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大きくなったらカブトムシになりたいと思っていた時期がありました

 セントイナカを出て西の街道を進む。と、異変に気づいた。


 森の中でもない平原がカブトムシだらけなのだ。角がないから全部雌みたいだな。


 しかもそこかしこに人間の服……だよな。白いローブが四散して異様な光景だった。


 いや、もっと異様なのが目の前にいる。


 街道を塞ぐように、巨大カブトムシ男が俺たちの行く手に立ちはだかったのだ。


 立派な角に全身を甲冑のような外殻で覆った、二メートル越えの大男。


 茶褐色の外皮はつやつやテカテカである。


 ただ、全身のあちこちが削れていた。歴戦の古傷だろうか。


 カブトムシ男は俺の顔を指さした。


「ここを通りたければ樹液をよこせ下等生物」


「持ってるわけないだろ。つーか、なんなんだお前は」


「我が名はヘラクル! 甲虫魔族の王となるモノだ! 蜜を捧げよ!」


「なんだ腹減ってんのか? 人に頼らず自分で探すか、働いて買えよ。大人だろ」


「下等生物がああああ! 魔族舐めてんのかああああ!? 我は再起を図りあやつを倒さねばならんのだ!」


 知らんがな。俺は首だけ振り返ってイヴに訊く。


「もしかしてお前の知り合いか?」


「えっ? 全然知らないしなんかテカっててキモいし生理的に無理なんですけど」


 一応リンも確認する。と、オーブが赤く点滅した。びゅんびゅん動いて革紐を外そうと試みる。魔族が出てきてハッスル状態だ。


 カブトムシ魔族――ヘラクルが問答無用で殴りかかる。俺ではなくイヴめがけて。


「獣人風情が舐めた口訊くなあああああああ!」


 俺は銀剣のリードを手放し自由にしながら、ヘラクルの拳を手で受け止める。


 ドスッと重たいが、見た目ほどじゃあない。


「リン。イヴを守ってやってくれ」


 途端にリンが地面に落ちて動かなくなった。ボイコットである。イヴが「リンちゃんはダーリンに使ってほしいみたい」というのだが、あいにく剣は苦手だ。


 ヘラクルが吠えた。


「ぐぬぬぬふんふんふんぬがああああ!」


 拳を引こうとするが、力を込めて粉砕した。


「ぐはああああッ!? な、なん……だと……本当に人間か!?」


「失礼な。どっからどう見てもごく普通の一般冒険者だろうが。その角、たたき折るぞコラァ」


 後ずさるカブトムシに睨みを利かせる。


「ぐぬぬぬ。許さんぞ! 下等生物の分際で、先ほどから異様な魔力を放ちおって。上級魔族を舐めるな小僧!」


 ヘラクルの額に紋様(?)が浮かんだ。


 イヴが声を上げる。


「ダーリン気をつけて! こいつ、見た目がアレだけどヤバいよ!」


 気をつけるもなにも、見た目からして怪しさ満点のヤバい奴だ。


 しかも、俺と目を合わせても大丈夫らしい。


「なあ、ちょっといいか?」


「どうした下等生物。怖じ気づいたか? ひざまずきわびを入れれば命だけは助けてやらんこともないぞ」


「俺のこと、どう思う?」


「今から命の取り合いをしようという時にだな、初対面の相手にする質問かそれは?」


 正論やめろ。俺だっておかしいとは思ってんだよ。


「確かに。けど、本当のところどうなんだよ? 友達になれそうか俺たち?」


「出会い頭に我が右拳を潰しておいて、なに言ってんだ? イカれてんのか?」


「そっちがイヴに殴りかかったからだろうが」


 イヴが魔族なのにいい奴っぽいから、ワンチャンあるかと思ったんだが。


 ヘラクルが腰を落として身構えた。


「先に小僧の方から始末してくれるわ!」


 魔族が地を蹴る。一瞬で加速し角が俺の胸を突き刺そうとした。安易に避ければ背後のイヴが危ない。


 ギリギリまで引きつけ体をひねって角の直撃をかわず。鋭利な先端が脇腹をかすめたが、カブトムシ男の頭をヘッドロック。勢いを利用して地面に落とす。


 首を極めたまま大地に叩きつけた格好だ。死んだかもな。


 立派な角が土の地面に突き刺さり、ヘラクルは直立不動状態になった。


 ピンと体をまっすぐにして、逆さまなまま偉そうに腕組みする。


「はっはっは! これで終わりだ下等生物!」


「頭から地面に角ごと埋まって逆立ちしてるやつがなに言って……」


 ツッコミ途中で俺の体が縮みだす。あっという間に手足が細く変容した。


 イヴの悲鳴が平原を駆け抜ける。


「ダーリンがカブトムシになっちゃったーッ!」


 なん……だと……。


 俺の両手が虫の前足になっていた。あの角に傷つけられるとこうなっちまうのか。

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