無いなら作れってそれできる奴の理論だから!
代金を置いて店を出た。
通りは人で賑わっている。むき身の剣と裸の淫魔を引き連れていた時は、どうしたって視線を集めちまってたが……。
町、平和。
つーか、俺一人の時よりも大丈夫? な雰囲気だ。
どこからか声が聞こえてきた。おばちゃんたちの井戸端会議だ。
「まぁ~怖い顔だけど彼女は可愛いわねぇ」
「あらぁもしかしたら兄妹かもしれないでしょぉ」
「お父さんよっぽど強面だったんでしょうねぇ」
二人でいるだけで、世間の見る目ってこんなに違うのか。
唖然となった俺に、イヴがぱつぱつ気味な胸を張った。
「これで準備完了ね! で、どこ行くの? っていうか、ダーリンってなんで旅してるんだっけ?」
「なんでってそりゃあ、アレだよ」
イヴが尻尾をぶんぶん左右に振った。
「アレなのね! ダーリンは自由な風になりたいのね!」
さらしに巻かれてミイラの副葬品状態なリンもまで一緒に、刀身を左右に振る。
「ほらリンちゃんもかっこいいって言ってるわよ!」
リンは布に包まれた刃を上下に揺らした。むき出しより安全だが打撃力はあるから油断ならん。
しかしまあ、そのなんだ。
そもそもイサリビ島から追放されなきゃ、旅なんてしてねぇよ。
俺が出て行かなきゃ、俺をかばってハブられてたじじいに面目が立たん。
村を出る時、じじいは拾った俺に脅されてたってことにしたんだ。
戻ったら、せっかく村八分から復帰した恩人がまたぼっちになっちまう。
「お前らが考えてるような理由じゃねぇからな」
「じゃあなによ? もしかして魔族や剣には話せない悲しき過去なの?」
思えばずっと、話せる相手がいなかった。
けどよ……。
昔の事はいいんだ。俺の中でケリはついてる。
問題はこれからの事だ。島に帰るつもりは無い。
「俺は……俺を怖がらず受け入れてくれる居場所を探してるんだ」
友人や家族。ご近所付き合い。そういったものに憧れがあった。
「じゃあもう安心ね! あたしとリンちゃんがいるんだし」
「安心じゃねぇよ。お前らは俺が見とかないと危なっかしいだろうが。ともかく、村でも町でも住みやすいとこで、普通に働いて普通に暮らして、普通に生きたいんだよ」
イヴは腕組みをして下乳を二の腕で支えると首をかしげた。
「すればいいんじゃないかしら?」
「できねぇんだ。みんな怖がっちまう」
「ぷぷ~! ダーリンちょっと目つき悪いしね」
ちょっとで済んでりゃ苦労もない。
「あぁん? ぶっ飛ばすぞ?」
「ふっふ~ん♪ 事実陳列罪で暴力振るうんだぁ? ダーリン優しいから女の子に手を上げられないでしょ?」
クソッ……優しいかはともかく、こいつ見抜いてやがったか。
「うっせーよ。ったく。それよりイヴは俺のことがちゃんと怖いんだよな?」
話しているとそんな気がしてこない。
少女は握った拳の親指を立てて、玉虫色の瞳をキラキラさせた。
「もちろんよ! めっちゃ怖いわ! おかげで見つめられると生きた心地がしなくて……くぅぅ最高ッ!!」
今までに無いタイプのリアクションだ。さらに彼女は続けた。
「世界中のみんながあたしになればいいのよ!」
「お前みたいな変態ばかりになったらこの世の終わりだろうが」
「ええぇ。けど実際問題、無理だと思うけどなぁ。ダーリンを無条件で受け入れてくれる国なんてあるのかしら?」
言われちまった。
「そ、そそそそそんなもん探してみなきゃわかんねぇだろ!」
「ま、確かに。けどダーリンもダーリンでちゃんと素直になって、相手に自分をわかってもらう努力しなきゃだめよ? いつか見つかると思うんじゃなくて、居場所っていうのは自分で作っていかなきゃなんだから」
「わーってるよそんくらい」
「じゃあ、まずはあたしに対して素直になってね。はい、リピートアフターミー。おっぱい触らせてください。キスさせてください。エッチさせてください。はい!」
「はい! じゃねぇよ!」
こんなことで手は上げないが、俺は人差し指で少女のおでこを弾く。
「痛ッ! 脳! 脳が破壊されるから! NTRみたいになっちゃうから!」
少女は両手で額を押さえる。時々こいつの言ってることがよくわからんのだが、わかったら人間としてダメなのかもしれん。
リンのオーブがキラキラと瞬いた。
「ちょ! リンちゃんなにぷぎゃってくれちゃってるわけ!? やんのか? おらやんのかぁ?」
水晶オーブにガンくれ始めるイヴ。お前、案外口が悪いな。
とはいえ、こいつの言ったことにも一理ある。
居場所は作るもの。
俺とイヴのやりとりが衆目を集めたらしく、賑わう通りから人の気配がそっと消え、いつの間にやら閑古鳥が鳴き隙間風が吹きすさんだ。
いつものゴーストタウン化だ。
作れる気がしねぇよ居場所ッ!




