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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第一章 オレはゴブリンである。名前はまだなかった
8/56

8話 ゴブリン、日記を付ける

日誌、日記?オレが?ゴブリンが日記を書く!?

エルティアナからそう提案されて更に混乱してしまう。



「ゴブタロウは文字が書けないだろう?」

「そうだよ。恥ずかしいが全く記憶にないし単語どころか文字すら書けないレベルだ」


前にも話したがオレは字が書けない。

例えるなら単語の発音は知ってるけど文字の綴りが分からない感じといえばいいか。


「文字は暗記するのは難しいから書かないと覚えないんだが『書き取り』なんてやりたくないだろう?」

「そりゃあ、面倒事は嫌だけど」


取り乱しているオレに気付いたのかなんか諭しているようだが…。

何を伝えたいのかさっぱり分からない。

文字が書けないのにメモ帳で日記をつけろと?


「だからその日に起こった出来事をこのメモ帳に日記として記録する。書いて覚えられるし後で振り返ることもできるし良いこと尽くめだ」

「いやいやだから文字も単語も分からないのに書けるわけないだろう」

「私が単語を教えるからそれを元に日記を書けばいい」


あーもう!ああ言えばこう言う。

…ってオレの方か。

さっき装備品を購入するついでに何か買ってたのは知ってたがこの為か。

確かに文字を書ければ新たな可能性が広がるな。


「分かった。今日から日記を書こう。でもすぐに忘れて書かなくなりそうだが」

「大丈夫。夕飯を食べる前に書けば絶対に忘れないだろう?」

「…仰る通りで」


とにかくオレは文字を覚えるために日記を書くことにした。

決してやましいことは無い。

冒険者ギルドの受付嬢のやりとりで、少なくとも『依頼達成の報告書』が書けないと一人前の冒険者としてやってはいけないというのは分かっている。

初見殺し過ぎるだろうと思ったが普通に考えれば納得できるのが悔しい。

とにかく現在におけるオレの最優先事項は『文字を書けるようになること』だ!


