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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第一章 オレはゴブリンである。名前はまだなかった
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6話 ゴブリン VS 鏡 ~ゴブリン 傭兵になる

早朝、街に着いたオレは感激していた。

レンガ造りの家、宙に浮いている街灯、石畳で整備されている道。

前世の記憶はかなり朧気でそれをなんとか組み合わせて想像してみた風景とほぼ一致していたのだ。

例えるならピースが足らないパズルで完成図を予想したらそれが合っていたような感じだ。


「どうした“相棒”?何か思い出したのか?」

「いや、全然。ただなんか懐かしい感じがする」


風景を見てしみじみと感じて立ち止まっていたらエルティアナに心配されたので適当に返答して歩き始める。

今、エルティアナと一緒に向かっているのは【傭兵斡旋所】だ。


なんでもこの王国は、裕福で豊かな土地柄のせいで戦乱が相次ぎここ数十年前まで軍事国家だったらしい。

その影響により優秀な人材を確保する為、また人材を他国に流出させないように

国営組織である【傭兵斡旋所】で()()()()()()として登録してから国際組織である【冒険者ギルド】に登録しないと【冒険者】になれないそうだ。


その為、戦乱が起きれば徴兵されて戦場に送り出されるというリスクを抱えている。

逆に言えば、傭兵として優秀であれば外国人や亜人、下手すれば奴隷であっても成り上がれるというわけだ。

もっともオレにとっては、【一人の王国民としての保証】がされるというのが重要であるが。


「着いたぞ。ここが傭兵斡旋所だ。」

エルティアナの呼びかけによって考え事をしていたオレはその建物を見上げてみる。

さすが国営組織、それほど高い建物ではないもののステンドグラスがあり石壁には豪華で精密な装飾が施されている。

入ってみると大きな半円アーチがあり円形状の天井に取り付けられているスタンドグラスから朝日に照らされて幻想的な雰囲気を漂わせていた。


「こっちだゴブタロウ」

「あ、ああ」


見とれてしまったオレは、手首を掴まれて強引に受付のお嬢さんの所まで引っ張られてしまった。

そのまま受付嬢の前に立たされたのでじっくりと顔を見てみる。

エルティアナより断然可愛くて【本能】が『襲っちまえ』と促してきてうずうずしてしまう。

もちろんそんなことをしたら即座に斬り捨てられそうなので必死に我慢する。


「ようこそ傭兵斡旋所へ。ご用件を窺います」

「こいつを傭兵にしたい。登録書類と証明書をくれないか?」

「ご本人がお書きになられますか?」

「いや、代筆だ」

「登録料は200ソリダスとなりますがよろしいでしょうか?」

「……はい、確かに200ソリダスを承りました」


簡潔なやりとりで金貨を支払ったエルティアナは受付嬢から書類と羽ペンを受け取る。

慣れた手つきで書類を書いているのを見てどこかしら貴族の令嬢の面影が見えた気がする。

そのままあっという間に書き終えたと思ったら書類を提出してしまった。

そして呆然と見ているオレは受付嬢から小さなメダルを受け取った。

片手で握り隠せそうなほどに小さく真ん中には何やら文字が彫られており上部に何か所か穴があった。


「これで登録終了です。お疲れさまでした」

受付嬢の笑顔に視線が釘付けにされてしまったがすぐにエルティアナに手首を引っ張られて傭兵斡旋所をあとにする。

バイザー付きバシネットのせいで表情が分からないはずなのに何故か額に青筋が浮かんでいる気がした。



-----

「名はゴブタロウ。パンタゴーヌ王国、ブローニュの大森林出身の15歳の亜人種」

「どこの出身と訊かれたらこうやって答えればいい」

「それぐらいなら暗記できるそうだな。えーっとパンダゴーン王国。ゴローニャの森出身15歳」

「ちょっと間違えてるぞ。パンタゴーヌ王国、ブローニュの大森林だ。」


傭兵斡旋所から出た後、オレは()()()()()()()()()()()()

