42話 ゴブリン退治で遭遇する敵じゃない!
「オラァ!!!」
『ぐぎゃああああっ!がっ!!』
鬼神タイラーの回し蹴りによって剣士ゴブリンは勢いよく岩肌に激突した際に首の骨が折れてそのまま絶命した。
これで6体目。
何度聴いても同族の断末魔の叫びを聞くと罪悪感が湧く。
「おい、次の獲物はどこだ!?」
「大声で叫ぶなよ…付近には居ないけど奥にまだ居そうだ」
あれほど難癖付けて依頼を避けていたのにいざ、戦闘になったらやる気満々のタイラーがエアボクシングをやっている。
やる気スイッチの切り替えが早くびっくりするわ。
ちなみに斥候のオレは、ゴブリン探知装置と化して索敵を行なっている。
『餅は餅屋に任せればいい』とエルティアナが自信満々に推してくれたせいでもある。
結果は出しているので信用されているがまさかゴブリンがゴブリン退治やってるなんて夢にも思わないだろう。
例えるなら悪魔が悪魔祓いに参加している滑稽さである。
「それでゴブリンの上位種の痕跡を見つけたのカ?」
「少なくともゴブリンの上位種は確認できない。祈祷師特有のトーテムも見つからないしゴブリン王が好む威圧目的の骨の山も見つからん」
「ふむ、居たとしても前任の冒険者一行が片付けたかもしれませんね。想像以上に数が少なくて拍子抜けですよ」
「ただ、奥から濃厚な血と金属の匂いが漂ってきて鼻が曲がりそうだ」
まるで町中の住民を虐殺したかのような血の濃さに吐き気がする。
よくこいつら、この場に居て生活できるなと感心するくらいだ。
『夜行性の目』からは敵は補足できず洞窟ではないので空気の淀みがなく死角ができやすい。
「生存者は絶望的という事ですね。そういえば漆黒の鎧武者ってどんな奴だったでしょうか?」
「クロフォード忘れたのかい?複数属性の中級魔法を使い込なす剣士だったんじゃないの!」
「サンディ姐さん、申し訳ありません。どうもこの環境は刺激的で頭が痛いんですよ」
「ゴブタロウみたいに鎧とマスクを装備すれば良かったんじゃないのか?全くお前たちの感覚はどうかしてるぜ」
「獣人の先祖も似たようなことができたそうだがどこで森人と差が付いたのカ…慢心、環境の違イ」
「うるせーよ!いちいちそんな事を気にしてたら戦闘できないじゃねーか!」
前回のゴブリン退治と比べると煩すぎる。
ヒューゴもなんかおかしかったがこいつらほどではなかったぞ。
こっちは、その鎧武者とやらにビクビクして慎重になっているのに…全く。
「罠すらない。ゴブリン祈祷師ですらできるのに」
「複数属性の中級魔法を使いこなす割りには妙だ。まるでこちらを誘っているようだね」
「誘導の意図がある可能性」
「前例を見るとそうかもしれんのう」
一方、エルティアナとミシェル隊長とローウェルさんは何か警戒しているようだ。
言われてみればそうかもしれない。
まあ、何かあったら彼女達が制止するからいつも通りやれば…!
「12時方向から敵襲!4体編成だ!全員ただのゴブリン!」
慌てて忠告するとさきほど雑談していたのは嘘の様に展開して敵を待ち伏せをした。
その後、奇声をあげながらオレに向かって前方から4体のゴブリンが突撃してくる。
「我らを照らす焔よ凶弾となり敵を焼き尽くせ 火炎 初級魔法 “火球”」
「大地を見守る土精爺ヨ土を汚す者に石の弾丸ヲ 塊土 初級魔法“石噴射”」
「凍てつく氷の礫よ殺意と共に敵を貫け 氷結 初級魔法“氷の弾丸”」
隊長とローウェルさんとエルティアナが放った魔法で哀れなゴブリン達はなすすべなくやられてしまい呆気にとられた生き残りは、眉間に矢が刺さりそのまま倒れ込むように絶命した。
やだ、こいつら強過ぎ!
