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いきなり斬首刑

 薄暗い地下室で、俺の首はギロチンに掛けられていた。


 頭上からクロエの声が響く。


「はい、じゃあダーの者は正直に答えるように。今の気持ちは?」


「最悪だ。それよりイヴとリンはどこにやった?」


「イヴイヴはお腹いっぱいでおねむだ。リンリンはぴったりの鞘に収まってる」


「無事なんだな?」


「ダーの心がけ次第だがな」


 二人は人質ってわけか。









 クロエに連れられセントイナカの西にあるツグーニオの町にやってきた。


 教会に顔が利くってんで、夕飯をごちそうになったのまでは覚えている。


 美味い飯だった。


 剣なんで一緒に飯を食えないリンも、肉とかパンを切り分けたりしてくれた。


 誰かと会話しながら食うのって楽しいもんだ。


 で、俺とイヴとリンがどうして一緒になったのかもクロエに話した。


 宴もたけなわ。変な味の葡萄ジュースを飲まされてふわっと気持ち良くなり……今に至る。


「なんで教会の地下に断頭台があるんだよ?」


 ギロチンだけじゃねぇ。鞭だの拷問器具だのが転がっている。


 顔を上げるとクロエが冷たく笑った。


 膝頭をそろえてしゃがみ込み、俺の頬を手のひらでペチペチする。


「勝手な発言は許可していないぞ」


 首と両手首を拘束されて身動きがとれん。


「ダーの者よ。暴れても無駄だ。対魔族用の特別製拘束台だからな。まあ、壊せるものなら壊してみろ。寝た子がどうなるかはわからぬが」


 無理すりゃいけるかもしれんが、イヴたちの身に危険が及ぶ。


「わかった。言うことを聞いてやるから二人には手ぇ出すんじゃねぇぞ」


 上目遣いでにらみつけると、クロエの胸元に光がポッと灯る。教団職員は手で覆った。


「殺気立つな。聖印がうずくではないか」


「聖印ってなんだ?」


「女神の加護を身に宿した者に浮かぶ証だ。貴様の暴走した聖力に反応している」


「俺の……聖力だと?」


「貴様、自分が溢れ出る聖力由来の天然性威圧感を振りまいていることを、自覚していなかったのか?」


「はあ?」


 つい強い口調が出ちまった。クロエの胸元に青い炎が揺らめいて、彼女の持つ印の形に服を内側から焦がす。


 服の布地に焼きごてを当てたみたいな痕が残った。


「先日下ろしたばかりだというのに、台無しだ」


「わ、悪い。なんかすまん」


「謝るとはおかしな男だ」


 女はフフっと小さく笑う。


「って、そうだぞ! おかしなまねはやめてとっとと解放しやがれ!」


「貴様のような危険人物は野放しにできぬ」


「じゃあずっとこのままなのかよ? つーか、俺を殺すのか?」


「さーてどうしたものかー。命乞いするかクロエ可愛いって言え」


「ブース!」


 女がギロチンの刃を落とす紐に手を掛けた。


「可愛い! クロエ可愛い! 半端ねぇ!」


「雲を突き抜ける大聖樹のような高い志で貴様の過ちを許そう」


 おっかねえ女だ。


 けど、クロエの言うことが本当なら――


「もしかしてみんなが俺を怖がるのって、顔のせいじゃないのか?」


「顔もなかなかに狂暴だがな。無意識に放たれる大きな力は人に恐れを抱かせるのだよ」


「もっとわかるように言ってくれ」


「さしずめ……抜き身の剣を振り回し目が合う人間すべてに斬りかかっていたようなもの。相手に心得がなければ、誰も彼も怯えて逃げるのは当然ではないか?」


「そんなつもりねぇぞ!」


「無自覚は罪だな」


「つーか……そうか……そういうことだったんだな!! ありがとうクロエ!」


 少女の青い瞳が丸くなる。


「ギロチンに掛けられているのに、感謝の言葉とは驚きだ」


「そうかもしれんけどよ、うれしいんだ。顔が怖いのは生まれつきでどうしようもねぇけど、要は俺の中の力ってのを飼い慣らせばいいんだろ?」


「不可能だ。力を制御する聖印があれば貴様の体のどこかに印の光が宿るはず」


 教団職員は値踏みするように、ぐるりと俺を一周して正面に戻ってきた。


 再び目の前でしゃがみ込む。むちっとした太ももはぴたりと閉じられていた。って、なに見てんだよ俺は。


