表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第三章 駆り立てるのは憎しみと報復、横たわるのは狗と羊、嘲笑うのは狐と神
45/56

44話 惨劇の前兆

怖い、誰か助けて。

寂しい、暗い、寒い、動けない、なんでこんなことに。


「本当にこんな所にあのエミリー伯爵令嬢が埋葬されているのでしょうか?」

「司令官である(わらわ)を信じられんのか?つべこべ言わずにさっさと掘らんか!」

「チッ、おい、赤い花が咲いている場所を掘り返せ!」

「カーチス様!雑草が生えてない所を掘るべきでは?」

「良く見ろ!あんな不自然に生えているのは明らかに人為的だ。多分そこに遺体がある」


誰かが来てくれた。

助けて!嫌!もう独りぼっちなんて嫌!


「見つけたぞ!棺桶だ!」

「クッ!開きません!」

「釘打ちしてるに決まってんだろう!お前の自慢の斧で遺体を壊さない程度にぶっ壊せ!」

「おい大剣を叩きつけるな!遺体まで粉砕されるだろうが!」


ああ、光が差し込んできたのが分かります。

闇に包まれて存在を消されたのが嘘のように私を再び照らしてくれるようです。


「間違いない!この尊顔は、エミリー・ティティス・グリザイユ伯爵令嬢だ」

「やはり死んでいたか。それにしても惨いな…四肢がないぞ」

「遺体が残っているのがマシとか。なにせ犠牲者の大半が遺体すら残ってないそうだ…」

「あの執事も護衛兵も口だけでのろくでなしだったな。任務は遂行できそうもない」


もはや痛みですらありません。

それどころか呼吸すら…あれ?私は一体?


「やけに遺体が奇麗だ。死後何週間か特定できるか?」

「いや、それがついさっき死んだようです。」

「血を抜いて防腐処理してるから遺体が奇麗に残っているだけじゃないか?」

「いえ、この様子では死後数時間程度って所です」

「そんな馬鹿な!?『ヴェールヴィエンヌの大虐殺』から何日経ってると思ってんだ!?」

「この女の性格は苦手だったが…あいつといいやっぱ、光の魔力所持者は不気味だ」


私は死んだの?

じゃあ、なんで意識があるの?


「やはり童の勘に狂いはなかったようじゃ!皆の者、褒めて遣わす」

「なんでこの女はこんなに偉そうなんだ」

「馬鹿、彼女は猊下のお気に入りだ。異論を唱えれば枢機卿(カーディナル)の意思に歯向かう事になるぞ」

「そういうことじゃ!おぬしらは儀式の邪魔だから下がっておれ」

「にわかには信じられんがな。棺桶から20歩後退して整列せよ!」


何が足りない。

自分の何かが不足しているのが分かります。

でもそれが何か分かりません。


「神聖 上級魔法“高位蘇生術(ハイリザレクション)”!神聖 上級魔法“完全な治癒復活(フルヒーリング)”!」


目の前が急に明るくなりました。

まるでお日様のように優しく私を照らしてくれるようです。


「うおっ!復活したぞ!?」

屍者(ゾンビ)じゃないだろうな?」

「四肢が復活したぞ!?等価交換はどうなってんだ!?」

「さすが『ベロボーグ神教』の13神の1柱の名を冠するクパーラ様!」

「ケッ!死者を現世に蘇らせるなんて罰当たりにもほどがある」


何か感謝の一言を述べたい。

でも声が出ない。

それどころか自分が何なのかも分からない。

私は誰?なんで死んでたの?なにも思い出せない。


「なんていうことなの…!おのれ魔王軍!卑劣な事を!」

「クパーラ様いかがなされましたか!?」

「魂を抜き取れたせいで肉体しか復活できなかったのじゃ!辛うじて魂の残滓があったおかげで『生き物』として活動できる程度に過ぎん」

「つまりこいつは、忌まわしき動く屍(アンデッド)と同じように存在自体が不安定のゴミって訳か!はっはっはっは!こいつは傑作だ!」

「黙れカーチス!次に()()()()()を侮辱したら首より上が無いと思え!」


ただ、私が生まれた来た事は賛否両論というのは分かる。

両親の顔も友達も知り合いもここにいる方々も誰1人思い出せない。

私は一体何の為に居るの?


