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一難去って新たな刺客

 淫魔の声が平原に響く。


「ほら早く服着なさいよ! うら若き乙女が肌をさらすだなんて、なんたることですか? この痴女の群れどもめ!」


 お前が言うな上級淫魔。


「なあイヴ。目隠しすんのはいいけど、手からヌルヌル出すのは止めてくれよ」


「こ、このヌルヌルはマッサージ効果があって健康にいい奴だから大丈夫よ! 粘膜から吸収されるタイプの媚薬じゃないし健全な全年齢向けのヌルヌルだから」


 健全か不健全かじゃねぇんだよ。


 顔がベトベトだ。草原を吹き抜ける風が俺の股間を揺らす。


「服、着させてくれよ」


「そしたら見るでしょ!? 見ちゃうでしょ? ダーリン浮気はダメなんだからね!」


「俺とお前は付き合ってないだろうが」


「むきいい! 口答え禁止!」


 手から出るヌルヌルがドロドロに変わった。顔どころか全身ドロドロヌチョヌチョである。ここは聖なる銀剣に頼るか。


「おいリン。なんとかしてくれ」


 応えたのはイヴだった。


「はーい残念でした。リンちゃんも今回はあたしの味方ですぅ! 他の女の裸を見せるつもりはありませ~ん」


 やっぱりこいつら仲良しじゃねぇか。


 と、思った矢先。


 知らない女の声が響いた。


「巡礼者を脱がした上に、本人は全裸で全身ヌルヌルテカテカ。今から処刑するが逝く前に申し開きはあるか?」


 巡礼者? ああ、元に戻った女たちか。


「って、処刑ってなんだよ! 俺じゃねぇぞ!」


 イヴの手がパッとのけられた。


「もう目を開けていいのか?」


「うん。だいたいみんな服着たし……なんか一難去ってまた一難? みたいな……」


 ゆっくりまぶたを上げる。


 白いローブの巡礼者ご一行様は、キャーキャーキャイキャイ言いながら、街道をセントイナカ方面に逃げていった。


 近くの森から声の主が姿を現す。


 闇色の修道女服に身を包んだ黒髪の清楚系だ。スカートは聖職者にしてはらしくなく膝上丈で、足はすらりと長い。背もイヴより頭一つ高かった。


 青い瞳がゆらりと燃える。女の両の袖の下からじゃらりと鎖が地面に落ちた。


 漆黒の修道女は口元を緩ませる。


「では始めようじゃないか。抵抗したければすればいい。苦しむ時間が増えるだけだ」


 男っぽい口ぶりだが、声は透き通った水晶の響きである。


「先に服着ていいか?」


「着衣を望むとは変わった露出癖の持ち主だな。あっ……さては戦闘中に脱いでいくつもりか。着なければ脱げないと? なんとも度しがたい」


「地獄みたいな深読みやめーや」


 突っ込む俺の隣で、イヴが拳を握って身構えた。口でシュッシュといいながら、虚空にパンチを連打する。


「ちょっとダーリンにいいかがりはよしてちょうだい!」


「貴様、魔族か?」


「だったらなによ?」


 二人の少女の視線が交錯し火花を散らす……が。修道女は首をかしげた。


「どこかで会ったか?」


「し、知らないわよあんたなんて!」


「あんたではない。私はクロエ。泣く子も泣き止みまぶしい笑顔を弾けさせ、大地は潤い太陽の光が降り注ぐ感じになる女神教団の団体職員だ」


「自己紹介が長いわね。職員って修道女じゃないわけ?」


「違う。この格好はアレだ。世を忍ぶアレな姿だ。色々便利だからな」


 案外ふわっとしてるぞ、この女。


 二人がやりとりしている間に、右腕で体についたネバネバを払ってパンツだけは穿く。


「下がってろイヴ。俺が売られた喧嘩だ」


「けどダーリンは悪くないじゃない!? それに……」


「大丈夫だ。ちゃんと手加減すっから」


 俺は視線を漆黒の教団職員(?)――クロエに向け直した。


 こいつ……イヴに負けず劣らずいい度胸……もとい、いい胸囲である。布地の厚い修道女服の上からでもわかる、抑えきれないボリューム感だ。


 油断はできんな。

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