我堂々と凱旋す
淫魔と浮遊する銀剣を引き連れて城を出る。
日が昇り始めた。朝の空気は涼しくて、全裸な淫魔が心配になった。フード付きのマントを脱いで羽織らせる。
「えっ? ダーリン優しすぎるますます惚れちゃうかも」
「うっせえよ。それより服を着るのは恥ずかしいんじゃなかったのか?」
「全裸マントは露出ごっこできるし、スンスンハスハス……ダーリンの匂いに包まれて幸せかも」
「やっぱ返せ!」
「いやいややだやだぁ! あんダーリンが強引に脱がそうとしてくる♪ これってもしかしてそのまま押し倒されちゃうんじゃ」
「倒さねぇよ! ……ったく」
城門にかかったビラビラとした暖簾をくぐって外に出る。
と、背後で何かが崩れるような音がした。
地響きに振り返る。
石壁がボロボロになり城の本体も砕けて落ちる。
押し倒されたのは城でした。
「危ねぇ! 待避だ待避!」
イヴを掬うように抱き上げて走る。振り返りリンが追ってきているのを確認した。
俺の腕に抱かれて淫魔は「お姫様抱っこだわーいわーい」と喜んだ。無邪気か!
「お前、自分の城が崩れてなにはしゃいでんだよ?」
「崩れるのはしょうがないの。あたしがいなくなっちゃったんだもの」
「はぁ?」
イヴの足を地面に下ろす。つーかこいつ、裸足なのか。長く歩かせるのは気が引けるな。
と、俺の心配をよそに、彼女は背中の羽をパタパタさせて地面すれすれのところで浮かび上がった。
飾りじゃなかったんだな、それ。
城は土煙に包まれたかと思うと、完全に消滅してしまった。
瓦礫すら残ってない。
「どういうことか説明してもらおうかイヴ?」
「えっとねーあのねーうんとねー」
急に少女の口ぶりがふわっとした。
「おい大丈夫か?」
イヴは羽ばたくのをやめて地面に足をつける。
「あ、ごめーんダーリン。あたしって飛んでるとそっちに一生懸命になっちゃって、知力が幼女並みに下がっちゃうの」
「そっちの方がいいかもな。平和で」
「もしかしてちっちゃい女の子が好きなの? ロリコンなの?」
「そわそわすんじゃねぇよ。それよりなんで城がぶっ壊れたんだ?」
「あのお城は泡界っていって、あたしの精神が生み出した、この世界から隔離されてる泡みたいなものだから。あたしが外に出ると弾けちゃうの」
「さっぱりわからんのだが……」
そういえば荷物が急に軽くなった気がする。
まさかと思って、さっき金貨をパンパンに詰め込んだ袋を調べてみると――
「金貨ああああああああ!」
袋はぺたんこになっていた。イヴはてへぺろ顔だ。こいつ、知ってて持っていかせたな。
「ごめんねダーリン♪ 城の中にあるモノはあたしの妄想の産物だから持ち出せないの」
「ったく、ぬか喜びさせやがって」
銀剣が俺の腕に水晶オーブをぴたりと寄せてきた。
「リンは大丈夫そうだな」
くいくいと刀身を縦に揺らして剣は頷いた。危ないっつーの。
「いいかリン。肯定する時はあんまり大きく動くなよ。縦切りになるから」
ぶんっ! と、リンは大きく刃で空を切る。それが危ないって話だぞ。
こうして――
セントイナカを毎月悩ませる奇声は、その根源たる城とともに消え去った。
お宝こそ手に入れ損ねたが、堂々と凱旋しようじゃあないか。




