48話 女戦士に人質にされて肉の盾になるゴブリン
「“劍の舞”!」
「聖印騎士団流剣技 貳式 “武器破壊”!」
回避できないので鞭を犠牲に攻撃を受け流すがモウ駄目だな。
鞭が破壊されたので短剣を手ニ取ルがこれ以上は戦えない。
むしろ、向こうが手加減してくれているオカゲで時間が稼ゲテいるともいえる。
「参ったな、本当に知らないようだな」
「何度も言ってるだろう。上位司教級じゃないと解除できない代物だと!」
「なら仕方がない。流水 中級魔法“底なし泥罠”!」
泥罠?湿地帯に変エル流水魔法か?
馬車や交戦している冒険者はおろか人形まで地面に埋マッテしまった。
意図が読メンがどうも嫌な予感がする。
奴の表情、泥、水、足止め…まさか!
「氷結 上級魔法“凍り付く氷像を創作する息吹”」
「氷結 上級魔法“全てを凍”…!」
「補助 中級魔法“浮遊補助”!」
やはり湿地帯ヲ凍結させる気だったか。
先手を打って凍ラシタけどいつまで足止めできるノやら。
魔力ノ半分以上ヲ失ったガ大丈夫ナノカ?
禁術級じゃないと足止めデキル気がしなかったから仕方がない。
聴こえてくる声で推測してゴブタロウ達に“浮遊補助”をかけるのが精一杯だ。
「氷結 上級魔法“全てを凍結させる息吹”!」
一刻しか時間を稼げなかったノハ想定外だ。
『古代の鳥』のメンバーだけでも救えただけマシか。
「下手すれば1000人を代償に犠牲にして発動させる禁術級を何食わぬ顔で使うな!まさか無詠唱で瞬時に発動するとは思わずもろに喰らったじゃないか!」
「お早いお目覚めで想定外だよ。早起きのコツをゴブタロウに教えて欲しいくらいだ」
「まだ隠し玉を持ってるなこいつ、一体何者なんだ?」
「歴史の闇に葬られた裏切り者とでも言っておくよ」
もう武器ハ己の肉体しかない。
ただ交戦していて物理攻撃が通用シナイのが確認できたので最後のとっておきは通用しない。
言葉巧みで誘導シテ心理戦でゴブタロウ達が逃げるまで時間を稼ぐしかない。
サテどうしたものか。
☆☆☆☆☆
「寒いいいいいい!!」
「エルティアナがやったんですか?」
「敵がやったんだろう!あの女が味方を巻き込むわけねーだろう!」
射手のクロフォードの問いに即座にタイラーが反論してくれて嬉しくなる。
泥に埋もれていたらすぐに地面から引き離されて浮遊状態になった。
『古代の鳥』のメンバーも浮かんできたと思った瞬間、沼が凍り付いてしまった。
こんな事できるのは大洪水を一瞬で凍結させてみせたエルティアナをまず思い浮かべるが彼女の性格を考えるとあの『ごぼうせんそう』とやらがやったに違いない!
