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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第三章 駆り立てるのは憎しみと報復、横たわるのは狗と羊、嘲笑うのは狐と神
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37話 グリザイユ家の亡霊令嬢は睡眠をご所望です

ふふふ、宿屋にも満足に泊れずに、かといって馬小屋にも泊まれない生活。

それも終わりだ!

ようやく念願の一戸建てを手に入れたぞ!

と言ったら誰かが殺してでも奪い取りにきそうなので口を閉ざして幸せを噛み締める。


窓を見れば外は雪が降っており風でも吹いてるのかガタガタと音立てている。

熱が逃げそうなのでカーテンを閉めたいが暖炉の傍から離れたくないし何より目の前に熱々の肉料理が置いてあるので先に食べるのが先決である。

料理の皿の下には毛布がかけた机があり熱を逃さない様に全体を覆っている。

その隣には枕と掛け布団が置いてありその上には春画とエッチな本がある。

そしてそれらを照らすように角灯(ランタン)が明かりで独特な空間を醸し出している。


エルティアナが見たらもう少し綺麗にしたらどうだと言われそうだが自分の家なので多少、汚部屋でも構わないだろう。

寒くて白い狼の毛皮を羽織りながらそんな事を考えてしまった。

それよりお腹が空いたのでさっさと肉を味わおうとフォークとナイフを手に持っていざ食べようとなにやら叩く音がする。

人がいや、ゴブリンがせっかく肉料理を味わおうとしたのにと音がした方を睨めつける。

そこには、緑のフードを被った何者かが中に入れてくれと言わんばかりに何度も窓を叩いておりあまりにも強く叩いているので衝撃で割れないか心配になるくらいだった。

良く見るとどっかで見た顔のようだがこんな深夜の吹雪の中で一軒家にやってくる奴はろくでもなさそうなので無視をして料理に向き合うことにする。


料理が冷めそうなので慌ててフォークを肉を抑えてナイフで切ると肉汁が溢れてきて美味しそうだったのですぐに抑えていたフォークで突き刺して口元に持っていく。

まずは香りよりも食感と味が優先して口を大きく開けて…。


「いただきます!」

「“流出接触アブフォルスコンタクト”!」

「ぎゃああああああああああ!!!」


何か大切な物を奪われた感触がして慌てて瞼を開く。

そして何事かと辺りを見渡すとエミリー嬢が口を尖らせて不機嫌そうにこっちを見ていた。

他にこれといった該当しそうな物は見つけられなかったので彼女が元凶だろう。

目をこすりながら何があったか訊かなければならない。


「なんかあったのか?」

「眠れないんです!」


当然だよな!?

彼女は亡霊(ゴースト)である。よって眠れるわけがない。

アホらしい寝るか。

真剣な顔立ちで常識な事を告白してきた彼女を尻目に毛布に包まって寝ようとすると妨害するように視界に現れて腕をブンブンと振っている。


「何、1人だけで眠ろうとしているんですか!?」

亡霊(ゴースト)が眠れるわけないだろう!いい加減にしろ!」

「そんなひどい!私だって好きに不眠になったわけじゃないんです!」


ほっぺを膨らませて抗議する彼女を見て、こいつ、いつも頬を膨らませているな…と思う。

とにかく彼女を説得させない限りまた起こされるのでなんとかしなければならない。


「どうやったら眠れるようになるか一緒に考えてくれませんか?」

「成仏するといいよ」

「永遠に眠る方じゃないです!ゴブタロウさんがさっきまでやってた方です!」


そんなの分かってるよ。

でも睡眠は生物じゃないとできない。ましてや肉体がないエミリー嬢はできるはずもない。


「そういえばどうやってオレを起こしたんだ?霊体だから干渉できないはずだろう?」

「ふふふ、文献を読んで数少ない人体の干渉方法を会得しました」

「ん?そんなものがあるのか?」

「ゴブタロウさん?流出接触(ドレインタッチ)ってご存じですか?対象の生命力みたいな物を奪うものなんですけどさきほどの様子を見るとうまくいったみたいですね」

「ぎゃあああ!!さっきのは生命力を奪われたのか!?なにしてくれるんだ!?」

「大丈夫です。起きた瞬間、全て返しましたから…多分」


こっちから顔を背けて呟くように話す姿を見ると安心できんわ!

