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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第二章 死神に魅入られた少女と亡霊に見初められるゴブリン
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30話 死神に魅入られた少女

王国兵達が乱入して戦況が少し好転した。

少しなのは、敵が得体が知れずに切り札を隠し持っている可能性があるからだ。

それよりさっきからめまいがする。

先ほどの戦いで血を流し過ぎたようだ。

どこから休まないと…


分裂指令(スプリットオーダー)!下等生物共如き我が手を下す必要すらない!」


ムカデ人間だった青白い肉塊が2つにまた2つにと分裂していく。

付近にあった死体を全て取り込んだせいか分裂してもかなり大きい肉塊である。

それが8体、分裂を終えた化け物が参戦してきた王国兵達を襲う。


「塊土 中級魔法“落とし穴(ピットフォール)”」


エルティアナがすかさずに地面に手をかざして魔法を唱える。

突然、化け物達が分裂した地点で大規模な陥没が起こり奴らは奈落の底へと転がり落ちていく。

だがそれでも範囲外に逃れた2体の化け物が顕在でありその内の1体が付近居た王国兵に触れる。

腕を掴むと青白い肉塊が包み込むように覆っていき絶叫した王国兵を一瞬で取り込んでしまった。


「クソ!前衛は後退せよ!アレに触れたら終わりだ!」

「ドニ!ローラン!ダニエル!援護するから下がれ!」


慌てた王国兵達がその化け物達と距離を取ろうとする。

それを見たエルティアナがオレを乱暴に抱え込んで後退する。

その慌てぶりが彼女らしくなかったが理由はすぐに分かった。


地面が再び揺れて地盤を割り赤く発光する物体が兵士達の足場から噴き出す。

溢れた熱風が遠くに離れたはずのオレ達に吹きかけてくる。

そう、その噴き出した物体の正体は、溶岩である。

それをもろに浴びた兵士達はなすすべなく焼かれた。

もしエルティアナが逃げ出さなければ熱風で焼かれたと思うほど一瞬の出来事である。

そしてその溶岩を泳ぐように奈落に消えていったはずの化け物達が居る。


「はははは!愉快だ!やっぱ下等生物は地べたに這いつくばる姿がお似合いだ!」

「いやー存在自体くだらないから溶けた方がまだマシかもな!はははっは!」


アイホートと自称した化け物の笑い声が聞こえてくるがどうでもいい。

痛みで思考能力が落ちて視界が揺らいでいる。

過呼吸になって息苦しくてしょうがない。

油断した時に喰らった一撃が思いのほか痛恨のようだった。

痛い!痛い!痛いあああああああ!!!


「あはははははは!」

「なんだ何が可笑しい?」


オレを物陰に優しく置いたエルティアナが距離と取ってから笑い始めた。

それは爆笑に近く兵士はおろか化け物ですら戸惑っているようだ。


「だってさ!下等生物と見下しながら下等生物の肉体が必要って可笑しくない?まるで自分は下等生物が居ないと復活できませんって白状しているみたいじゃないか!」

「ふん、先代大魔王さえ居なかったらこんな辺境で屈辱的な事なんてしねぇえわ!!」

「て事は先代大魔王とやらに負けてノコノコ逃げ出してここでコソコソとやってたんだね。わー憧れちゃうなーぶるぶる震えて弱者にしか威張り散らせない上等生物様なんてさ!!」

「貴様!!攻撃指令(アタックオーダー)!この女を殺せ!!」


どうやら彼女はわざとヘイトを集めて味方の被害を抑えようとしているようだ。

動く屍達や青白い化け物達が彼女を包囲した。


「あれ?自分で手を下さない割りにはムキになり過ぎじゃないか?」

「その無駄口、すぐに黙らせてやろう!」


状況は、エルティアナを中心に化け物達が包囲してその外回りを王国兵達が包囲してる形となっておりある意味包囲されながらも包囲できたといえる。

問題なのは化け物達は死体さえあれば復活できるがオレ達は生身で圧倒的に不利であり出来の悪いゾンビパニック小説の様に時間が経つほど生存者が減り動く屍が対照的に増えていく事か。