もちろんこの経歴はエルティアナのでっちあげだ。

いや、年齢以外は合っているそうだがオレにはピンとこなかった。

それにしても言いにくいな。


「そういえばゴブタロウは文字を書けるのか?」

「無理。全く思い出せないどころか書いた記憶すらない」


知識面はなんとかなりそうだが文字だけは無理だった。

まず単語どころか文字すら書けない。

そして文字が読めなかった。

一応、現世でも識字率は低いはずなので珍しくないと思うがなんか悔しい。


「そうか、文字が書けないのか。これも教える必要があるな」


一番の問題は、こいつが嬉しそうにしていることか。

見ろよ、こっちのぐったり姿と対称的になっているこいつのウキウキしている姿を。

バイザーのせいで表情を窺うことはできないが絶対、満面の笑みを浮かべていそうだ。

またなんか()()()()()してくれそうで憂鬱になる。


「…と言っている間に冒険者ギルドへ着いたな」


エルティアナが建物に人差し指を向けて止まる。

視線を移してよく見てみると【傭兵斡旋所】とは違って【冒険者ギルド】は大きな酒場みたいだった。

でもそれが頭に思い浮かべたものと一致しており逆に違和感を覚える。


「冒険者ギルドは、情報交換場や銀行、酒場そして宿屋も兼ねている場合が多い」

「そうじゃない場合もあるのか?」

「国際組織といってもやはり地域によってバラツキがあるそうだ」


宿屋はともかく銀行まで兼ねているのは意外だった。

もしかしたら【商会ギルド】も兼ねているのかもしれない。

どんどん考え事をしてしまい頭が痛くなってくる。

そして余計な事まで思い出した。


「どうしたゴブタロウ?入らないのか?」

「一応、頭の中で冒険者になる為のシミュレーションをやったんだよ」

「そしたらギルドの建物に入った途端、ゴブリンという理由で斬り捨てられたんだ。」

「確かにゴブリンが冒険者ギルドで冒険者になるなんて話聞いたことないな」


そしてまたもやオレの手首を掴んで冒険者ギルドへ強制的に入る。

早朝の影響なのか建物内は想像以上に静かだった。

珍しい光景でキョロキョロ見るオレを無視しして受付嬢まで引っ張られる。


「あらエル姉お帰りなさい。今回はどうでしたか?」

「今回は予想外の収穫があった。まず依頼の羽毛とくちばしを」


そういってエルティアナは俊足鈍鳥クイック・ドードーの羽とくちばしを机の上に置く。

そしてオレの方に振り返り森牙狼フォレスト・ファングの戦利品をおくようにジェスチャーした。

すぐにつま先を伸ばして森牙狼フォレスト・ファングの牙と爪そして頭を置いた。


「…これって森牙狼フォレスト・ファングじゃないですか!?」

「下手すればBランクに匹敵する討伐対象なのによくDランク冒険者である貴女が討伐できましたね?」

「こっちもこいつのせいで死にかけたがそこにいるゴブタロウに助けてもらってなんとか討伐できた」

「そういえば見かけない人ね。エル姉と同じようにバシネットを装備してるなんて珍しい」


驚いた受付嬢はこちらを興味津々でオレを覗いてくる。

傭兵斡旋所の受付嬢は、忠実に仕事をこなすべっぴんさんだったがこっちは何か愛嬌があり可愛い。

どちらも美女であることは変わりがないけど職場によってここまで変わるものなのか。

受付嬢から興味津々の視線を受けるが悪い気はせずドキドキする。


「…依頼達成の書類をくれないか」

「ああ、忘れてました。換金は今すぐ行ないますか?」

「頼む。それとこいつの腕っぷしを見て冒険者にしたいのだけど?」

「エル姉のお墨付きなら大丈夫ですよ。その前にまずは依頼達成の書類を…」


空気を読まないエルティアナは、報酬をもらってさっさと帰りたいらしい。

書類を受け取り相変わらずスラスラと報告を書き連ねていく。


「換金には時間が掛かりますので番号札をもってお待ちください」

「よし、行くぞ」

「行くぞってまだ換金終わってないけど大丈夫なのか?」


書き終えた書類を提出し番号札をとったエルティアナはまたしてもオレの手首を掴む。

分け前をもらう前に立ち去ろうとするのを見て慌てて確認してしまった。


「よし、換金が終わるまで時間が掛かるからその間に装備を買いに行くぞ。ちょうど、この建物には、販売店があるからそこで調達しよう」

「さすがに鎧無しで武器は『こん棒』だけなのは不味いからな。さあ行くぞゴブタロウ」

「えー、もう少しだけ受付嬢と話しを…ちょっと待って痛いよ。ちょ引っ張らないで」


受付嬢に名残惜しむオレをエルティアナは、駄々をこねる子供を引っ張る保護者の様に引き摺って行く。

ズルズルと身体が斜めになり踵が地面と擦られて痛くてしょうがなかった。

いくら足裏が頑丈でも素足で地面を引き摺られば文句の一つや二つがすぐに浮かんできた。

そうして文句を言うおれとそれを軽く受け流すエルティアナのコントは少しの間続いた。



-----


「武器や防具を探してくるからそこで大人しくしてくれ。間違っても試着室から出るんじゃないぞ」


あの後、オレは空いている試着室に放り込まれてカーテンを閉められてしまった。

あれ?エルティアナに着いていったのは実は間違いだったんじゃね?

