49話 全滅に導く道標
見るな!そんな目をしてこっちを見るな!
なんだよその哀れみの視線は!?
オレだって好きでこうなったわけじゃない!!
「ゴブリンが人質になると思ったか?」
「でもこうして時間が稼げているじゃないか」
ヤバい!オレの今世はお先真っ暗だ。
今まで通り生活するには冒険者一行が全滅して魔王軍幹部を退けて生還するという無茶ぶりだ。
いやだよ!まだ死にたくない!
「流水 上級魔…」
「『ごぼうせんそう』さん!」
「ゴブタロウ、五芒星将だよ?」
ああ、もう!そんなことはどうでもいいだろう!
とにかく命乞いをしなければ…まだ死にたくない!
『寒さと闇に慄く子羊に火という英知を授けたスヴァローグ様よ、希望の灯を…』
「えーっと『ごぼうせいそう』さん!」
「命乞いをするならせめてちゃんと発音したらどうだ?」
「滑舌が悪いんだよ!」
「こういう時は一回区切って一呼吸置いてから発声したら良いですわよ」
なんで発音練習になってるんだ!?
もう逃げきれないしこのままじゃオレごとエルティアナが殺されるだけだ!
なのに何だこれ。
『絶やし同化せんと試みる深淵の化身、神の子を鏖殺せんと企む邪神の眷族』
「『ごぼうせいしょう』さん!」
「とりあえず極東の島国が食す根っこの野菜から離れたらどうだ?」
「エルティアナ!ごぼうって何だ?」
「親切な魔王軍幹部が解説してくれた通り、極東の島国で栽培されて食されている根っこの野菜だよ。香り
と食感を楽しむものだ。なんなら今度、ゴボウ料理を振舞ってあげるよ」
「あらあら、戦闘能力だけじゃなくて博識の上に料理を振舞えるなんて女子力高いわね」
えーいやだよ!?
根っこなんて食べたくないし何で生き残る前提なんだよ!?
『遥か古で蹂躙した旧支配者、理性で眠る感情よ、今こそ…』
「嫌だ!根っこなんて食べたくない!ゴブリンは肉食だ!」
「ゴブリンは雑食だよ。バランスよく食べないと長生きできないよ」
「恵まれているのに口が悪いわね」
「ん?エルティアナ?どっかで聴いた名だ」
嫌だ!根っこなんて食べたくない!!
というか、何で生き残る前提で離してるんだよ!?おかしいだろう!?
お前ら!女吸血鬼王の発言に頷くんじゃねえ!
特にタイラー!肉しか食わんお前だけは絶対に許さん!お前も同じ目に遭え!!
『内腑に滾る感情を解き放とせん、導く灯よ、再度我らに道を開きたまえ…』
「助けてください五芒星将さん!この頭がおかしい女戦士は野菜アレルギーだって言ってるのに野菜を食わせてくるんです!それどころか寝ている時に無理やり食わせるパワハラを受けているんです!!」
「あー、道理で強いわけだ。元デロリアン4個中隊の部隊長であり【異端者】か」
「俺がいくら言ってもゴブリンは雑食だからって言って野菜を食わせてくるんです!助けて!」
「ゴブタロウ、これが終わったら話がある」
「ひぃいいいい!お願いします助けてください!」
エルティアナの拘束が緩んだのでつい魔王軍幹部に近づいて手を合わせて懇願してしまったが良く考えると別の意味でやばい気がする
敵の懐に近づいたのとエルティアナを挑発する発言をした意味でだ。
『怒りを!昂りを!魂が燈す火を我は偉大なる火神に見せんとする!全身の思いを灼熱とし』
それにしてもうるさいな。
「それで?異端者エルティアナは、この茶番劇で時間を稼いでどうする気だ?」
「ここまでゴブタロウの本音を聞かされたのは想定外だけど時間は稼げたから良い」
ん?彼女は全力で逃げろというジェスチャーをし始めた。
こういう暗号みたいにジェスチャーをいくつか覚えさせられたから間違いはないだろう。
『理より生成された物体を烏有に帰せ!』
ぎゃあああ!今すぐオレは魔王軍幹部たちが居る位置から全力で逃げた!