「エルティアナの方に加勢に行くのカ?」
「それは無理じゃの、わしらが加勢したところで足手まといにしかならんだろう」
「おいおい、こっちは両腕が骨折して悲惨なのに余計な真似するんじゃねええ!」
「でも退路がない」
「そうですね、いくら占領地とはいえ伏兵が潜んでいる可能性があります。それにここから離れたらこの凍結攻撃みたいに即死攻撃が飛んでくるかもしれません」
逃げたいのだがオレ以外は全員負傷しており遠くに逃げるのが困難である。
ここは占領地なのでこの凍結した大波のオブジェを見た友軍が駆けつけてくるのを待つのが得策であるがそこまで持ちそうにないのが本音だ。
エルティアナが勝つ可能性は低いと思われるので安全地帯でない以上、どこかに退避しないといけない。
「ゴブタロウさんー!いつ逃げるんですか!?」
「今の所、無理そうだな」
「もう、この方々を見捨てて逃げた方がいいですよ!早く逃げて頂かないとエルティアナお姉さまを助けにいけないじゃないですか!」
亡霊のエミリーは人間性が薄れているのか生前では絶対に口を出さない事を発言しており頭が痛くなってくる。
どうも、オレとエルティアナが最優先で他はどうでもいいと思っている節がある。
ゴブリンのオレが言うのもこのまま放置していると非情な亡霊になりそうで怖い。
「そんな事口にするとエルティアナに嫌われるから止めた方がいいぞ」
「むむむ、それはそうですけどお姉さまもここで屯されるのは望んでいないはずですよ」
この付近に居た冒険者たちは泥沼に漬かったまま凍結してしまい即死したはずなので生き残っているのはオレ達だけである。
生存者が少ないということは人形の標的にされる可能性が高くなるというわけであるし、馬車や高射砲など役に立ちそうな物も凍結している。
そしてなにより浮遊状態とはいえ冷気で体温が奪われておりとにかく何かしらの行動したほうが良いと抗議しているエミリーの意見はもっともだ。
「ゴブタロウさん!?人形が3体来ました!?」
「いやいやいや無理無理無理!逃げるぞ!」
「何で駆け寄っていくんですかゴブタロウさん!?」
「みんなの方に行かせるわけにはいかないだろう!」
嫌だけど動けるのがオレしかいない以上、惹きつけて撒くしかない。
普段、目の保養にしているミシェル隊長に見栄を張りたいという気持ちもある。
でも後悔した!
「やっぱ無理だ!やるんじゃなかったああああ!!」
「だから止めたのに!!“身体憑依”!」
エミリーが人形の1体に憑依して動きを止めてくれたが残りは自分で何とかするしかない。
こいつらを倒すには地中に潜んでいるコアか何かで操作されているのでそれを攻撃すればいい。
問題なのはこの氷のどこに潜んでいるか分からんってとこだ。
それに浮遊状態になれずうまく走れず人形との差がどんどん縮まっていく。
「水精王女様、私の存在を無視して攻撃してませんか。それにしてもあの女戦士やるわね。首なし騎士の時といい死なせるのが勿体ないわ」
なんか聞き覚えがある声がして見ると横転している荷台の上であの女吸血鬼王が腰掛けているじゃないか。
『ごぼうせんそう』と対等に話していたのをよく覚えている。
いや、待てよ。もしかしたらこの状況を打開できるかもしれない。
ええい一か八かだ!
「あら?そこのおチビさん。岩人形2体引き連れて何しに来たの?」
「うおおおおおおお!!」
「ああ、いつもの奴ね、全くどうしてどいつもこいつも自分から死地に行こうとするのかしらね」
「あああああああああああ!!!」
「掛かってきなさい!そこに転がっているCランク冒険者達の後を追わせてあげるわ」
荷台から降りてきた吸血鬼に向かって走るが人形の攻撃を回避したが運が悪い事に浮遊状態が解けてしまい派手に転んで滑ってしまった。
いや、普通に滑っていく方が早かったけどさ。
とにかく、彼女の足元に潜り込んだ後、急いで後ろに隠れる。
「やっぱり味方には攻撃しないようだ!やった!助かった」
あれほど怒涛の勢いで突っ込んできた人形達の動きが止まり生死に一生を得た。
首元にあった死神の鎌が外れたような安心感があり一息つく。
「攻撃しに来たように見せかけて淑女の下着を覗きに来たと思ったらなるほどね。水精王女様による人形の指令の隙を突くとはやるじゃない」
「いや、味方を巻き込まないかなっと思って一か八かで隠れてみただけだ」
「ふーん、死の恐怖達の存在を見抜けたりと感心していたけど偶然だったのね」
ん?どっかで聴いたことがある名前が出てきたぞ。
どこだったかな?オレの頭脳の片隅にあるんだが思い出せない。
「ところで大切な事を忘れていないかしら?」
「何が?」
「私も貴方の敵だという事」
「あっ」
ぎゃああああああ!そういえばこいつ、班長を殺害した奴だ!
それどころか班員も殺害されてしまい022号車の生存者はオレだけになっている。
その元凶の背後に隠れて一息ついているなんて!