「出番はなかったナ。まあ大物相手にとっておくとしよウ」
「むしろその大物が本命ですからね。あの受付嬢に頼んでがっちり金を絞り取りましょう」
「アタイ達はDランクだよ?そんなにもらえるもんかねえ」
そしてこの有様である。
やる気スイッチの切り替えが早いのか喋りながら同時の事をこなせるのか。
後者だったら同時に思考する必要がある医者に必須の技能ではあるが…。
「ゴブタロウさん」
「どうしたんだエミリー?」
「奥から禍々しい気配がします」
「そりゃあDランクのクラン構成員である18名を返り討ちにするからな」
やはり体内から話しかけられると違和感がある。
パイプオルガンみたいに体内で振動しながら響いて聴こえるから気分が悪くなるからだ。
「凄まじいオーラを放つ動く屍が複数居ます!」
「複数?しかも幽鬼視点から見てもやばいのか?」
「私は魂だけの存在なので感じ取れるんですが明らかに格が違います」
「参ったな。エルティアナに相談してみるか」
緊急事態のジェスチャーをやって手招きをしエルティアナに来てもらい事情を説明する。
これは3人だけしか通じないジェスチャーで予め訓練してきたものである。
他のメンバーだと大騒ぎになりそうだから彼女だけ呼ぶのにうってこいなのだ。
「数は4人、そこから動いてないんだね?」
「はい、お姉さま。何故か微動だにしてません」
「罠の魔法陣でも張ってるのかもね。厄介なことになった」
「みんなに知らせるのか?」
「いや、賢者と高位魔術師で充分だよ。そこは彼らの分野だから任せておけばいいさ。何かあったら人数を教えてくれれば良いよ」
「分かった。なんかあったらジェスチャーをやる」
エルティアナを見送った後、両手で柄を握りしめてグラディウスを前に構える。
オレのゴブリンセンサーとエミリーのアンデッドセンサーを駆使して進まなければならない。
そう考えるとどうしても肩に力が入ってしまい何か構えたくなるのだ。
少なくともこの剣で肉体に何か直撃するのを軽減できると思い構えながら進んでいく。
潮風に乗って匂いが分散していき更に緊張してしまいトイレに行きたくなる。
-----
「こんな所で何をされていたのでしょうか?」
「大いなる魔の探求者の恥さらしめ。これは生贄を利用した復活の儀式よ。どうせ『ヴェールヴィエンヌの大虐殺』の再現でもする気だったんでしょうね」
「死の恐怖様、やはりこいつは、魔神将アイホートと繋がりがあったようです。残念ながら【人界方面師団長】との接点が見つけられませんでしたが」
「糞ったれのアイホートがまだ復活しようとした事実だけでも充分収穫よ。それにしても役立たずの【魔神方面師団長】め、『冷諦』の異名なんて嘘ばっかり!」
「一応、我らの主の上司と同格な連中なんですけど大丈夫なんですかね…」
「死の恐怖様!冒険者の一行がこちらに向かって来ています。いかがなさいますか?」
「ウルズ、ここは貴女に任せます。適当にあしらったら証拠を抹消して帰還しなさい。ただし不要な死者は出さない様に…次元 上級魔法 “上位転送移転”」
「…全く、死者使いが荒いんだから。どうせ隠滅するんだし有効に活用させてもらいますか。“創造…”」
-----
おかしい!全くゴブリンの気配がしない!
というか先客にやられたのか死体しかないぞ。
「これらは先行した『緋色の牙』の連中がやったんじゃないのか。あいつらで32体討伐したんだし可笑しくねえだろう」
「それにしては少し前に奇襲攻撃されたように死んでるのう。まるで立場が逆のようだ。」
「補助魔法の睡眠でも使ったのカ?それにしても妙だナ」
ん?なんでおかしいんだ?
漆黒の鎧武者が出てくるまで快進撃だったんじゃないのか?
「なんでおかしいんだ?その睡眠とやらを使って当初は快進撃したんじゃないのか?」
「ゴブタロウ、ここに来るまで最低でも3日掛かってるんだよ。それなのに死体が新鮮過ぎるでしょ。だから私達以外に先行した連中が居ても可笑しくないけど道中ではそんな様子では無かっただろう」
げっ、つまりどこから駆け付けた誰かがゴブリンを攻撃したのか。
でも道中ではゴブリンを14体討伐したので少なくともオレ達の居た場所では先客はいなかったようだ。
もしかしたら動く屍とゴブリンって敵同士である可能性があるかもしれない。
「ゴブタロウさん大変です!」
「どうしたのエミリー?」
「動く屍の反応が2人しかいません。さきほどまで4人だったのに消滅したかのようにたった1人しかいませんでした。なのに何故かまた1人増えました」
「意味が分からないよ…どういう事だ?」
「新手は弱いので誰かが動く屍を創造したんじゃないと思うんですけど…」
とにかく動きがあったみたいなのでジェスチャーでエルティアナに数を伝える。
彼女は驚いた様子でホイスラーとミシェル隊長を呼び寄せて何か相談を始めた。
そしてエミリーから更に話を訊こうとしたがやめた。
前方から漂って来る匂いが空気でかき回されて違和感を覚えたせいだ。
「なんだこれ?匂いが!」
「ああああ!!?すごい勢いで新手の動く屍がこっちに突っ込んできます!」
「前方からなんか来るぞ!!!みんな壁際に避けろ!!!!!」
怒鳴りこむように叫んだあと、慌てて岩肌の裂けている空間に隠れた。
みんなも退避行動を取った事を願っていたら20秒も経たないうちに何かが突っ込んできたのか地面に激突した衝撃で兜を岩肌に思いっきりぶつけるが倒れぬものかと踏ん張った。
振動が止んでこっそり頭をだして確認してみると、さきほどオレ達が居た場所に2階建ての住宅に匹敵するほどの大きな岩が鎮座していた。
更に見上げると岩に何か黒い物体がしがみ付いていた。
それは漆黒で塗り潰されたかのような甲冑であった。
「ぎゃあああ!岩になんか居るぞ!?」
「おい!!あれは首なし騎士じゃねーか!ふざんけんなああああ!!!」
首なし騎士
【Aクラス討伐対象】
同じAクラスの幽鬼が周りに死を撒き散らすならこいつは【死の宣告】をして魂を刈り取っていくとかいうヤバい奴。
てっとり早く言えば他人の死亡フラグを絶対に回収する死の騎士様!
