバルだし、あたしに遠慮はいらないわよ!」


 そういうもんか。


 で、リンはというと俺の脇腹に、赤く光った水晶球をぐいぐい押し当ててくる。


「お、おいどうしたんだよ? 怒ってんのか?」


 イヴがうんうんと頷いた。


「えっとぉ……角だけじゃ我慢できない血がほしい。魔族の血を吸わせろ。ですって。あっ……ちょダメよダーリンのエクスカリバーがあたしの純血を散らすのが先でしょ?」


 俺はピンク髪の脳天を軽くチョップする。


「痛ッ! ちょっとしたサキュバスジョークじゃない?」


「清楚系じゃなかったのか?」


「あっ……うん! そうなのあたしってば、清楚が二足歩行してるような淫魔だから、下ネタってちょっと苦手なのよね」


「どの口がほざきやがる」


 少女の頬を片手でつまむようにして挟む。口をすぼめて尖らせたような形になると、イヴは「ん~むちゅむちゅ! きすみーぷりーず!」と、顔を近づけてきた。


 目を閉じてキス顔(?)だ。


 ヒュンと空を切り、リンがイヴのぷりっとした唇の接近を阻む。


 剣の腹にむしゃぶりつくと「んちゅ~むちゅむちゅ」と淫魔はかまわず続けた。


 リンの刀身が、くすぐったいのを我慢するみたいにぷるぷる震える。


「おいイヴ。それリンだぞ?」


「ぷはぁ! 将を射んと欲すればまず馬を射よっていうでしょ?」


「たまに頭良くなるのやめーや」


「天才ですから。で、まずはリンちゃんにキスの気持ちよさを知ってもらって、これは素晴らしい! って思ってもらえばダーリンにもお勧めしたくなると思うんです。ぺろぺろはふはふ」


「そうかがんばれよ天才」


 魔族の角を道具袋に入れて俺はため息をついた。


「ところでダーリンって魔族を殺さないのね? 舐めプ? 舐めプですか? 魔族ペロペロ系つよつよ冒険者……ってこと?」


 どういう分類だよそれは。


「別に舐めてるつもりはないんだけどな。だいたい逃げてくから、追いかけていってトドメってのは……その、なんだ……ええと、ちょっとヤバすぎんだろ」


「そっか。あたしは逃げないよ! 逃げずに最後まで抵抗するもダーリンにねじ伏せられて蹂躙されてみせるから!」


 玉虫色の瞳をキラキラさせて、なに言ってんだこいつは。少女は続けた。


「あっ、ちなみに蹂躙っていうのはもちろん性的な意味も含むから安心してね」


「安心って言葉の意味を辞書で百回引いてこい」


「あんしん……あんあんあんあんあんあんあんあんあんあ~ん! あんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあんしんあ~んしん!」


 いきなり壊れるんじゃねぇ! 奇声を上げるな変態淫魔。




 で、現状どうなってるかというと、俺たちはクロエと手分けすることにしたのだ。


 時間が足りない。


 クロエは表に出回らないブラックリストから魔族狩りをする。そっちの手伝いを申し出たんだけど「足手まといは不要だ」と一蹴された。


 なのでこっちは冒険者らしく、ツグーニオの町の冒険者ギルドの依頼を片っ端から集めて、しらみつぶしである。


 手配書は十枚。全部倒しても二十に届かない。が、それでナルシスが納得しねぇってんなら、拳で語り合うしかないだろう。


 俺は自分の手のひらに拳を打ち付けた。


「ヨシッ。次行くぞ次!」


 リンが切っ先を天に向け、イブも握った拳を掲げると「えいえいおー!」とときの声を上げた。

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