あばばっばばば。
「その顔を見ると忘れていたようね」
「あばばっばばばば!」
「何か遺言があるなら聞いてあげるわ」
「人形から逃げるのに精一杯で何も考えてませんでした!」
「それで?」
「人形が居なくなったらすぐにこの場から立ち去りますのでそれまで一緒にいさせてください!」
もはや恥も糞もなく土下座してなんとか殺されない様に命乞いをする。
なんか命乞いというより図々しいお願いをしてしまったが発言した以上取り消せない。
「まあ、今日のところは見逃してあげるわ」
「ほえ?」
「そこに転がっている冒険者たちとは違って賢明な判断を選択したのは褒めてあげるわ。敵だと分かって武器に手を掛けず言い訳1つせずに本音を言えたのは潔くてよ」
「左様ですか」
「そこに転がってる殿方達なんて銀の武器を私に刺して効果が無い事に驚いた挙句、珍しく夫が褒めてくれたドレスを馬鹿にしたのよ。忌まわしき人狼と一緒にされたばかりか夫まで馬鹿にされて機嫌が悪かったから、貴方の様に馬鹿正直な子は見ていて心が安らぐわ」
とりあえず首の皮一枚繋がったようだ。
彼女の機嫌を損なわないように発言を肯定しつつ人形が去るのをじっと待つ。
「ところで冒険者達は輸送する補給物資を喪失しても任務を続行する気なの?」
「えっ、ほとんど泥沼に漬かった挙句凍結して任務失敗のはずですが…」
「大波を見て逃げた冒険者達が再びこっちに向かって来ているのよ」
援軍を率いて戻ってきたのか?
それだったら彼女から言及されるから違うはず。
「本当に愚かな方々ね。五芒星将スコルツェニーの名を本部に伝えさせるためにあえて見逃してあげたのにわざわざ全滅されにくるなんて滑稽ね」
「はい、仰るとおりです」
「聞き分けのよい子は好きよ。そうだ、あそこで交戦している女戦士さんに説得してきてくれない?あれは人間の可能性を見出している貴重な存在だからここで死んでしまうのが勿体なくてね」
なんか意外と穏健な思考である。
同僚を皆殺しにした女には見えないほど嬉しそうにエルティアナの事を気にかけている。
「何故そこまで彼女を気にするのですか?」
「こう見えても、昔は人間に憧れた身でね。彼女を見ていると人間という存在が尊しく感じてしまって大いなる魔の探求者如きに蹂躙されるのが見たくなくて攻撃をやめさせたのよ」
大いなる魔の探求者?
まさか彼女は…。
「あら?ようやく気付いたようね。そう、貴方が考えている通りの存在よ」
「大いなる魔の探求者に振り回される中間管理職の上司なのか…」
「間違っていないけど言い方が気に…」
彼女が不機嫌になった感じがしたので謝ろうとしたら何故か顔を背けた。
次の瞬間、風を切って高速で飛んできた矢を片手で握りしめて止めてしまった。
鏃はオレの首に刺さりそうになっており彼女が止めなかったら即死していた。
「誰もが欲する【最上位の大精霊】の血で誕生しながらも指示された事もこなせない薄鈍の木偶の棒めぇ!さっさとそこに居る愚か者共を殲滅しなさい!」
さきほどまで動き1つしなかった2体の人形は彼女の喝を聴いて再起動したようにオレを狙った王国軍の女弓兵と後方に居る冒険者一行に襲い掛かった。
奴らは瞬く間に彼女を粉砕し肉塊にして空中に吹っ飛ばした後、冒険者たちを血祭にしようと大暴れしているのを見てしまった。
「こんな奴らを相手にしようとしてたのか」
かなりの距離があったのにあっという間に詰めて蹂躙している様子を見て寒気がする。
やっぱり3体の人形を惹きつけたのはどれだけ愚策だったか実感できる。
「ほら、脅威が無くなったのだから発言通り去りなさい」
「あっはい!」
「私の可愛い部下が伝えた通り冒険者を辞めてどこかの辺境でひっそり暮らしてるといいわ」
「分かりました!すぐに逃げます!」
吸血鬼王から離れてエルティアナの居る方角に向かって走る。
短期間であったが重要な情報をいくつか得た。
その中でも重要なのは彼女が戦っている魔王軍幹部が【最上位の大精霊】って事!
