俺を見て絶望するのやめてもらっていいですか?
セントイナカの町に戻ると――
ゴーンゴーンと教会の鐘が鳴り響いた。
町の出入り口となる城門前に衛兵が並んでお出迎えだ。
門が閉じて横並びで兵士が立ち塞がっている。
昨日の守備隊長が俺に向かって叫んだ。
「こ、ここを通すわけにはいかんのだ! 我々はッ!! この町の最後の楯だッ!!」
涙ながらにである。
町を守るため警戒を怠らない。衛兵の鑑だな。
「よお! 戻ったぞおっさん。なんだ泣いてんのか? 心配掛けたな。ただいま」
ニカッと笑顔で返した途端、隊長が膝を折って頭を垂れた。
「おおおおおおお帰りなさいませダリン様!」
「おいおい、守備の衛兵総出かよ? こっちはただの冒険者なんだ。特別扱いは勘弁してくれ」
「そ、そうはまいりません! あの……そちらの女性は?」
「ええと……連れだ」
「連れ……ですか?」
イヴはマントを羽織らせているのだが、角は丸出し。尻尾がちら見えしている。
背中側で羽もパタパタとして浮いていた。
やっぱバレてるよな。魔族って。
少女が気の抜けた声を上げた。
「あはぁ♪ イヴはねぇイヴっていうのぉ。あのねあのね! さくらんぼが好き~!」
いかん。浮いてる時のこいつは幼女脳だった。
「イヴ。着地しろ」
「はぁい」
地面に降り立つと淫魔はマントを翻し、肌をさらけ出しながら腕を前にすうっと伸ばして宣言した。
「我が名はイヴ! 上級魔族にしてダーリンの愛の奴隷と成り果てた清楚系淫魔よ!」
いらんこと言うな。
途端に衛兵たちがざわついた。
「上級魔族を奴隷にだって!?」
「裸にひんむいてマント一枚しか与えないなんて……鬼だ」
「魔族ったってまだ年端もいかない女の子じゃないか?」
「終わりだ……魔族が全裸マントなら、この町の人間なんて一人残らず裸に首輪が義務化されちまう」
いや、しねぇから。隣でイヴが顎に手をあて「全裸に首輪……そういうのもあるのね」っと感慨深げに呟いた。
変な知識教えんじゃねぇ衛兵ども。
隊長がガクブルしながら一歩前へ出る。
「で、ではその浮いている剣のようなものはなんでしょうか?」
「ようなものってか、見ての通り剣だぞ。名前はリンっていうんだ。よろしくな」
柄のオーブが白くピカピカっと二度光った。
隊長の後ろに並んだ衛兵たちが再びざわめく。
「剣が浮いてる……アレどうなってんだ!?」
「しかも名前までつけてるし」
「やっぱ人間じゃないんだって」
「やばいこっち見てるぞ視線合わせるな! 脱がされるぞ! いや服だけ切り刻まれるぞ!」
あれれぇおっかしいぞ。
町の困りごとを一つ解決したんだ。もっと歓迎してくれていいんじゃあないか?
俺は隊長に向き直った。
「夜中の変な声はもうしないから、安心してくれ」
隣でイヴがむくれながら「変な声じゃないもん」と呟く。
が、隊長には少女のぼやきは聞こえてないみたいだ。
隊長はガクブルしながら俺に告げた。
「声を消すのに城ごと消し去るだなんて……」
「なんで城が無くなったの知ってんだよ?」
「今朝になって物見塔から城が消えたと報告があったんです!」
「俺がやったんじゃねぇぞ。勝手に消えたんだ」
「無意識のうちに呪われし古城を滅するとは……この町を悩ませ続けてきた呪いをッ!? ああッ! 女神よ! 優しき女神よどうか我らをお救いください!」
隊長は十字を切ると手を組み祈る。
これから俺が町をまるごと消すみたいな雰囲気にすんのやめろ。