よって兵士達によって包囲できているようで実際は距離をとっているというのが現状だ。

つまりエルティアナは文字通り孤軍奮闘しなければならない。

左手で必死に傷口を抑えながら右手で頭を支えながら見守る。


「「「「アアアアアアア!」」」」

「氷結 中級魔法“氷結爆弾(フリーズボム)”」

「なに!?」


化け物達が一斉に彼女に襲い掛かった瞬間、文字通り凍り付いた。

彼女を爆心地として生物の肉体を氷結する爆弾が破裂したのだ。

さすがに自爆するような行動が読めなかったのかアイホールは驚愕しているようだ。

一方、当の本人は何食わぬ顔をして凍り付いた化け物達の合間を縫っていとも簡単に包囲網から脱出する。


「馬鹿だね。こうやって密集したら一網打尽にされるに決まってるじゃないか」

「はははは!その程度で倒せたと思ったか?」


そう、ムカデ人間の時やさきほど地面を溶かして出現したように奴らは自分の意思で高温になり氷を解かすことができる。

現に青白い大きな肉塊が光っており微動だしている。


「暴風 中級魔法“台風(タイフーン)”!」


一方、彼女は煽りを気にせず身動きできない奴らに向かって風魔法を放つ。

放たれた魔法は、強風となり屍達を巻き上げる。

そしてそのまま魔法陣が展開している中央広場の外へと吹っ飛ばしてしまった。


それを呆然と見る兵士とオレ。

ついでにその兵士はこっちを見ると驚いた顔をする。

ああ、そういえば鉄仮面付けてなかったな。

でも、この際どうでも良いんだ。

意識が朦朧としてやばいんだ。

誰かに頼りたいがゴブリンの肉体だから素直に助けを求める事が出来なかった。


「貴様ッ!やりやがったな!!」

「一か八かの賭けだったんだけどその様子だとうまくいったようだね」


吹っ飛ばされただけなのに激高しているアイホートと笑うエルティアナ。

何が起こったかさっぱり分からん。


「馬鹿だね!この広場に展開している魔法陣は街を包み込む魔法陣の効果を打ち消すって言ってたからそこに飛ばしてみただけだよ」

「チッ!下等生物が!」

「私もさっきまでそうだったけど、まさか復活する肉体すら生贄になるとは想定してなかったみたいだね」

「ふん、肉体などあとで構築すればいい!貴様らを皆殺しにした後じっくりその肉体を使って構築させてもらうわ!!」


残った屍達が兵士達に襲い掛かるがあまりにも数が少なく壁際に追い詰められて火炎魔法で身体を焼かれたり魔法陣の外へと追いやられて動かなくなっていく。

うまく行き過ぎて不気味に思えるほどに。


「少佐殿!?うっ!?ぎゃあああああああ!」

「ぐわっ!」

「ああああああああ!」


兵士達の悲鳴が聞こえてきたのでそちらを見てみる。

明らかに動きと装備が違う兵士が王国兵達を蹂躙していた。

あれはピエール少佐だ。

エミリー嬢を迎えに来た護衛集団の指揮官であり山道に落ちていたバッジの持ち主。