さっきから体内から聴こえるのは魔法を発動する呪文でこの詠唱時間だと上級魔法クラスであり、これを詠唱しているのは…。
「火炎 上級魔法“煉獄の業火”!」
「塊土 中級魔法“土塊防壁”!」
「氷結 中級魔法“氷河防壁”!」
オレの体内から飛び出したエミリーが五芒星将に向かって火炎弾を放つ。
その瞬間、エルティアナが土壁と氷壁を高速で生成した。
二段構えを見て爆発の威力を察して頭を両手で抱えて伏せるとすぐに爆発した様で爆音と衝撃で地面が揺れた。
「やるなら先に言えよ!」
「説明したら奇襲にならないじゃないか」
衝撃が止んだので立ち上がるとエルティアナの姿が見えたので思わず詰め寄ると反論された。
そりゃそうだが彼女のせいでオレは冒険者として活動できなくなったじゃないか!
彼女から鉄仮面と布マスクを奪還して装着する。
「すごい威力だな…」
「まあ、効いてないだろうね。人形が未だに健在だし魔法耐性があるのは確認済みだ」
天まで届く爆煙と衝撃に備えられず吹っ飛んだ冒険者一行を見ると威力が凄まじいのが分かるがこれでもダメージを与えられたか分からない。
なにせ相手は【最上位の大精霊】だ。
「まさかゴブリンの体内に潜んでいた亡霊に魔法攻撃されるとは…」
「奇襲攻撃とはやってくれるじゃないの!」
日傘で邪魔だった黒色の焔を払い優雅に差し直す女吸血鬼王と少し砂埃が付いている五芒星将が爆煙の中から現れた。
当然のように無傷である。
「おりゃああああああああ!!」
その時、エミリーが変な雄叫びを挙げて腕を振り回しながら五芒星将に向かって猪突猛進していった。
「神聖 初級魔法“悪魂浄化”!」
「きゃあああああ!!」
特攻していた彼女の足元に紋章が出現したかと思うと光に包まれてしまった。
ああ、これが亡霊を除霊させる魔法か。
何故か魔王軍幹部が使用してきたのに違和感あるが精霊だから納得しておこう。
「ああ!眩しいじゃないですか!!なんか私に恨みでもあるんですか!」
「魔法攻撃打ち込んできた奴がそれを言うか。それより何で成仏しない!?」
「もう怒りましたよ!絶対に赦さない!!」
おお!エミリーが光の壁から抜け出してきた。
日光をもろともせず活動する幽鬼は耐性があるようだ。
「神聖 中級魔法“反転する動く屍”!」
「あああああああああああああ!!!」
今度は光の輪がエミリーを拘束してから地面から紋章が出現して光に包んでしまった。
日傘を前屈みにして必死に光を浴びない様にしている女吸血鬼王の様子を見ると威力は段違いのようだ。
「水精王女様!さすがに今のは背筋が凍りましたわよ。大精霊の中でも最上位である御方の魔力は我々、闇の眷族からしたらたまったものではありません」
「好きで最上位に上り詰めたわけじゃないからその発言を控えてくれると助かる」
発光していた紋章が消えると彼女はその場から跡形もなく消滅していた。
やっぱり無謀だったか。
エミリーよ、安らかに眠れ。
「爆風で意識が吹っ飛ぶかと思ったじゃないですか!!」
「参ったな、亡霊系統は専門外だ。幽鬼級を成仏させる方法が分からん」
エミリーはすぐさま地面から顔を出して自身の存在を再認識させるかの様に飛び出してきた。
なんかほっぺを膨らませて睨んでいる彼女の姿を見るとほっとする。
感情的で生前の面影が見えるせいなのか。
「神聖魔法に耐性があるようですわね。大方、あのゴブリンが絡んでいそうね」
「自爆したはずの異端者の女に人質にされる人語を話すゴブリン。そしてそれに憑依している霊鬼か。暫く話のネタにできそうだな」
さて、地味にオレが指名されたわけだが…。
今すぐ土下座して許しを請う準備をしよう。