「お言葉ですが亡くなってから時間が経ってますから魂が無いのは当然の事では?」

「愚かな人間め!童を誰だと思ってる!?」

「13神の1柱であり下界に降臨された水の女神クパーラ様でしたか。今でも信じられませんがさきほどの御力を拝見させてもらった以上、跪くしかありません」


とにかくお礼を言いたい。

4人の兵士と美しく気高い女神の様な御方に感謝したい。

でもさきほどから頑張ってるのに呻き声にしかならないので何度もお辞儀をする表現しかできない。


「さっきからあーあー呻いてるが屍者(ゾンビ)じゃないよな?」

「何か感謝してるようだぜ。美少女にされると嬉しいものだ」

「とにかく目標を達成した以上、長居は無用だ!予定通り『大神殿』に帰還する」

「身体はともかく魂が不完全のせいで崩壊する可能性がある転送術は厳禁じゃ」

「どの道、聖都には結界が張られてますので徒歩でしか行けませんのでご安心ください」

「さて、エミリー身体の調子はどう?」


女神様は私に左手を差し伸べてくれました。

思わず右手を差し出して掌に触れるととても温かった。


「あら?その汚いお守りは棺桶に捨てておきなさい」


彼女に指摘されて調べてみると胸ポケットから『木彫りのお守り』が見つかった。

私の記憶にないものではあるけど一緒に埋葬されたのでしょう。

でも何故でしょうか。

私と親しい方々を繋ぐ大切な物というのはすぐに分かりました。

願わくばこのお守りを授けた方々に逢えますように。

そう強く願って棺桶に戻そうとしますがどうしてもできませんでした。


「そのお守りから人間の女と忌まわしきゴブリンの血が漂ってくるのに耐えられん。さっさと捨ててしまえ」


それでも棺桶に戻すことができず彼女と向き合って首を振って抵抗しました。

お守りを手放すと自分の過去を切り捨てる気がしてどうしても持っていたかったのです。


「クパーラ様、どうやら彼女はこれがないと不安の様子、代わりの物が見つかるまで持たせてあげた方がよろしいかと」

「人間風情が童に意見する気か?立場を…」

「クソが!王国兵に勘付かれた!」

「…やむをえん、勝手にしろ。ただしそれを童に近づけるのではないぞ」

「あ り が と う ご ざ い ま す」


お守りを再び胸ポケットに入れて女神様の手にひかれてこの場を後にしました。

振り返って棺桶をみると過去の様な出来事の感じがしました。

私はー。



☆☆☆☆☆


飛び起きるとそこはいつもの光景が広がっていた。


「夢か…?」


まるでさきほどの出来事が自分に起こったような感じがした。

嫌な夢である。

()()()()()()()()()()()()()()()()()がして憂鬱になった。


「あれ?珍しくエミリーに起こされずに起床できたね?」

「なんか嫌な夢を見た」

「あんな格上の存在と立て続けに遭遇したからね。無理もないよ」

「いや、どちらかというとエミリーが誰かに蘇らせられる夢を見たんだ」


エルティアナになんとかさきほどの出来事を告げないといけない気がした。

ほとんど覚えてないが名前だけはまだ口にできる。


「なあ、クパーラっていう女性は知ってるか?カーチスという兵士と同行していてエミリーの墓を掘り起こしていたんだ」

「クパーラ?『ベロボーグ神教』に登場する13神の1人だね。残念だけど教国では、縁起が良いのでその名の女性は多いから特定は難しい」

「彼女って水の女神なのか?」

「そうそう、良く知ってるね。独学で勉強するとはやるじゃん」


なんかエルティアナに褒められて頭を撫でられる。

でも褒められるのも頭を撫でられるのはあまり好きじゃない。

慣れてないせいか?