 クロエは首を左右に振る。


「ダーには聖印が無い」


「なんで断言できんだよ?」


「全裸で私と手合わせした時に、どこも光っていなかったからな」


「パンツ穿いてただろうが!」


「大差無かろう痴れ者」


 正論パンチやめーや。


「だ、だいたいその聖印が無いとどうだってんだ?」


「百年経っても制御できずに力は垂れ流しだな。惰性ならぬ惰聖といったところか」


「じゃあ俺は一生普通に暮らせない……ってことか!?」


「人間諦めが肝心だという。強いのだから冒険者が適職だと、心の底ではわかっておるのだろう?」


 薄々気づいてたが他人から言われると……やっぱ辛ぇわ。


「そ、そうかもしれんけど……なんとかならないか? 冒険者を続けるにしてもよ、誰からも怖がられるんじゃ、なんのために人助けしてんだかわかんねぇよ」


「貴様、顔に似合わず人助けがしたいのか?」


 顔の事は余計だぞ。ったく。


「自分にできる範囲でな。もちろん人に好かれたいって下心もあるぜ。けど……」


「けど……なんだ?」


「困ってる奴を見るとなんか放っておけねぇんだ。なのに助けようとすると逃げちまうし」


「封印されたイヴイヴを解き放ったのも……なるほどそういうことか」


 クロエは顎に手を当て考える素振りを見せると――


「力を抑制する方法……貴様一人では無理だが、常に誰かがそばにいて中和すればあるいは……」


 そういえば――


 カブトムシ魔族と戦った時、あいつの角を折るまでは普通に会話のやりとりができてた気がする。


 奴の額の刻印が消えた途端、態度が急変した。


 他にも心当たりがある。


 イヴも腹の下あたりに浮かんだんだよ。刻印が。


 あいつ、口じゃ俺を怖がってるみたいに言うけど、あんまそういう風には見えないし。


「もしかしてその印ってのは、魔族も持ってたりしないか?」


 クロエは胸元をゆっさり揺らして頷いた。


「上級魔族にもなれば、程度の差こそあれ魔印を持つものも少なくなかろう」


「そういう奴はやっぱ、強いんだよな?」


「モノによるがな。印を持たぬのに英雄級の力を持つ貴様が異常なのだ」


 後半小声で聞き取れなかった。聞き返そうとするとちょうどのタイミングで少女は立ち上がる。


 一瞬、短いスカートの中に白い布地がちら見えした。


 犬の肉球柄だ。結構可愛い趣味してんなおい。


「ん? どうした顔を背けて」


「なんでもねぇよ」


 見るつもりがなくても首は固定されてるし絶妙に視界に入ってくるんだよ。


 クロエは小さく息を吐く。


「貴様のことは理解した。ちまたでは噂になっているそうだが、実情と多少の差異があるらしい」


「噂ってなんだよ?」


「魔族千人殺しに魔獣の灼眼光。銀竜イカスミ陵辱者にして魔族の角蒐集家。いにしえの魔城消し去り犯。カブトムシのカブト割り。教団女性職員二本差しの男……と、枚挙にいとまが無い」


「おい二本差しはついさっきの事だろうが? 噂になるにしても早すぎっから!」


「教団の組織力を侮ってはならぬ。先ほどセントイナカ教団支部よりもたらされたばかりの、産みたて卵より新鮮な情報だ」


 この世界には噂好きが多すぎる。


 つーか、そもそもの情報源がなに言ってんだ?


「いいかクロエ。二本差しはお前が言い出したことだからな。根も葉もねぇことはお前が一番わかってんだろ?」


「乙女の穴に突き入れたのは貴様だ。火の無いところに煙りは立たぬぞダーの者よ」


 クロエの袖口からじゃらりと鎖が石畳に落ちた。青い瞳が冷たく告げる。


「尋問はここまでとしよう。貴様はシロだな」


「お、おう! じゃあとっとと解放してくれ。肩が凝っちまう」


「このまま待っているがいい。貴様につきまとう魔族は私が処分しよう。なに、眠っている間に苦しまず逝かせてやる」


「お前、イヴに手を出そうってのか!?」


「つきまとわれて迷惑をしているのではないか? それに魔族は魔族。人間を至上とするルヴェリア聖王国の平和を乱す悪しき輩だ」


 クロエが背を向け地下室の出口に向かおうとした。


 このままじゃイヴが殺されるッ!?

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