さすがに精鋭部隊の指揮官クラスだと生半可な兵士では歯が立たないようだ。


「シャルル中佐殿!お下がりください!」

「良いんだ。やらせてくれ」

「…ですが!」

「あいつは私の戦友(ライバル)だったんだ。頼む!やらせてくれ!」

「…ご武運を」


腰を抜かしている兵士を斬り付けようとした少佐によって握られた片手剣の刃がシャルル中佐によって止められる。

兵士は慌てて逃げ出したがピエール少佐は後を追わずに目の前に現れた獲物を狩ろうと見るからに極めきった剣術で攻撃するが全て中佐によって弾かれる。


「人として終わっても身体はまだ終わっていないようだなピエール?」

「コロス。全テヲ皆殺シニスル」

「そうか、残念だ。こんな形で決着をつけることになるとはな!!」


押し切った中佐が打って出て切り込むが敵は華麗なステップと剣術で回避していく。

剣術をかじった程度しかやってないが高度な剣術なのはすぐに分かる。

双方とも無駄な動きが無く隙を見せたらいつでも首を刎ねられるくらいの技量がある。

よってわざと隙を作り懐に入った獲物にカウンター攻撃したりと多彩な剣術が見れて参考になるはずだったが痛みに気を取られてその姿をしっかり見れなかった。


「オオオオオオオ!」


斬り合いで勝負が着かなかったのに業を煮やしたのか。

ピエール少佐は距離を取ってなにやらオーラを漂わせ始めた。

それを見たシャルル中佐も同様に距離を取ってオーラを漂わせ始めた。

その異質な雰囲気に固唾を呑んで動向を見守っていた兵士達は圧倒されているようだ。


「誕生シタ風ヲ見守リソノ末路ヲ見届ケル風精乙女(シルフィード)ヨ。我ハ汝ト契約セシ者。風ヲ遮リ大地ヲ腐ラセ花ヲ散ラセタ者ニ天空ヲ駆ケ巡ル暴風ガ刃トナリ乱シ狂ワシ捕ラエテ切リ裂ケ 暴風 中級魔法“切り裂き竜巻(リーパートルネード)”!」


「誕生した風を見守りその末路を見届ける風精乙女(シルフィード)よ。我は汝と契約せし者。風を遮り大地を腐らせ花を散らせた者に天空を駆け巡る暴風が刃となり乱し狂わし捕らえて切り裂け 暴風 中級魔法“切り裂き竜巻(リーパートルネード)”!」



しばしの間、オーラを漂わせてから呪文を唱えた彼らは、ほぼ同時に風魔法を放った。

その威力は互角のようで見えない風の渦が石床を巻き上げて切り裂きながら衝突して双方とも飲み込むように混ざり合っており拮抗しているのが分かる。


切り裂き竜巻(リーパートルネード)”。


それは刃を弾く羽と脚をもつ【Cランク討伐対象】である血塗られた(ブロッドスミアード)大鷲(ホーク)を無残に切り裂いたり屋敷にあった豪華で丈夫な門をいとも容易く切り裂いてしまう風魔法だ。

その効果範囲と詠唱する呪文の長さと発動時間の遅さから中級クラスの暴風魔法の中でも高等魔法のようだが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんか驚きが薄れているのは気のせいだろうか。