「疑問は解決したのでもはや興味はない。攻撃指令!目の前の敵を殲滅せよ!」
「おりゃあああ!!“身体憑依”!」
「岩人形を乗っ取ったか。絶望に呑まれずに自分の意思を貫くのは敬意を抱くがそれで勝てると思うか?」
3階の建物に匹敵する鎧を手に入れたエミリーが拳で殴り掛かろうとしたがすぐに肉体は砂の如く崩れ去ってしまった。
さすがに創造と破壊を司る人形使いでは人形は相手にならないらしい。
エミリーは、ごっつい鎧を剥がされた如く無防備になってしまった。
「次こそは成仏させてやろう神聖 上…」
五芒星将が更に神聖魔法を放とうとするとどこからか足元に手投げ弾が投げ込まれた。
奴は呆れた顔で瞬時に拾い上げて投げ返そうとするがオレは、それを見届けることはしなかった。
何故ならそれは閃光弾だからだ。
「くっ!閃光弾か!?」
視線を逸らしても眩しい光が辺りを包み込んでおり目が痛い。
一瞬、白と黒が交互に点滅していたがそれが晴れると朧気であるが視界が戻ってきた。
光を直視したせいなのか、奴はまだ視界が元に戻っていないようである。
ただ、一見すると隙だらけだが、それは絶対の自信があるからであり攻撃なんかしたら即座にカウンター攻撃を喰らって即死するに違いなくゆっくりと後退するのが精一杯だ。
「あーもういい、流水 上級魔…!!」
「“流出接触”!ふふふどうですか?ダメージを受けるという感覚は?」
「正直想定外だ」
「手抜きにもほどがありませんか?興味本位で受けて驚かれるなんて…眷族達に見られたら【ノアの大洪水】を起こすほど激怒されてしまいますわよ」
なんか本当にやる気がないな。この魔王軍幹部と吸血鬼。
わざと隙を作って人間の反応を楽しんでいる節がある。
そう思っていたら振動で揺れたので振り返ると人形が音を立てて崩れていた。
茶番劇に注目していたばかりに隙を見せたオレを襲撃しようとしたがエルティアナに瞬殺されたようだ。
再生する様子が無いので既に地中に潜んでいる【血】を攻撃したみたいだ。
「ゴブタロウ!」
「エルティアナ!何でオレの正体をバラしたんだ!?」
「いいか良く聞いて!どう足掻いても私達は全滅する!だからお前だけでも生き延びてほしくて時間を稼いだ」
「あいつらから逃げられる気がしないぞ!?」
すると彼女は、なにかの紙を渡してくれた。
それは、洞窟でゴブリン退治をしていた時に彼女が使用した『呪文書』にそっくりである。
「1回しか言わないから良く聞いて!これは“転送移転”の呪文書なんだ」
「テレポート…つまりここから脱出できるのか」
「そう、この呪文書に触れて魔力を流して『テレポーテーション』と念じると術式が発動してここから脱出できる!良い!?絶対に紋章が消えるまで離さないでよ!」
なんだよ、こんな便利な物があるなら先にくれよ。
…と思ったが、どうも彼女の言い方だと1人しか脱出できないようである。
え?これからオレ1人で生きていくの!?
「おいエルティアナはどうするんだ!?」
「私は時間を稼ぐ。だからゴブタロウはその隙に脱出して。大丈夫、受付嬢のバイオレットならきっとお前の面倒を見てくれるよ」
彼女の顔を見るとまるで教え子が旅立つのを喜んでいるようであった。
死ぬ事に迷いがないと錯覚してしまう。
「“空摩斬”!」
「きゃあああああ!!」
「良い読みだ!今のは私でも喰らったらただじゃすまない斬撃だ」
「【空間切断系統】の斬撃でこっちまで巻き添えにする気ですか?パワハラで訴えますよ?」
「むしろパワハラだけで済むのか」
「あら?お宅の『組合』に協力してもらった方がいいのですか?」
「…勘弁してくれ」
魔王軍幹部御一行様は、どうやらエミリーを珍しがって興味本位で弄っているようだ。
逃げるなら今がチャンス!
