43話 負けイベント:エルダーリッチ戦
クスクスと鈴を転がすように笑う女性。
それだけなら良かったのだが嗅覚は、彼女は生者じゃないと主張している。
「おい、ゴブタロウ。首なし騎士より強いってマジなのか?」
「タイラー。残念だが桁が違うほど強いようだ」
「もしこれで死んだら化けて依頼主を殴り殺してやる…!」
いつの間にか傍に寄ってきたタイラーの問いに返答すると、珍しく彼が感情的ではなく恨み節で呟くのを見るとガチでやばいのが分かる。
ちなみに強いっていうのはエミリーが言ってた事なのでどれくらい強いかオレにも分からん。
ただし【Aランク討伐対象】より強いのは間違いないだろう。
「ああもう!AランクどころかCランクですらない冒険者一行に自信満々の力作である首なし騎士が倒されるとは想定外よ。それどころか私達の存在を勘付かれるとは本当にプライドがズタズタにされた気分だわ」
「力作ってまさか首なし騎士を創ったのカ!?」
「ええ、裏切り者の死体と鎧を使って造り上げた自信満々の力作だったのに…」
あっ、ホイスラーとの会話を聴いていると、冷酷に敵を始末するアカンタイプの奴だ。
これはさっさと謝って戦闘を避けなければ!
「オレ達は、先行した冒険者一行が鎧武者に撃退されたから調査しに来ただけだ!戦闘になったのは不本意であり倒すのは想定外だったんだ!」
「首なし騎士を創ったのは貴方達が来たせいよ。だからその点はもはや興味はないの。ただ、大いなる魔の探求者としてのプライドを傷つけたことは万死に値する。申し訳ないと思うけど死んでくださいませ」
首なし騎士に勝っても負けても死ぬってなんだこのクソゲー。
とりあえず勝ち目がなさそうなのでなんとか説得しなけば。
「魔の探求者?【不死王】か!」
「ハァ?短命の種族が少し知識があるからって肉体を作り変えて調子に乗っている井の中の蛙と一緒にしないでくださらない?」
おいタイラー!なんか地雷を踏みやがったな!
明らかに声色が怒りに満ちてるぞ!!
「【不死王】は、我らが主に相応しい異名!たかが魔の探求者如きがそれを名乗るとは笑止千万!主より創造された大いなる魔の探求者は、その勘違い野郎を断固抹消してやるわ」
「魔の探求者を雑魚扱い…か。アタイ達、とんでもない奴に出会ったねえ」
「サンディ姐さん、諦めてここで全滅しますか?」
「クロフォード!馬鹿言ってるじゃないよ!最後まで抵抗するんだよ!」
あれ?戦う気なのか?
よく見ると皆、展開していてやる気満々だった。
無様に殺されるなら戦って死ぬ気かこいつら!?
「さあ、死ぬ覚悟はできたかしら?大丈夫!抵抗しないなら圧倒的な力で安楽死できるから安心して死んでくださいませ」
「「「断る!!」」」
「ああなんて勇ましい事!…そういうのは大っ嫌いよ!」
「はい、分かりました。殺してくださいなんて言ってくれると思ったか!馬鹿女め!」
タイラーの勇ましい一言を聞いて走馬灯を思い浮かべる。
あーまだ生きたかったな。
せめて死ぬ前に腹一杯、肉を食べたかった…。
「火炎 上級魔法“大爆殺”!!」
「暴風 中級魔法“山颪”!!」
「うおっ!?」
急に目の前で小さく発光する物体が出現した。
周りの空間を巻き込んでいるのか光の周りは歪んでおり、その幻想的景色は美しくもあった。
その直後、強風が吹き荒れオレの身体は吹っ飛ばされてしまった。
いや、オレだけじゃない。
タイラーもローウェルさんも賢者のホイスラーですらも吹っ飛ばされていた。
「ぐぎゃあ!!ああああああっがっ!!」
思いっきり地面に叩きつけられて苦痛で身動きが取れない。
更に遠くで爆発音が聴こえたと思ったら爆風に煽られたのか、更に吹っ飛ばされて岩肌と激突してしまった。
幸い直撃したのは鎧だったので岩に突き刺さって死ぬことはなかったようだが激突直後は、視界が真っ赤に染まって音も良く聞こえなかった。
「大丈夫ですかゴブタロウさん!?」
体内から心配した様子のエミリーの声が聴こえる。
なんか存在を忘れてしまい申し訳ないと思う一方で、もうちょっと活躍して欲しい。
せめてオレの体内から魔法攻撃して援護するとかなんかやって欲しかった。
もっとも、不意打ちで勝てる相手だとは思わないが…。
「ああ、なんとか五体満足のようだ」
実際は、うつ伏せ状態で倒れており全身が痛くて身体に力が入らない。
なんとか気力で横に転がって辛うじて動ける眼を駆使して状況を確認する。
遠くでは、大きな黒煙が昇っており渓谷だったはずなのに砂埃が舞う砂漠のような環境になっており転送魔法でも使われたのかと錯覚するほどであった。
