サキュバスに服を着せて尊厳を破壊してみよう
セントイナカの亜人向け装備屋にて、俺はイヴの服を見繕う。
お代は結構です。
よく言われるんだが、困ってもいないのに人の善意に甘えるのはいかがなものか。
店主にだって生活があるのだ。
問題はイヴだった。
「どれもこれもダサダサね。エッチじゃなくてもせめてかわいい服がいいんですけど? 女の子はフリフリが大好きなの!」
「うるせぇ角もぎ取るぞ!」
少女は頭のご立派な巻き角を左右の手でそれぞれぎゅっと握った。
「えいっ!」
ぽんっと音を立てて角を外す。いや、取れるんかい。
「ちっちっち♪ ダーリン甘いなぁ」
外した角をぽいっと投げ捨てると、それは泡となって空気に溶けて消えた。
「大丈夫なのか?」
「頭軽くなるし、実はこっちのが楽なの」
「じゃあ、なんで普段から生やしてんだよ」
「魔族としてのぉ……風格ですかねぇ。おしゃれは我慢って言葉を知らないのかにゃぁ?」
知らんがな。とはいえ、そういうことならば。
「羽と尻尾はしまえたりせんのか?」
「デビルなウイングはこういう感じで……っと」
コウモリの羽が縮む。肩甲骨と首の間あたりに小さな紋様になって収まった。
角と羽が無いだけで、ビジュアル的にずいぶんおとなしくなったもんだ。
仕上げといこう。
「よし、尻尾引っこ抜いてやっからこっちに尻向けろ」
「無理無理それやっちゃうともう人間と変わんなくなっちゃうし! くねくねセクシー尻尾は淫魔の個性よ! アイデンティティーよ!」
黒革鞭みたいな尻尾をピンと立ててイヴは頬を膨らませた。かまわず掴んで引っ張ってみる。
「きゃん! 尊厳破壊プレイ! ダーリンのエッチ!」
喜んでるようなので、これ以上は止めておこう。
とりあえず獣人向けの尻尾穴付き装備を一式調えた。
長袖にズボンにブーツにマント。深緑やブラウンにカーキの地味な色使いである。
服を着てイヴは眉尻を下げた。
「うえぇ。地味すぎるうう! 吐きそう」
「清楚に見えるぞ」
「超気に入りました! ねえねえダーリン似合う? 似合う?」
手のひら反転早すぎじゃねぇか。
「似合ってる」
「んふ~! 正直でよろしい。美少女は服を選ばずってね。あと……」
少女は膝頭をこするようにもじもじしながらうつむいた。
「ありがとね。プレゼントしてくれて。すっごくうれしい。大切に着るから」
ぽっと頬を赤らめてしおらしい。なんか……普通にかわいいのやめろ。反則だろ……ったく。
「淫魔は裸が普通で服は苦手なんじゃあなかったか?」
「いいの! ダーリンが選んでくれたんだもん」
胸と尻のサイズ的に在庫がそれしかなかったんだが、気に入ったんならいいか。
すると、俺の脇腹になめらかで丸いものが押しつけられた。
浮遊する銀剣――リンの水晶オーブである。
「悪いなリン。お前にぴったりの鞘はどっかで作ってもらった方がいいみたいでな」
イヴがリンのオーブをつんつんつつく。
「あらぁ? 恥ずかちいでちゅね~♪ 一人だけむき身のすっぽんぽんなんて。だいたい全裸で町を闊歩してる方がおかしいんですよぉ?」
さっきまで全裸マントなお前が言うな。
サクッ……と、音を立ててイヴの服の端がリンに切断された。
「ああああああああああああ! おニューなのにいいいいいいいいい! ひどいんだから! リンちゃんがひどいんだからぁ!」
「今のはイヴが悪いぞ。謝れ」
「ううぅ……このたびは大変ごめんなさいでしたぁ」
不服そうだ。謝らない方がマシな口ぶりである。
この調子だと淫魔が銀剣の逆鱗にタッチする度に、彼女の服がズタズタにされかねない。
「リンもいくら自分が武器だからって、なんでも力で解決しようとすんのはよくないぞ」
オーブが青く光ってすうっと消灯する。なんだか心細そうだ。
イヴだけってのが悲しいのかもしれん。
俺は店の中をぐるりと見る。白い布の束が目についた。ひとまずコレで我慢してもらおう。
リンの刀身にさらしをぐるぐると巻く。ずっと浮かせておくのもアレなんで、革ベルトも買ってスリングにした。手で持ってヨシ。肩に掛けてヨシ。背負ってヨシだ。
とりあえずベルトさえ握っておけば、斬りかかろうとしてもすぐ止められる。
犬の散歩のリードだな、こりゃ。
イヴが目をキラキラさせる。
「首輪でお散歩プレイね!」
「なんでもプレイに紐付けるんじゃねぇ」
「革紐だけに?」
「うっせぇよ!」
リンはといえば、オーブをほんのりピンクに光らせている。うれしいんだか、恥ずかしいんだかわからん。全然わからん。




