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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第一章 オレはゴブリンである。名前はまだなかった
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5話 今日からオレの名前はゴブタロウだ

なんか『ラ行』の発音練習したらオレの名前を決めることになった。

いや、オレの名前なんてないけどさ。

ゴブリンが自ら名乗る事なんてないので未だに無名だ。


確かに今後を見据えると名があった方が良い気がする。

でも赤の他人が勝手に名付けるのはどうよ?

…と言ったところで碧眼を輝かせているこいつには何を言っても無駄だろう。

というか何度も抗議しても聞き入れることはなかったのだ。

オレは早急に異議を諦めて名前を考え込んでいる奴の顔を見つめる。


「……なあ、決めたんだけど名前を発表していいか?」

「そこまで言うなら発表してくれ」


暫く考え込んだようだがどうやら決まったようだ。

自信満々っぽいからゴブリンの俺じゃ思い浮かばない立派な名前がくるんだろうな。



「よし、『ゴブ・グリーンハヤテ号』というのどうだ!」

「待て!なんだそのネーミングセンスの無さは!?人の名前を何だと思ってんだ!?」


オレの期待を見事に裏切られて、とんでもないネーミングが飛び出してきた。

ダメだこいつ早くなんとかしないと…オレの名前がとんでもない事になってしまう!


「君は『人の名前』っていうけどゴブリンじゃん!」

「ここで正論を吐くのは結構だがもう少しいい名をつけてくれ。酷いってレベルじゃねぇぞ!」


指をさしてオレは異議を唱えた。

お願いだからオレの名前を本気で考えてほしい。

『ヒューゴ』とか『ジョン』とかその辺の男性名詞でいいんだよ。

というか、オレの正体が分かってからこいつ、性格が変わってないか!?


「じゃあ、『ゴブ・ゴブゴブリオン』、『ゴブタロウ』『ゴブルフ・ゴブトッラー』」

「ちょっと『ゴブ』から離れようか!まるでゴブリンが『ゴブ』とかいう語尾を付けてるという偏見から基づいて命名するのはやめろ!」


とりあえずこいつの顔をはたこうとしたが身長差で届かなかったばかりか避けられてしまった。

想定外の事態でバランス崩して顔面から倒れそうなのを必死に耐えてもう一度顔を見る。

下手に反撃すると返り討ちに遭いそうなので頬を膨らませて抗議することにした。


「分かったよ、『リンリン・ラインバッハリン・シュトルテハイム3世』」

「『ゴブ』がダメ出しされたからと言って今度は『リン』を付けまくるんじゃない!」

「えー、君って駄目だしばっかりでつまらないよ」


もうやだ、こいつ嫌い!

何が酷いってわざとじゃなくて本気で考えてこれだから質が悪い。

これ以上コントを続けてると更に自体が悪化しそうなので早急に話を切り上げることにする。


「いろいろこっちも考えたけど『ゴブタロウ』にするよ」


さきほど出された候補のうちでまともそうで覚えやすい名前を選択した。

自分で名前を考えようとしたが機嫌を損ねるよりご機嫌を取って早々に別れを告げた方がいいと思ったからだ。


「それにしたのか。確かに言いやすいししっくりくるね」


腕を組んでうんうんと頷いてるを見計らってゆっくりと後退する。

抜き足、差し足、素足、忍び足。

そういえばオレ素足だったな。


「手当をしてくれたうえに名前も考えてくれてありがとうな。ゴブリンのオレは何もお礼できないけど今度会うことがあったらその時はもっと楽しく雑談しような!」


少し距離を取って笑顔で手を振って別れを告げるオレ。

本音はとっととこいつとおさらばして寝床に帰りたかった。


「おっと、どこに行く気だ。こうやって出会えた縁だ。もう少し話をしていこうじゃないか」


ガシッという擬音が付きそうなほど素早く右手で手首を握られてしまった。

笑顔なのに目が笑ってなくて絶対に逃さないという心意気に背筋が凍り恐怖すら覚える。

何故ここまで引き留めようするのか分からない。

オレは固まってしまった。


俊足鈍鳥(クイック・ドードー)二匹と森牙狼(フォレスト・ファング)を運ぶのを手伝ってくれないか?さすがに私一人だとしんどい」


左手で頬を掻きながら申し訳なそうに告げてくる姿にこっちまで気が重たくなってしまう。


「分かったよ。手伝うけどさ。街までは付いていかないからな」

「大丈夫だ、バイザー付きバシネットと被って外套を纏えばまずバレないだろう」


なんかオレが街まで付いていく前提で話をしているがそこまで行く気ないからな!