「やっぱり貴女は別格ね。首なし騎士を圧倒したといい一体何者なの?」
「聖印騎士団の特殊部隊に所属していたとでも言った方が良い?」
「でしょうね。無詠唱かつ瞬時に中級魔法を発動させるなんて『デロリアン4個中隊』くらいのものよ。魔王軍でさえその技量を持つ奴なんて一握りだから…」
さっきの突風はエルティアナが発動させたようだ。
口や鼻の中が砂だらけで咽るが熱さを感じない所を見ると大爆発の直撃を免れたのは不幸中の幸いである。
その爆発に直撃していたら命どころか身体さえ存在しなかっただろう。
周りは呻き声しか聞こえず動いている気配すらないのに無傷の彼女達は、何事もなく会話しており格の違いというのが実感できる。
「だからこそ貴女は、ここで抹消しておかなけばならない」
「だったら周りを巻き込まずに私だけ狙えばいいのに…」
「秘密を知られて以上、生かして帰すわけにはいかないのよ!」
「ここまで派手にやらかしたら秘密どころの騒ぎじゃないと思うんだけどね」
興奮している敵とは対照的に呆れた様子でエルティアナは話しかけていた。
ただ、2人は隙を見せたらすぐさま攻撃をする気満々にも見える。
「電撃 中級魔法“稲妻の大矢”!」
先に攻撃を仕掛けたのは、大いなる魔の探求者と名乗った奴であった。
魔法名を告げた瞬間、閃光が見えたがどうやら空中に飛んでいた岩に命中したようだ。
その岩は、何事もなかったように敵に向かって落下していたがどこからともなく出現させた杖を振るうと瞬く間に両断されてあらぬ方向に吹っ飛んでいってしまった。
エルティアナは、魔法を先読みして転がっていた岩を鞭で投げ飛ばしたようだ。
普通だったら持ち上げられない物体を攻防に使うとは意味分からんが実際にできているから納得するしかない。
一方、敵も首なし騎士並みの戦闘能力があるのか同じように飛ぶ斬撃を使えるようであった。
「死んだフリしよう」
あまりにも現実離れした光景に疲れてしまい思わず口走ってしまったのも仕方がなかった。
こっちはお腹一杯なのに向こうはいくらでも手札があるのか彼女達は余裕の様子である。
「とことん苛つかせてくるわね…。でもこれで終わりよ!暗黒 上級魔法“暗黒”…」
『なにをしているの?』
突如、女性の声が聴こえた。
新手に警戒したエルティアナであったが敵も何故か狼狽えた様子である。
「…ご命令通り証拠を抹消して帰還する予定です」
『適当にあしらって不要な死者は出すな…と付け加えたのを忘れたの?圧倒的な実力差で死人は出るのは仕方がないという意味であって冒険者一行を殲滅しろとは言ってないのだけど?』
「お言葉ですが!彼らは我々の存在に気付いていました!知られた以上、生かして帰すわけには…」
慌てて敵が弁明するところをみると、どうやら向こうの方が格が上らしい。
はっきり声が聴こえるが何故かどこからくるのか分からない上に視覚も嗅覚も新手を感知できず、まるで体内に居るかのようである。
『だからどうしたの?その時点だったら【首なし騎士に黒幕が居た】で済んだ話じゃないの。なのにわざわざ接触して醜態を晒すなんて馬鹿みたいじゃない』
「すぐさま奴らを抹殺して軍に帰還します」
『…もういいわ。すぐさま帰還しなさい』
「死の恐怖様!ですが…」
『ほら、新たに不要な情報を晒してどうするの?本当に愚か者ね』
あれだけ感情的だった大いなる魔の探求者が黙り込んでしまった。
彼女の言うようにすぐさまオレ達を殺せばある程度、チャラになるはずなのにどうも上は不要な殺戮を避けているようだ。
『そうそう、冒険者一行には見逃す代わりに約束して欲しい事があるの。あくまでもゴブリンを指揮していたのは、ただの首なし騎士で死闘の末に魔法陣を破壊した余波で渓谷が吹っ飛んだって報告して欲しいのよ』
「本当に見逃してくれるのか?」
『ええ、我々の目的は、裏切り者の抹殺と背後関係を洗っていただけだから交戦自体が想定外なの。首なし騎士はそこの愚か者が死体と鎧を元にして勝手に創り上げたお人形に過ぎないから痛手は無いしね』
なんとか話が通じる人で助かった。
エルティアナ以外戦力外なのにドンパチされればこっちの身が持たないのは確かだったからだ。
『首なし騎士の鎧の破片を証拠として冒険者ギルドに提出しなさい。腐っても私の部下が生成したのであの爆発程度では証拠の決め手となる【魔力喪失】はないはずよ』
「何故そこまで優しいんだ?オレ達を殺せばある程度チャラになるだろう?」
「貴様!死の恐怖様になんて口調を…!」