魔法が使えるのは【精霊】が祝福してくれて力をほんのちょびっと借りることができてるからってどこかで聞いた記憶があるが問題なのはそこじゃない。
詠唱の呪文に出てくる【精霊】の上位互換である【大精霊】の中でも最上級の化け物とエルティアナが戦っているという事だ。
もし、それが本当なら彼女に勝機などない。
「ゴブタロウさんー!何をしてるんですか!?」
「エルティアナを説得して逃げる為に走ってるんだよ!」
「何を仰ってるんですか!?恐怖で正気を失ったのですか!?」
「いいからオレに憑依して後方を見張ってくれないか!」
「ああもう!“身体憑依”!」
道中でエミリーと合流したので憑依してもらう。
こうすることで死角である後方を彼女に見張ってもらえるので安心して前に進めるからだ。
「エルティアナ!オレだ!」
「ゴブタロウ!?」
「ん?どっかで見た鉄仮面だな」
よし、まだ五体満足のようだ!
いますぐに事実を告げて彼女の矛を収めてもらないとオレ達の命がない!
「どうしたんですかゴブタロウさん!?ゴブタロウさん!?無視しないでくれませんか!?」
ええいひとまずエミリーを無視してエルティアナに近づく。
「スコルツェニー様、冒険者一行が補給物資を奪還しにきたようです」
「…この惨状を見てどこに補給物資があると思ったんだ」
「私に訊かれても困ります。これではもう1つの目標は達成できないようですね」
「残念ながらこの【戦略兵器】について訊き出せなかったからどっちも失敗だ。これならさくっと輸送中隊の構成員を瞬殺した方がよかったな」
「スコルツェニー様はお優し過ぎるだけで他の襲撃部隊はそうしてますよ」
よし、『ごぼうせんそう』が吸血鬼王の話に気を取られている今がチャンス!
「ゴブタロウさん!もしかしてあの吸血鬼王に“魅了”されましたね!?こうしてはいられません!火炎魔法で焼き尽くして差し上げますわ!」
「お願いエミリー!マジでやめて!オレは正気だよ!」
「やっぱり洗脳されてますね!幸い吸血鬼にはされてませんのですのですぐに…」
「だからやめて!こいつらとは絶対に戦っちゃいけないんだよ!」
おっ!エルティアナがこっちに来た!
良し!彼女を説得したらクランメンバーを連れてこの地域から逃げ出すぞ!
「動くな!こいつがどうなってもいいのか!!」
「ほえ?」
何故かエルティアナがオレの首元に短剣を突き付けている。
あれ?これってもしかして…。
「マーヤ、何故か敵が味方のはずの人物を人質にしているんだが何かしたのか?」
「いえ、何もしておりません。私にもさっぱり…」
そうだよ!人質にされたイメージにそっくりだよ!
って何で人質にされているんだよ!?
エルティアナ!?
「こいつはお前たちの国民であるゴブリンだ!こいつの命が惜しいなら一歩も動くなよ!?」
「エルティアナ!?どういうことなの!?」
「これが証拠だ!」
「あっー!鉄仮面と布マスクを返してくれ!」
何故か兜を脱がせたと思ったらなんと鉄仮面と布マスクを取り上げられてしまった!
補給物資を奪還しに来た冒険者や傭兵達はおろか、無機物で意思がないはずの人形もこちらを見ている。
一団の中には『古代の鳥』のメンバーも混じっている。
お願い!見ないでくれ!!なんか恥ずかしい!!
でもこの状況からある単語を思い出した。
「あーなるほどこれが【肉の盾】って奴か!って違う!普通は逆だよ!なんで女戦士がゴブリンを肉の盾してるんだ!」
「マーヤ、いろんな場面を見てきたがゴブリンが人質にされたのは始めて見たぞ」
「それ自体はどうでもいいですけど貴重な人語を理解するゴブリンを失うのは何か勿体ない気がしますわね」
「アイエエエ!?ナンデ!?エルティアナ!?ナンデ!?」
これじゃあもうクランのメンバーと一緒に活動できないじゃないか!
それどころか冒険者として活動できなくなった!!
エルティアナーーー!!!