でも心の迷いがある。
「おいゴブタロウ!」
「さあ、時間を稼ぐから早く離脱して」
「エルティアナさんよ!何の真似だ!?」
いつの間にか『古代の鳥』のメンバーが駆けつけており、その先頭に居たタイラーがオレに向かって近づいてくるのをエルティアナが短剣を構えて阻止をした。
それは味方に向ける姿勢ではなく圧倒的な実力差に圧倒された彼が辛うじて口を開いた。
「可愛い部下だけでも逃がそうと思ってね」
「つまりなんだ?俺様達は全滅するっていうのか!?」
「ゴブタロウが今後も冒険者として生活していくには、ここの生存者が居ては困るんだ」
「火炎 中級魔法“炎の壁”!」
「あちちち!」
「何で火の壁が…がっああああ!!!!」
偶然見てしまった。
エミリーの火炎魔法が魔王軍幹部たちから外れて泥人形から逃げ惑う冒険者一行の前方に炎の壁を出現させてしまったのを。
あまりの熱さで怯んだところを五感など持ち合わせない死神が彼らを粉砕したのを。
その惨劇は偶然の出来事ではなく必然であった。
つまり彼女達は自分たちが犠牲になるのと引き換えにどさくさに紛れてオレの正体を知る者を抹消する気であるということか。
「人の感情を持ち合わせている希少な霊鬼だと思ったが…所詮、未練に囚われた魂か」
「肉体を失い未練で現世にしがみ付く亡霊、魂を融合した肉体で現世に留まる動く屍。それは大した違いでないものだけど規律を乱す者には必ずそれに応じた末路が待っているものよ」
敵であるはずの冒険者一行が自滅した様子を見て何故か奴は吐き捨てるように呟いている。
秘書の様に付き添っている吸血鬼も忌々しそうな表情をしていた。
何故、そんな表情になったが気になったがすぐにその考えを破棄した。
ここで立ち止まったら彼女達の覚悟が無駄になる。
というのは建前で、本音は彼女達と一緒に居たくないという気持ちが大きかった。
だって、場合によっては味方を殺しにくるという事はいずれ自分の身に降りかかると思うじゃん。
それを口にすると、こっちの身がただじゃ済まなさそうなので黙って脱出する。
エルティアナに説明された通りに呪文書をしっかりと握り締めて魔力を流そうとする。
だがイメージで魔力を流すまでもなく足元に紋章が出現した。
「ん?なんだこれは?」
「水精王女様!これは例の戦略兵器が発動したようです」
「そんな馬鹿な!?まだ中継地点まで1日はあるぞ!?」
「魔力トリガーも含んでいるかもしれません。ですがこれは…」
呪文書に魔力を流してないのに紋章が出てきた!?
というか、辺り一面が複雑な紋章と文字で入り混じって発光している!
空は光の壁に包まれたかのようになっており神秘的な光景が広がっていた。
これは転送の紋章なのか…と思ったがそれなら規模的にエルティアナ達も脱出できるはずだ。
なら何故こんなものが出現した!?
「ルナ・ステラ・ソル・ムンドゥス…馬鹿な!最上級クラスの神聖魔法だと!?」
「ご丁寧に空間を断絶させて隔離されたようです。まるで監獄、転送術式も効果がないかと…」
「人間程度ではこんな高度な術式など組めないが…この私を上回る忌々しい魔力は心当たりがある」
「まさか、あのクパーラ様が降臨したという話は本当でしたの!?役立たずの【神界方面師団】の連中めぇえええ!」
なんか魔王軍幹部たちが一番焦っている気がする。
だが、この紋章に包まれた光景はどこかで見たことがある。
記憶を探ってみるとすぐに思い出せた。
「まるでアイホートが張った紋章みたいだ」
そう、エミリーの居た街の住民を虐殺した元凶のアイホートが張った紋章にそっくりだ。
あの時は、偶然にも安全地帯の紋章に居たおかげで肉体を消滅せずに済んだが、あの時、街に居たあらゆる生物や死者の肉体を消滅させるほどの威力がある紋章が存在した。
人口5000人以上の街を丸ごと覆う紋章、それが今出現している状況にそっくりである。
あーなんか見た事あると思ったんだ。
ようやく納得した。
「しかも今度は脱出できないときたもんだ。本当に酷いもんだ」
話の流れからしてこの呪文書は役に立たなそうだ。
…あれ?やばくない!?
どんどん紋章から発せられる光が増してオレ達の存在を打ち消そうとしているようである。
「ゴブタロウさーん!これヤバい奴です!逃げてください!!!」
危険を感知する事に定評あるエミリーのお墨付きである。
やばいやばい!どこに逃げればいいんだ!?
どこを見渡しても光の壁が地平線を覆っておりそれは、凍り付いた大波よりも遥か天空まであった。
そうこうしている内にどんどん光が溢れており肉体が分解し始めた。
そんな気がした。