そう考えると悲しくなってくるがゴブリンだから仕方がないという理論で納得した。


「それにしてもカーチスの性格上、墓荒らしするようなタマじゃないと思うんだけど…」

「ゴブタロウさん!!もしかして同じ夢を見ましたか!?」


体内から飛び出してきたエミリーは嬉しそうに話しかけてきた。

そういえば寝る時は、こいつが憑依してたな。


「同じ夢見られるなんて初耳だ」

「あー、最初にエミリーが憑依した時、オレの夢の中に出現してエロ本を暖炉に投げつけたり引火して家が火事になったりしたんだ」

「夢の中で火事になる方がおかしいんですぅ!」

「憑依してる時は、身も心も運命共同体ってところか。なんか微笑ましいよ」


苦笑しているエルティアナであるがオレからしてみればたまったもんじゃない。

人の夢を覗けるという事でプライバシーの欠片もない。

その時、何故か『本当に申し訳ない』と謝罪する白衣を纏ったハゲのおっさんを思い浮かべた。

なんかムカついたので頭を振っておっさんのイメージを吹っ飛ばす。


「ところでゴブタロウ、良い話と悪い話があるんだけど聴きたい?」

「良い話からお願いします」

「安定した収入が得られるようになるよ」

「ん?」


ほう、冒険者というのは高ランクにならないと収入が安定しない。

大体、日当で生活してるので装備を購入などを踏まえると不味しい生活を送っている。

冒険者の半数が馬小屋で寝泊りしている話をどこかで聞いたことあるくらいだ。

もっともこの国は多人種国家の為、同じようにすると問題になるので許可されてない。

ところで旨い話は何かカラクリあるものだ。


「悪い話ってなんだ?」

「補給物資を中継地点に輸送しろという勅令が来た。つまり事実上徴兵されたよ」


うげええ。

大いなる魔の探求者(エルダーリッチ)とかいうとんでもない奴が魔王軍の所属してるのを知ってると責務を放棄して逃げたくなる。

でもこういう時にそんな事したら敵前逃亡の罪で処刑されるか厳罰を受けるかのどちらかである。


「なんか話によると怖いほど快勝が続いたせいで補給が追い付いていないそうだ」

「でも開戦してからそんな経ってないぞ?連合軍で攻めているとはいえ早過ぎないか?」

「交戦してるのは練度も士気も低い【人界方面師団】だからそこまで強くないんだ。ただ、【魔界防衛師団】が動き出すと戦況が変わってくると思う」


師団か。

どっかで聴いたことある単語だ。

中隊が集まった大隊より更にでかい規模である。


「ちなみに人界方面師団の兵力は600万、魔王軍の1割程度ってところだよ」

「何それ怖い」

「邪教徒や囚人とかも編成されているせいで『督戦隊』がいるどころか督戦隊ですらランク付けされているという意味分からない組織だったりする」


つまり無理やり人海戦術で突っ込んで玉砕してるのか?