長生きするのが目標だったのにこいつと一緒に居ると生命力を吸い取られそうだ。

やっぱ悪霊じゃないか!さっさとこの呪縛霊をなんとかしないとオレの未来がない!

とりあえずエルティアナを探して相談しないと…。


「そういえばエルティアナはどこに居るんだ?」

「そこの木の陰でなにやら瞑想してますよ。人物名をずーっと呟いていたので声を掛けられなくてゴブタロウさんを起こそうと思ったんです」

「ああ、なんか…そのやっぱ今でもやってるのか…」

「エルティアナお姉さまの率いた部隊は全滅したと聴いてますのでやっぱりそれがトラウマになっているようですね」


あの複数属性の魔法を使いこなして剣術も狙撃も学力も知識も経験もオレを遥かに上回る彼女があそこまでこっ酷くやられるとは…この世界は本当に怖いと改めて実感する。

そういえば、こいつも生前ではかなり重そうな感じがしたが亡霊(ゴースト)になってからは感情豊かで分かり易いのでそこまで得体が知れない感じはしない。


例えるなら15年の経験と知識をもった3歳児の女の子を相手にしている感覚というべきか。

まるで転生者かと突っ込みたくなるが周りを意識して幼い時から演技を重ねて自分を誤魔化してきた彼女は精神がほとんど成長しておらず本質は傲慢ちきで甘えん坊の3歳児というエルティアナがこっそり教えてくれたがこの様子だとその通りである。

少なくとも迷惑になると分かった上でオレを起こしてくるところをみると…。

3歳児が眠れなくて起こしに来たと考えると仕方がない気もするがなんか納得できん。


「ゴブタロウさん!なにか良い案が浮かびましたか?」

「いや、全然浮かばない。大人しく成仏して来世で寝れるようにしてくれ。おやすみ」

「ああ!ずるい!…こうなったら!」


またドレインタッチしてきたらエルティアナに泣きつくことにしよう。

一応、無理やりこいつを成仏させるのを止めたのはオレだがいちいち相手にしていたらキリが無いし生命力を吸い尽くされてミイラになる姿を思い浮かべてしまいどんどんエミリー嬢の好感度が下がっていく一方だ。


「“身体憑依(ベゼッセンハイト)”!」

「ん?」


聞きなれない単語が聴こえて頭にはてなマークを浮かべていると次の瞬間、なんとエミリー嬢がオレの体内に侵入してきて憑依されてしまった。


「ふふふ、どうですか!これは図書館で学んだ憑依術ですよ!これでゴブタロウさんは寝かせ…ああ!暴れないでください!あっ止まってください!あああああ!」

「「痛い!!」」


痛いいいいいい!

なんか体内から声が身体の中で反響している違和感があって気持ちが悪い。

とにかく憑依状態を解除しようと暴れていたら木の幹に思いっきり頭をぶつけて激痛が体内を迸って思わずうずくまってしまった。

こうなったのもエミリーって奴の仕業なんだ!


「痛いいいい!けど四肢を捥がれたり傷口を焼かれた時よりはまだ…痛みがひくならなんともないです」

「あれと比較するなよ!全くあの時は悲劇のヒロインだったのに今じゃオレの安眠を妨害する悪霊じゃないか!」

「酷い!私だってもっと生きたかった!死にたくなかった!もっとエルティアナお姉さまにセクハラしたかった」

「最後おかしくない?」

「いえ、全然。おかしいと思うのはゴブタロウさんの心が穢れているのです」


最後の一言でエルティアナの苦労が思い浮かぶ。

こいつと少しでも会話していると疲れるのにずっと話を付き合って信頼を得て友人関係を築いた彼女は尊敬する。

しかしなんか違和感がある。なんだろう。


「ゴブタロウさん!寝かせませんよ!ほら私が左腕を挙げればゴブタロウさんの左腕が上がります!どうですか!?ゴブタロウさんの肉体は私が乗っ取ったと言っても過言ではありません」