普通なら金を払って【傭兵斡旋所】で教育してもらう所だがそれだとオレがゴブリンであるということがバレる可能性がある。

残念ながら国営されてる名門の女子校に女装して入学する以上のリスクなんざ負いたくない。

人間だったらまず逮捕されて連行されるがゴブリンは問答無用で討伐される。

見つかったらデッド・オア・アライブじゃなくてオンリー・デッドだ。

やってられん。


ちょうどここに事情を知っている人物が居て文字を丁寧に教えてくれるというのだ。

ありがたく受けておいた方がいい。


決してやましいことは無い。


【本能】は〈一人前に文字を覚えたらこの女戦士からおさらばだ〉と騒いでいて

【理性】は〈このままだと身が持たないから早く文字を覚えよう〉と説いている。


うん、きっと気のせいだろう。

オレは心の中で納得をして冒険者ギルドの建物から出る。


太陽はちょうど真上にあり昼頃だというのが分かる。

ちょうど鐘が鳴りうるさくも何か安らぎがある音色であった。


「朝ごはん食べずに昼になっちゃったわけだが何か要望とかある?」

「とりあえず肉が喰えれば何でもいい。もちろん店の外で」


とにかくオレはお腹が空いてペコペコだった。

人間の三大欲求は、ゴブリンでも持っている。

むしろ、本能で動くゴブリンはそれに順応で下手に理由付けする人間より生物らしい。


もちろんエルティアナのおごりで食事をすることにした。

オレはウキウキしながら彼女と共に売店に向かう。

分け前でもらった俊足鈍鳥クイック・ドードーの報酬?知らんな。


…オレに掛かった食費は日記に記録することになったのはいうまでもない。




-----


夜の帳が下りて星々が輝いてゴブリンにとっては昼頃になった時、オレは日記を書くことにした。

宿屋に泊まるほど裕福ではなく…かといって他の冒険者と共に馬小屋で寝泊まりすることはできなかった。

やむを得ず街から出てほど遠くない場所で休むことにした。

徘徊する魔物と戦闘になる可能性があったが正体がバレて人間と交戦するよりマシだった。


光源は焚火だけであったがオレの左目は【夜行性の目】なので、別に支障は無かった。

右目も一応、その目であった名残なのかあまり見えないが人間の裸眼より良いはずだ。

すぐそばに置いてあった手帳を手に取ってみる。


表紙には上質とはいえない皮が使用されており紐綴じされた本だった。

エルティアナ曰く三つ目綴じという和綴じの一種で作られた本らしい。

オレにはチンプンカンプンだったが異国で作られたというのは分かった。


その本の表紙には文字が2つ書いてあり上には『単語帳』下には『ゴブタロウ』と書いてあった。

中身をめくるとさきほど記した単語が並べられていた。

分からなくなったように隣に絵も描いておいたが下手過ぎて逆に混乱するかもしれない。

今日覚えたことを忘れないよう念のために再確認をしてみる。

他はなんとなく覚えたので記憶が危うい『名詞』のページをめくってみる。



-----

『パンタゴーヌ王国』

これはオレが居る王国の名前

なんでも古代語で形状を表す単語だったとか。


『ブローニュの大森林』

オレが出身とされる場所。落雷があった場所もたぶんここだろう。


『冒険者ギルド』『傭兵斡旋所』

いわずもがな。


『ゴブタロウ』

オレの名前だ。


『エルティアナ』

あの女戦士の名前だ。


『バイオレット』

冒険者ギルドの受付嬢。



『ヴァレリアン』

これは初耳だった。冒険者ギルドや傭兵斡旋所がある街。


『ソリダス』

他国でも取引されている通貨。

1ソリダス硬貨を始めとして0.1、10、100、500単位の硬貨がある。

硬貨の見た目は、金貨であるが実際は金じゃなくて別の金属で精製されてそう。

1000ソリダス以上は、紙幣らしいが庶民ではまず見ることはないらしい。


王様蛙(キングトード)の唐揚げ』

今日の昼食べた唐揚げ 2ソリダス。


『ベロボーグ神教』

創造神ベロボーグを筆頭とする13の神を信仰する多神教。

なんでゴブリンがこんなこと知らないといけないんだよ。

…と思ったら知らないと国によっては死刑になるとか。

【人間界】は初見殺し満載の理不尽だらけで泣けてくる。



『デュラント教国』

分かり易く言えばベロボーグ神教の総本山。

大国に引けを取らない『聖印騎士団』を有しておりただの宗教国家の癖に発言権がある。

『教会審問部騎馬隊』とかいう怖い部隊も存在してるとか。

「魔族死すべし慈悲はない」の目標を掲げて【魔王軍】にちょっかい出してる国家でもあり人間至高主義で友好的な亜人種すら迫害される。

ただ、偉大な主の下では人は平等であるということで男女平等で現在の教皇は女である。

話を聞くほど ―きな臭い国家だと思った。



-----


大体確認は終わった。

あとは日記を書いて晩御飯を食べてさっさと寝る。