突撃を強要している督戦隊の後方で更に督戦隊がへらへら笑っている状況を思い浮かべる。


「なんでそんなに詳しいんだ?」

「昔にウラジミール魔帝国領や魔王領に潜入任務を遂行してた時期があったからだね」

「でも今は違うかもしれないから気を引き締めないといけないな…」


思わずため息を吐いて口元を布で覆い鉄仮面、兜の順に装着する。

でも朝ご飯を食べてないから慌てて食べて改めてマスクをした。


「集合場所はどこなんだ?」

「よく演説とか手品とか催しがある広場だよ」


エルティアナに誘導されて広場に向かって歩いていく。

途中で遭遇する名も分からぬ通行人や変わる景色を見てこれが見納めになるかもと考えるとどうしても気が重くなり死刑囚が処刑台に進むかのように歩みが遅くなってくる。


「ゴブタロウさん!ところでエルティアナお姉さまと同衾したことありますか?」

「いや、ないよ」

「ええ!?じゃあキスとか一緒にお風呂とかは?」

「ない」

「パフェの突き合いとかデートとかは?」

「ねーよ!ゴブリンに何を求めているんだ!」


なんかエミリーが重苦しい空気をぶち壊しに掛かってきた。

しかもよりによって痴情めいた話題を振って来やがった。

信じらせますか?こいつ、伯爵家の中でも名家のお嬢様なんだぜ。


「仲が宜しいのでもしかしてと思いましたが同衾どころか恋人関係ですらないとか…」

「なんだよ?なんか文句あるのか?」


ゴブリンが女性と恋人関係になるとか聞いたことない。

というかゴブリンと女性の王道な純愛話があったら教えてほしい。



「決めました!」

「何をだ!?」

「私、恋のキューピットになります」

「何言ってんだこいつ」

「ああああ!遂にこいつ呼ばわりしましたね!?お姉さま聞いてください!!」


もうやだ、女ってめんどい。

世の中の男性が女の心情を読み解くのがどれだけきついか分かった気がする。

その点、デートを誘ったりご機嫌取りする家庭的な男性ってすごいよな。

繁殖する為だけに女の身体にしか興味が無いゴブリンとは大違いである。


そういえばエミリーに絡まれるまでエルティアナは無言であったが彼女の心情を知りたい。

我儘な幽鬼レイスの絡みを巧みにあしらうどころか落ち着かせる彼女の瞳から見てオレはどう映っているのだろうか。


「あそこに居るのは鉱人(ドワーフ)のローウェルさんじゃない?」


エルティアナの声を聴いて前方で手を振ってる人物をじっくり目視するとその通りであった。

古代の鳥(アルケオエイビス)』の面々も広場に集まっており思わず遅刻したかと焦ったが、もしそればあればオレの手を引っ張っている女戦士様が悠長に歩いているわけはないだろう。

反応しないのもなんなので塞がってない手を挙げて大きく振った。


その時、突然大きな不安が胸を横切って息苦しくなった。


【本能】は〈死にたくなかったら全力で街から逃亡しろ!〉と騒いでいて

【理性】は〈適当に怪我をして傭兵を辞めて生活しよう!〉と説いている。


本能も理性もまるでオレの物ではないように補給物資の輸送任務を受けることをやめた方が良いと警告してきた。

でももう遅いんだ。

ここでどう騒いでも皆に迷惑かけるだけでどの道やらないといけない仕事なのだ。

幸い最前線に物資を輸送するわけじゃないので危険は少ないはずだ。

何とか必死に発作を抑えようとするが不安がどんどん体内から湧き出てくる。


「どうしたのゴブタロウ?」

「なんか不安でしょうがないんだ」

「大丈夫、幾度も死線を越えてきた私も今回はかなり不安なんだ」

豚巨人(オーク)どころかどんな化け物でも立ち向かった人と一緒にしないでくれないか」


彼女がオレを落ち着かせる為に発言したと思わず反論してしまった。

でもその口調はいつものではなくベテランの勘が告げていると言わんばかりにオレに更なる警戒を促している感じがした。


「ゴブタロウさん!大丈夫ですよ!死ぬほど痛い目に遭ってもこうして存在している私が居ます」


体内から飛び出してきたエミリーが何故か胸を張って自信満々に告げている姿が滑稽過ぎて不安は消し飛んでしまった。

本人からしたら思い出したくない過去をオレの為に茶化してしまうその姿を見たら自分の考えなんてどんだけくだらないものかと自嘲してしまうほどである。

早足になったエルティアナに釣られてオレも駆け足でクランのメンバーと合流した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