もちろんBランクの豚巨人とは比べ物にならない。
って!冷静に前世の知識で解説してる場合じゃねええ逃げるんだよおおおお!!
でも逃げきれないからタイラーの後ろに隠れました。
「俺様の後ろに隠れんな!お前が盾になれ!!」
「いやだあああ!どうして大物に当たるんだよ!?何も悪いことしてないのに!」
「あんたたち遊んでる場合じゃないよ!さっさと距離を取りな!」
「「サンディ姐さん助けてくれ!!」」
思わずタイラーと発言が被ってしまい考えは案外同じかもしれないと思った。
「ゴブタロウさん伏せてください!」
「タイラー伏せろ!!!」
「うおっ!!」
首なし騎士が鞘に両手を伸ばそうとした瞬間エミリーの叫びに反応してタイラーに呼び掛けて伏せると真上で空気が流れが一瞬遮られて大きな衝撃を感じた気がした。
「大地を見守る土精爺ヨ土を汚す者に石の弾丸ヲ 塊土 初級魔法“石噴射”」
「ゴブタロウ、タイラー!今のうちに退け!!」
調合師ローウェルさんの声を聴いてタイラーと同時に立って逃げようとすると岩盤に大きな傷跡ができているのが確認できた。
マジか!飛ぶ斬撃だとかありかよ!!?
免許皆伝した抜刀術は目に見える速度じゃないという話だが、さすがにこれは酷い。
賢者と高位魔術師の援護魔法でなんとかピンチを切り抜けて前世も含めて人生で最も早く走ったかのようにみんなの場所に転がり込んだ。
「ローウェル、クロフォード!撃ちまくりな!足止めしたら全力で逃走するよ!!」
「無理だサンディ!やってるが奴の動きが早過ぎる」
「クロスボウの火力じゃ足止めにもなりませんよおおお!」
遠距離攻撃を行なっているが甲冑なのにまるで舞うように次々に岩盤に乗り移ってこっちに接近している。
宝石のような翼を広げて優雅に舞う黒蝶の優雅さを保ちつつ動きは洗練で隙が無くむしろ見惚れるほど美しさですらあった。
「我らを導きし火の神よ燭を覆う闇を必ず射止め祓い除けて我らを再びお導きくだされ 火炎 中級魔法“追跡する火炎の矢”!」
「補助 中級魔法 “魔法障壁”!」
ミシェル隊長の火炎魔法が首なし騎士に見事に着弾して隙ができたが何事も無かったように再び動き出して間合いでもないのに剣を振るのを見て、本能で避けると衝撃と共にさきほどオレが居た場所に大きな亀裂が走る。
「格上の剣士相手じゃ分が悪くて近寄れん!ホイスラー、なんか手がないのか!?」
「無理ダ!!“魔法障壁”は生半可な魔法攻撃を無効化にする高等魔法ダ!こっちの手数じゃ全く貫通しなイ」
「弾切れじゃ!魔導砲はもう使えんぞい!」
ああ!なんかこっちばっかり狙って来る。なんか恨みでもあんのか!?
「暗雲に囚われた我の肉体に刹那の助けを 電撃 中級魔法“雷系身体活性化”!」
電撃魔法で身体能力を底上げして回避するしかない。
と思ったら目の前に首なし騎士がいてオレを斬り掛かろうとしていた。
「ゴブタロウさん!!!」
エミリーの悲鳴が体内に響く。
すると、まるで時の流れが遅くなったような感じがした。
これから一閃されて身体が両断されると思うので願わくば即死にしてくださいと願った。
ところが何かが巻き付かれた感じがしたと思うと時の流れが加速したように全身に風が吹き付ける。
思わず瞼を瞑ってしまったがなんとかそれを開くと地面が真下に見えており首なし騎士はそこで見上げていた。
そう、オレは空中に投げ出されていた。
「ゴメン!久しぶりの鞭で慣らすのに遅れた!」
「ほぎゃあああああ!!」
良く見たらエルティアナがオレの胴体に鞭を巻き付けて空中に放り出したようだ。
でももはやどうでもよかった。
何故なら自然界の法則に基づいて只今、存在するべき地面に激突しようと落下しているのだから!