「だがオレは断固して抵抗して寝る」

「むむむ!じゃあ私も抵抗します」

「エルティアナがこの惨状を見たらどう思うかな?」

「あ!卑怯です!!お姉さまを巻き込まないでください!」

「オレを巻き込んでいるのはどこのどいつかな?」


と無駄な攻防を繰り広げているがさっさと寝たいのが現状だ。

それにしても頭が痛い。

ゴブリンの肉体は貧弱だから下手すれば骨折しているかもしれない。


「ううう、まだ痛みが引きませんね」

「思ったんだけど痛覚はあるんだな?」

「だって肉体に憑依してるんですもの。痛覚も引き継いでますよ」

「じゃあ、この状態で寝たらエミリーも眠れるんじゃないか?」

「えっ」


実際どうなのかは知らんが深く考えても頭が更に痛くなるので寝る事にする。

毛布に包まって枕に頭を乗っけておやすみ。



ふと見渡すと室内に居た。

目の前には角灯(ランタン)の明かりで照らされた肉料理があり夢の中に戻ってきたことを実感する。

だがこの肉料理は現実じゃないのでおいしく頂けないのが残念だ。

そう思っていると何者かがさきほど切った肉をフォークに突き刺して頬張っている。

それはさきほど窓を叩いていた緑色のローブを被っている人物。

いや、エミリーがオレの肉料理を味わうかのように咀嚼している。


「なんで居るんだ?」

「ゴブタロウさんの夢の中に入ってるんです。だって一緒に寝たんですから。それにしても味がしませんね。やはり夢の産物なのですか残念です」

「いやいやなんでオレの肉料理を食べているんだ!」

「だって美味しそうでしたし味覚があるか確かめたかったので」


やっぱオレの直感は正しかったようだ。

さっさとオレの家から追い出したい!


「あっ?何ですかこの本!?」

「おいやめろ!」

「きゃああ!破廉恥です!エルティアナお姉さまが居るんですからこの本はボッシュートです!」


エミリーが勝手に人のエッチな本を読んで顔を真っ赤にして…ポイっと暖炉の方に放り投げる。

華麗なフォームを描いたエッチな本は暖炉の薪の代わりに燃えてしまった。

オレの本が…どんな美女や美少女が居るかまだ見て無いのに…。

エルティアナだったら絶対にあえてスルーする大人の対応をしたというのに!


この後もエミリーは白い狼の毛皮を被ったり、温まろうと暖炉に近づいて毛皮が燃えて悲鳴をあげて転がり回って火事になったり散々な目にあった。

室内に都合よく水が溜まった浴槽があったり桶がおいてあるのをみると本当にオレが生み出した夢のようだ。

室内はびしょびしょでエミリーのローブは焦げて所々破れている。

まるでどこかのギャグシーンの様にボロボロになった彼女を見てしまい、ぷぎゃーと馬鹿にすると夢なのに毛皮に引火するのが悪いと開き直って人の肉料理を全部食べてしまった。

どうやって追い出そうか考えていると彼女は自動修復された毛皮を被って落ちていた枕を片手に窓の景色を眺めて動かなくなってしまった。


あの雪景色は、もしかしたらエミリーの世界かもしれない。

この家は、オレの肉体で3大欲求があって暖炉は命で侵入者である亡霊(ゴースト)を排除しようと体内が防衛を行なったと考えると合点がいく。

そして『肉体』という家を失えばあの雪景色で永遠に彷徨うことになる。

そう考えると彼女は…。


なんか気が重くなってきたので近くに落ちていた本を手に取ってページを捲ってみると図書館でメモをした電撃魔法の紋章があった。

こうしてみると身体が覚えているんだなーと自分の頭脳の片隅にあるはずのこの紋章をどうにか現実世界にももってこれるように何度も眺めたりページを捲っていく。

その内、夢中になってしまいエミリーの事なんて存在ごと忘れてしまうほど紋章を覚えようと必死で視線で本が破れるほどに眺めていた。


「“流出接触アブフォルスコンタクト”!」

「ぎゃああああああああああ!!!」


また大切な何かが奪われた感覚がして慌てて瞼を開ける。


「おはようゴブタロウ」

「おはようエルティアナ」


瞼を開けると呆れた様子のエルティアナが料理を片手に挨拶をしてくれた。

料理は夢と同じように肉料理というはずもなく野菜が多めのソテーであった。


「何度も起こしたけど中々起きなくて途方に暮れていたらエミリーが私に良い手があるって聞いて任せてみたけど効果は抜群だったよ」

「そりゃあ生命力を奪っていくからな」

「ゴブタロウは中々起きなくて苦労するからこれからはエミリーに任せることにするよ」


とんでもない一言で完全に目が覚めてしまった。

当の元凶は褒められて嬉しそうだ。

今日からオレは早起きしないとエミリーに起こされると知って憂鬱になった。

すぐにこの出来事を恨み節に日記へ記したのは言うまでもないだろう。



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