というかなんでこいつは初対面のゴブリンにそこまで信用を寄せているんだ。


「いやなんでオレまで街に行かないといけないんだ!?」

「ゴブタロウにも分け前をやりたいから換金するまで別れられちゃ困るんだよ」

「ああ、そういうことか。確かに分け前をくれるならもらうまで別れられないな」


なるほど必死にオレを引き留めていた理由が分かった。

つまりこいつは命の恩人であるオレに今回の報酬を分けてくれるが想定外の成果を挙げたせいで一人で持ち帰れないから手伝ってくれということか。

それだったら話の辻褄も合う。


「それに一緒に街へ行く機会で現世のことをいろいろ知った方がいいんじゃないか?」

「言語が通じてるから前世は、この世界の人間だったと思うけど今じゃ通用するか分からないしね」

「ああ、確かに。」


そう言われてみると確かに言語は通じてるが世界情勢がどうなってるのか現世の常識なんて知らないしこれからどう生きていくか考えてなかったとを思い出した。

しかしさっきから会話に違和感があるのはなぜなんだろう。


「よし、そうと決まれば片づけて素材を回収しよう!ゴブタロウも手伝ってくれ」

「ああ、分かった」


さらりと片づけの手伝いをさせられていて解せぬ。

ただ、テキパキと要領良く片付けている姿を見て今後の一人暮らしに役に立つと思い参考にしつつ指示を受けて片づける。

ときおり観察するために手を止めてしまいその度に咎められてしまったが。



-----


「準備はOKか?忘れ物はないな?」

まるで幼児の支度を心配している保護者の様に同じことを確認してくる。

森牙狼フォレスト・ファングの『牙』『爪』『頭』そして『こん棒』全部持った」

同じことの繰り返しでつい返事が適当になってしまう。


オレはバイザー付きバシネットと外套を纏い小柄な戦士として同行する予定だ。

もちろん、泥だらけだった『皮の腰巻』は捨てられ身体中を拭かされたのはいうまでもない。

ただ、兜を身に着けると本当に視界が悪くてしょうがない。

バイザーに彫られたスリットから覗いてるせいで視界が極端に狭くなっており監視孔にも違和感しかなかった。

一応、移動とかの練習をさせらされてきたのだが…正直しんどい。


「気分はどうだ?何か違和感があったら遠慮なく言えよ」

「錆止めの油と金属の匂いが臭くて『嗅覚』が鈍りそう。あと視界が狭くて見えづらい」

「それは我慢してくれ」


遠慮なく言っていいと発言したので正直に答えたら我慢しろという回答はないだろう…。

というか慣れたら『嗅覚』が弱体化してゴブリンの数少ない取り柄がなくなりそうで怖いんだが。


「道中はバイザー外していいか?ゴブリンの数少ない取り柄である鼻が鈍る」

「もう鈍ってるんじゃないか?私が女だって気付いてないだろう?」


どうりで会話していて違和感があるわけだ。

勇敢な戦士と話してるつもりだったのになんか女々しいと思ったんだよ。

そうかそうか。ん?


思わず頷いてしまったが慌てて辺りの空気を吸ってみる。

確かに意識すると微かに『メスの匂い』がする。


「やっぱり気付かなかったか。ゴブリンは女の匂いを敏感に反応すると聞いたことがあるんだが、もうゴブリンの能力(スキル)は衰えてそうだな」

「……金属製の鎧でがっちり固められたら金属の匂いでかき消されて分からん。いくら『メスの匂い』に敏感だとはいえ犬ほどの『嗅覚』じゃないんだからさ」


笑いつつもなんか青筋立ててそうなのでいつもは使わない頭をフル稼働させて言葉を選んで発言をする。

というか落雷からずっと考え込んでる気が。

ああ、頭が痛い。


とにかく金属の匂いで女性だと見抜けなかったことにする。

だから雌に敏感とされるゴブリンの『嗅覚』は見抜けなかったと。

そうしないと、()()()()()()()()()()()()()()といってることになってしまう。

オレは心の中で納得して次の発言をどうするか悩んだ。


「見苦しい嘘は付かなくていい。声が低音だとはいえここまで気付かなかったのはお前が初めだ」


次に出す言葉が思いつかず間が空いてしまい見透かされしまった。

いや、最初からそう答えると分かっててあえて性別をバラしたのかもしれない。

ただ一つ言えることは“面倒な女”ということだ。


「まあ、女らしくないとかそういったものは()()()()()()()


顔をしかめつつ宙を見て自嘲している姿に見ているこっちまで心を痛めてしまう。

うん、なんかトラウマがあることだしそこに触れるのはやめておこう。


「ところでお前の名前はなんて言うんだ?」

「そういえば自己紹介してなかったな。エルティアナだ。好きに呼んでくれていいぞ」


とにかく必死に話題を変えたかった俺は、彼女の名前を知らないことを思い出し話題を振ってみる。

幸いなことにうまく話題を切り上げられたのはよかったのだが。

話題が変わったら即座に切り替えて屈託のない笑顔で自己紹介する姿は見習いたいと思う。

しかし、喋り方でもう少し変わると思うんだけど…でもそこを突っ込むと話がややこしくなりそうなので踏み留まる。


「名前が長くて咄嗟に言えないから普段は“相棒”って呼んでいいか」

「構わないよ。そうやって呼ばれるのはなんかうれしいな」


エルティアナは長らく一人(ソロ)でやってきた反動なのか“相棒”という単語で上機嫌になる。

適当に言ってみたがうまくいってなによりだ。


「さあ、小さな“相棒”。新手が来る前に街へ行こうか」

そしてオレの右手首を今度は優しく掴んで歩みを促してきた。





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