体内時計が真逆になっているが人間生活に合わせないといけないからしょうがない。



お腹が鳴ったオレは急いで日記用の手帳を手に取る。

よくみると革装丁本でさっきの単語帳と比べると高級感がある。

それほど触り心地が全然違う。

ちなみに表紙に名前はまだ書いていない。


「ねえ、ゴブタロウ!日記に名前を付けないか?」


ふと横を見るといつの間にか素顔をさらけ出してるエルティアナがオレの隣に座っていた。

蒼い瞳を輝かせて楽しそうに問いかけてくる彼女を見て憂鬱の気分になる。

だって、オレの名前を決める時も同じような事を言って、とんでもない名前候補を出してきたのだから油断できないのだ。

でも彼女に押し切れる自信は情けない事にある。

少しの間しか彼女と接してないが大体展開が掴めてきたのだ。


「ライトニングショック~前世を思い出して夢見るゴブリンは長い旅路で何を見たか!苦悩と苦労を綴った偉大で壮大な回想録」

「なげーよ」


相変わらずネーミングセンスが可笑し過ぎて逆に安心感がある。

すぐに否定されてしょんぼりしている彼女を見てプギャーしたかったがそれどころでない。

自分でも日記の名前を考えないことには何も始まらない。

だってオレの日記なのだから。


しかし、最近ドタバタしてるな。

目紛るしく物事がトントン拍子で進んでいて時間の流れが速く感じてしまう。

日記の名前、日記の名前かー。


「落雷とゴブリンは名前に入れておきたいな」


つい思った事を口走ってしまう。


「RE:落雷から始まるオッドアイ・ゴブリンの新生活 ~どたばた奮闘しながら今日も頑張って生きてます」


それを聞いたエルティアナはまた変な事を言い出した。

なんでこんなにタイトルが長くなるんだよ。

もっと簡潔で良いだろう?

タイトルを長くしなきゃ読んでもらえないのかよ?

というかオレの日記だから誰かに読まれるなんて想定してないんだけど!?


自信満々のドヤァ顔をしてる彼女の目と合う。

なんかイラッってきて顔面を殴りつけたいが我慢する。

ここで何を言ってもまた変な名前が飛び出すのは間違いない。

だからオレはさっきの長いタイトルを略して適当に名付けておくことにする。


「長くて覚えられないから『落雷ゴブリンのどたばた奮闘記』にしていいか?」

「なんか物足りないけどゴブタロウがそういうならいいと思うよ」


残念がるエルティアナを尻目にオレの日記の名前を決まった。

本当はもっと短くしたかったが彼女にダメ出しされそうなので我慢した。

彼女が小説を書いたらとんでもない長さの名前になりそうでそれはそれで気になる所だが。


『落雷ゴブリンのどたばた奮闘記』と表紙に書き連ねて『単語帳』を元に日記をつける。

ちゃんとした文法で書けないが別に試験の解答じゃあるまいし覚えた単語を書き連ねていく。

そうして書き終えた日記を見てみる。


…汚い字だったが頑張って書いた方だろう。

明日は、数字を覚えないといけない。

次から次へと覚えることがあって頭が痛くなってくるがまたお腹が鳴ったので日記を置いた。

そしてオレは晩御飯に有り付くのであった。


―そのあと、野菜を食わせようとするエルティアナと必死の攻防戦が繰り広げられていたのは内緒だ。

子供じゃないんだぞ。

もしアレルギーで拒絶反応が起こったらどうするんだと怒鳴り散らしたら…。

『ゴブリンは雑食性だから大丈夫だ』とかわけわからん根拠を振りかざされて野菜を無理やり食わされた。

あっ…こいつは給食の食べ残しは許さないタイプの教師で午後の授業でも無理やり給食を食わせそうと思いつつ野菜を噛みしめた。


そして食べ終えて横になると疲れていたのか瞼が重くなり目を閉じてしまった。

意識が闇へと沈んでいく。


「おやすみ」


そう一言呟いてオレは意識を手放した。




---------------

陽暦1051年 西秋申の月 5日


パンタゴーヌ王国 の ヴァレリアン の 街 

オレ は 傭兵 に そして 冒険者 に なった


昼 に 王様蛙 食べた 値段 2ソリダス ツケで 食べた

あとで エルティアナ に 予定 支払う


おいしいかった 食べたい また


初めて 日記 難しい 書いた 

西秋申の月 陽暦 なんだ 教えてくれ これ また今度 


書き終えた 食べる 晩御飯 日記 を

終わり



~~~~~

追記:

この頃のオレは純粋だった

まさかあんな事が起こるなんて想像してなかった

彼女と、いや、彼女たちと出会ったのは不幸だったのか幸運だったか今でも分からない

ただ一つ言えるのは、

オレの目標であった『平穏に天寿を全うする』は無理そうだ

過去のオレに向けてこうやって書くのはおかしいがこうやって見直してみると泣けてくる


―この日を境にオレの人生は大きく変わっていくこととなる



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