『お願い、これ以上失態を晒さないで!主も余暇の暇つぶしにこの様子をご覧になっているのよ!ただでさえ報告書を山ほど書かないといけないのに!貴女が出しゃばってから主の機嫌が悪くなっていく一方なのよ!』
切羽詰まった様子の声の上官が哀れな中間管理職ポジションに見えてきた。
首なし騎士を創り上げた大いなる魔の探求者の上官の上官とかインフレ具合が酷いが逆に言えば、その存在のおかげで生存権をなんとか漕ぎづけたと考えるとラッキーだ。
エルティアナも空気を読んで黙り込んでいる所を見ると敵視されたくないのが痛いほど分かる。
「了解しました。すぐさま帰還します。次元 中級魔法 “転送移転”」
大いなる魔の探求者の足元に紋章が地面に湧き出たと思ったら光に包まれてそのまま消え去った。
どうやら【死神】は過ぎ去ったようだ。
いや、【死の恐怖】という名を冠する者はまだいるようだが少なくとも殺しに掛かってくる敵は居ない。
「助かったのか?」
『貴方達が約束を守ってくるのであればね。もし契約を破棄したら…』
「ぐっ!」
突然、心臓を鷲掴みにされた感覚が襲った。
身動きが取れず声どころか呼吸ができず苦しくて意識が飛びそうになる。
『いつでも我々は貴方達を殺せることを忘れないで。願わくば冒険者を辞めてもう二度と遭遇しない事を敬虔な信者の様に神にでも祈って生活していなさい』
そしてその一言を最後に静かになったと思うと心臓を鷲掴みされる感覚はなくなった。
エルティアナも跪いて胸を抑えている所を見るとあれは、成す術がなかったようだ。
やはりあいつらは味方じゃないな。
「みんな生きてるか?」
「馬鹿!死んでるフリしてるのに話しかけるんじゃねええ!!」
「そうですよ!なんで話しかけるんですか!?」
「久しぶりに死を覚悟したぞい」
「元気そうだな」
思ったより声がでかくて安心した。
さっさとこの場から脱出しないと今度は文字通り全滅するので早くこの場から去りたい。
「ミシェルさんよぉ!点呼を取ってくれ」
「我々から生存報告をしていくのカ?」
「約束さえ守れば危害がないから大丈夫だろう」
なんで全滅寸前に追い詰められたのにあそこまで切り替えが早いんだ。
オレにもそのやる気スイッチが欲しいわ。
「エルティアナ」
「はい」
「クロフォード」
「大丈夫です」
「ゴブタロウ」
「痛いけど生きてる」
淡々とミシェル隊長が点呼をしている。
物静かなのか感情的に話せないのかは分からん。
「サンディ」
「居るよ」
「タイラー」
「おう!!」
「ホイスラー」
「生きてるゾ」
「ローウェル」
「五体満足じゃ!」
よし、みんな生きているようだ。
奇跡的に重傷者は居ないようで特にこれといった怪我の報告はなかった。
「1人足りない」
どうやら隊長が誰かを数え忘れたようだ。
「ゴブタロウさんゴブタロウさん!私の名前が呼ばれてません!」
「いや、エミリーは想定しないはずだ。だって生存者の安否確認だから」
「無視するなんて酷いです!」
「だったらオレの体内から魔法を発動させて援護するとかしてくれ」
「むむむ、いずれ全員に私を認知させて見せます」
認知と聴くと妊婦を思い浮かべるオレは末期だろう。
というか、亡霊のエミリーはどうやって自身を認知させるのだろうか。
夢の中で出現して恨み言でも言うイメージしか湧かない。
「ご自身の事をカウントしてないのでは?」
「そうね、8人全員生存。帰還します」
それからあっという間に時間が過ぎていった。
道中では魔物も刺客も遭遇せずにオレ達は、冒険者ギルドに無事に帰還して報告をした。
バイオレット嬢は、半信半疑だったが鎧を見せたら別の受付嬢が真っ青になって大騒ぎをしたのでどうやら納得してくれたようだ。
報酬はバイオレット嬢の懇願と【戦利品】のおかげでいつもより豪華であった。
もちろん、約束は守り黒幕の連中の事は話さなかった。
ただ、組織的な行動をしている彼女達であったり首なし騎士の元になった裏切り者など謎が多い点があった。
1つ言える事としたらエルティアナが魔王軍に所属しているようだと呟いていた点か。
思わず身構えたが何事も無くて一息ついたがそれが本当だとしたらあの戦争に勝ち目があるのだろうか。
一度でも気になるとどんどん考え込んでしまい不安になってしまう。
今回は、馬車を連れてこなかったのと敵が慈悲を与えてくれたおかげで大した損害を出さずに済んだがこれからはこうもうまくいかないだろう。
徴兵される前に冒険者と傭兵を辞めようか。
そう考えてしまうのも仕方がなかった。