「ぎゃあああああ!!」
地面に激突する前に今度は別方向に力が掛かり鞭から勢いよく解放された。
落下速度の大半が殺されたとはいえまだ速度があり頭部が地面に激突しそうであったので一か八か、両手で握り締めたグラディウスを地面に向かって叩きつける。
手が衝撃で痺れて身体が回転したが電撃魔法のおかげで身体能力が上がっているのが幸いしてそこまで影響がなく着地とは言わないが衝撃を殺して地面を転がることができた。
「痛いいいいいいい!でも立たないと死ぬ…?」
痛みがあったが動かないと死ぬので我慢して立ち上がると華麗な剣技を見せる首なし騎士を鞭を振り回して受け流しているエルティアナの姿があった。
さすが聖印騎士団の精鋭部隊の隊長、ゴブリンのオレとは格が違った。
「頑張れエルでぃいいいいいいい!!」
やる事もないので応援しようとしたら、流れ弾ならぬ流れ斬撃で左腕を掠り岩盤に亀裂が入って衝撃で土砂崩れが発生した。
幸い直撃しなかったが腕当てが破損して破片が皮膚に突き刺さったのに恐怖を覚える。
何故か遠距離攻撃になっている『斬撃』の射程範囲から離れようと【頂上決戦】から背を向けて全速前進で敵前逃亡して適当な岩肌に身体の大半を隠して戦況を見守る。
他のメンバーも察したのかエルティアナに手を貸すどころか隠れている有様だ。
「これはひどい」
こうして客観的に戦闘を見ていると鞭が唸ったら一戸建ての建物くらいの岩が両断されて、剣が振るわれると60フィート(20.11m)くらいの先にある岩盤に飛ぶ斬撃が命中するのがよく分かる。
どう足掻いても乱入したら生存できる戦闘ではなかった。
よってオレ達は非道ではない!イイネ?
「火炎 中級魔法“広範囲・火炎爆弾”!」
「甘い!!聖印騎士団流剣技 肆式 “鎧破壊”!」
首なし騎士は、埒が明かないと踏んだのか火炎魔法を放つが鞭で弾かれてしまいそのまま受け止めようとした剣ごと鎧を両断されてしまった。
それと同時に火炎魔法が着弾して大爆発が起こり転がっていたゴブリンの死体を焼き尽くし爆風が迫ってきたので思わず腕で視界を覆う。
砂埃が晴れて視界が鮮明になるとそこには破壊されて動かなくなった鎧の残骸があった。
剣術なのに鞭とは、これ如何に?
まあ勝ったから細かい事はいいか。
「ふぅーやるじゃねーか!!」
「エルティアナが強くて助かりましたね」
「強い男好き。でも強い女も好き」
あーなんとかみんな生存できた。
これでミッションコンプリート、さあ、帰ってバイオレット嬢に褒めてもらわねば…。
「ゴブタロウさん、まだ凶悪な強さの方の動く屍がすぐ傍にいますけど…」
一瞬、エミリーが何を言ったか理解できなかった。
あれ?確か動く屍が2人居てようやく1人を討伐できた…。
あっ!あああああああ!!忘れてた!!
「まだこいつより強い動く屍が居るぞ!!警戒しろ!!」
「「「「「「えっ?」」」」」」
薄氷の勝利で疲労の色が見えながらも喜びを分かち合う『古代の鳥』の面々は固まりエルティアナは鞭を握りしめて警戒している。
「あらあらバレちゃいましたか。せっかく裏切り者だった奴を素材に創造して鎧さんに面倒事を押し付けようとしましたのにね…」
声が聴こえた方を見るとそこには拳ほどのカタツムリが居た。
まるで自然に溶け込んでおり声がなかったら気付かないほどカモフラージュされていた。
「“擬似変身能力”」
カタツムリが呪文のようなものを呟くと瞬く間に人の姿になってしまった。
全身は黒色に統一されておりローブを深く被った何者かがそこに居る。
顔は札と吊るされたかなりの量のコインに隠れて見えないが声からして物静かな女性のようだ。
羽織っている外套には簡易な肩章がありどこかの将校にも見える。
「見せしめに2、3人殺したら勝手に自滅してもらおうと思ったのにその様子だと私達の存在を知ってた様ね。さて、どうしたものか」
彼女は笑ったようだ。
それが微笑ましい事とは限らない。
1つ言える事があるとすれば首なし騎士戦は、ただのウォーミングアップに過ぎない事だけは確かであろう。