女戦士に引き摺られてじたばたして抵抗を試みているゴブリンなんてオレくらいじゃね?

『普通なら立場は逆じゃないのか』とかいろいろ考えるが思い出すだけで頭が痛くなる。


そして考えても考えてもキリがないので ―そのうちオレはこのことを考えるのをやめた。


ため息をついてスリットが入っているバイザーを取り外して気分を切り替える。

視界が広くなる代わりに自分がゴブリンであるとバレる可能性があったがわざわざ試着室を覗き込む野郎は居ないと思うので気分転換に外して周囲を観察する。


目の前には全身が映る鏡が置いてあった。

女冒険者とかが鎧を身に着けるときに使うんだろうか。

そう思って外套と兜を脱いで自分の姿をよく確認してみることにした。

興味本位で自分が映ってる鏡を覗いて違和感を覚える。


鏡には全裸のゴブリンが映っていた。

それ自体は別に問題はない。

【右目の瞳】が『黒色』になっているのを除けばの話だが。


普通なら【ゴブリンの両目の瞳】は『緑色』はずだ。

同族を何人か見てきたがどれも同じだったし【血】も【前世の知識】もそう教えてくるから間違いがないはずだ。多分。


なのに鏡に映っているオレは、【左目】は『緑色』なのに【右目】が『黒色』だった。

真昼間で巣穴を目指していた時は、左目は外が眩しくて視界が歪んでいたが右目はとてもくっきり辺りが見えていた。

つまりゴブリンの持つ【夜行性の目】は【左目】だけになっているということか。

ここに『オッドアイ・ゴブリン』とかいうパワーワードが誕生した瞬間であった。


なんでこうなったか全く心当たりがない。

魔狼と戦う前からこうなっていたとすると、やっぱり落雷のせいか?

でも落雷でオッドアイになるなんてありえないし…、

まぶたを触ったり頬を引っ張ってもオッドアイの事実は変わる事はなかった。


それにしても鏡に映ってる自分と他人から見る自分の姿は違うんだよな。

なんで反射した姿を反転する鏡ができないのか不思議だ。

無駄に向上心がある人間ならそれくらい作っていいはずだが何故かない。

うん、前世から引き継いだ朧気の知識から無駄な事を考えてしまうのは欠点だな…。



気をとりなおしてじっくりと鏡を覗いてみる。

オッドアイの醜い顔をしたゴブリンの顔が映る。


鏡を睨めつけてみる。

ただでさえ醜い顔が更に不細工になる。


胸を張り左手を握りしめて肋骨の上に置いてみる。

ビシッと軍人のような敬礼してるゴブリンが映る。

…ゴブリンでも姿勢によってはイケメンになれるんだな。

…全裸だけど。


次は右腕を斜め上に挙げて掌を下にして指先まで伸ばしてみる。

かっこいい敬礼をしているゴブリンが映る。

でもなんか不謹慎な気がする。何故だろう?


お尻が映るように調整して尻尾を振ってみる。

尻尾なんてなかった。


なんか面白い。

左腕を挙げると左腕が挙がり右腕を挙げると右腕が挙がる。

肘を突き出してみれば肘が付き出して顔の表情を変えればその通りに表情が変わって映る。

それは遅れなどはなく同時に動く。

まるで鏡に映っているゴブリンを意のままに操っている奇妙な錯覚を覚える。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


オレは…大切なことを忘れて夢中になって鏡にのめり込んだ。

そして画期的なポーズをしようと思っていたら後ろから視線を感じてしまった。

大慌てて後ろを振り返ってみる。



そこにはバイザーを取り外して素顔をさらけ出しているエルティアナが右手で口を押えてプルプル震えながら必死に笑いを堪えつつ生暖かい目でこちらを見ていた。

その下には掻き集めてきたと思われる防具や片手剣、短剣が転がっていた。


ハイな気分はすぐに冷めて代わりに別の感情が湧き上がってくる。

そこには顔を真っ赤にした間抜け面のオレとその顔を見て大笑いをするエルティアナがいた。


オレの怒声とエルティアナの笑い声が試着室に響いたのは言うまでもない。


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