そんな思考をしているオレを構わずに石床を巻き上げている竜巻を観察している様子であったピエール少佐は、そこに近づいてまたオーラを漂わせ始めた。


「誕生シタ風ヲ見守リソノ末路ヲ見届ケル風精乙女(シルフィード)ヨ。我ハ汝ト契約セシ者。風ヲ…」


死角から呪文を詠唱して風の渦が消えた瞬間に魔法を放とうとする魂胆らしい。

風の渦の勢いが収まり破片が辺りに散らばって視界が晴れ始める。


「暴風ガ刃トナリ乱シ狂ワシ捕ラエテ切リシャアッガッ!!」


そう思った瞬間、石を巻き上げて内部が見えない風の渦から何かが飛び出して隙があった少佐を文字通り両断した。

哀れな屍の断面から青い赤ん坊が出てきたが風の渦に巻き込まれて消えていった。


「やっぱり詰めが甘いなピエール、本当にここは昔と変わらんな」


切り裂き竜巻(リーパートルネード)”から飛び出してきたのはシャルル中佐だった。

士官用の胸当てがボロボロになっており身体中が傷だらけみたいだが軽症のようだ。


「さようなら戦友(ライバル)よ。こんな形で決着がついたのは残念だ」


顔が見えないせいで彼がどのような表情をしているか分からない。

だけどその表情は自然と脳裏に鮮明で浮かんできた。


その間に動く屍達は掃討されたようで兵士達は交戦せずに待機している。

そして視線は自然と喚き散らしているアイホートの声がする方へ向けられる。

どこにだって?無論エミリー伯爵令嬢の方だ。

痛くて苦しいがオレは付近に落ちていた鉄仮面を拾って彼女の方にゆっくりと歩んでいく。


「か 下等生物如きに!!外出用の入れ物も肉体もしもべもやられるなんて!!」


四肢を捥がれたエミリー嬢の方から声がする。

もちろんエミリー嬢が操られたり肉の着ぐるみにされて身体を利用されているわけじゃない。

ドレスが破られて彼女の脇腹がよく見えた。

そこにたくさんの目玉と1つの口が付いた青白い物体が彼女の脇腹に付着している。

『肉体』と呼ばれる物を失った今、おそらくあれがアイホートの本体なのだろう。

人間や亜人種、魔族ですら見下していた上等生物の哀れな姿がそこにあった。


「おのれおのれ!!」


付近に居た兵士達も迂闊に手を出せないのか武器を構えながらも進めないでいる。

騒いでいたアイホートもそれに気付いたのか。

徐々に落ち着きを取り戻して見下した目でこちらを見てくる。


「いいか下等生物共!よく聞け!我はお前たちが慕っているエミリー伯爵令嬢の内臓を取り込んでいる。もし我に攻撃すれば彼女の命はないと思え!!」

「卑怯な」

「くそが」

「おお!いいぞ!素晴らしい!やっぱりこうでなくては!ははははっは!」


奴が腹を這うように動くとエミリー嬢が痛みで苦しんでいる様子に兵士達は唇を噛み締めて傍観することしかできないようである。

まさしく寄生虫のように宿主を食い荒らして自分の身を守る姿に腹が立つ!

エルティアナの言う通り、下等生物と見下しながらもそれらが居ないと活動できない哀れな化け物に殺された人たちや無理やり連れてこられた挙句、使い捨てにされた魔物達を思うと!


そしてなによりこの()()()()()()()()()()()の平穏を壊したあいつに!


「よーしお前ら動くなよ!動くとエミリー殺しちゃうぞ!さて、我に屈辱を与えたごみ共にどんな裁きを下してやろうかな?我は死神のように貴様らを魂を刈り取り糧にしようぞ!いや魂は要らないかははははっは!!」


アイホートは笑っている。

一方、寄生されたエミリー嬢は顔をしかめながらなにやら呟いている。

声は聞こえずにアイホートに気付かれていない所を見ると口パクしているようだ。

読唇術なんて会得してないから全く何を発言しているのか分からなかった。

あれ?なんか忘れている気がする。


「よーし決めたぞ!街を愛している貴様らは文字通りこの街の礎にしてやる!塊土魔法でぺっちゃんこにしてやろう!おーっと!動くなよ!エミリーがどうなっても知らんぞ!」

「「「エミリー様…」」」

「はっはははっはは!塊土 中級魔法“地盤(グラウンド)”…」


しかしアイホートは呪文を最後まで唱えて魔法を発動させる事ができなかった。

奴の目玉だらけの青白い肉体に勢いよく矢が刺さったのだ。


「ああああ!!!誰だぁああああ!!!」


矢が飛んできた方に向くとクロスボウを構えたエルティアナが居た。

その表情はいつもの彼女と違ってとっても悲しそうな顔をしている。


「正気か貴様!エミリーごと撃つとは!?」

「彼女が『そうしろ』と呟いたからやっただけだよ」

「なんだと!?この雌豚が!散々自分の計画を邪魔した挙句最後の最後までこんなガッ!」


もう1本の矢が刺さった。

それが致命傷だったのか奴は激しく痙攣し始めた。


「この肉体はダメだあああ!ああ!生きている肉体を!肉体をよこせえええ!」


エミリー嬢の身体から勢いよく飛び出したアイホートはこちらに向かって来る。

そして奴はオレに向かって飛び掛かった!


「ゴブタロウ!!!」


エルティアナの悲鳴を尻目に奴の接触攻撃を無意識で鉄仮面でガードした。

勢いよくぶつかったそいつは無機物に阻まれて痙攣している。

今思えば、こいつのしもべは、肉体には寄生していたが無機物を貫通した様子がなかったのを知っていたおかげかもしれない。

そのまま鉄仮面を勢いよく投げ捨てた。


「あああ!おのれ!おのれ!ゴブリン如きが!!!絶対に許さんぞ!絶対に」

「火炎 中級魔法“火の大矢(ファイアボルト)”」

「あっがががっががあああああ!!」


女性の声と共にどこからか飛んできた大きな火の矢が鉄仮面にへばり付いたアイホートに突き刺さり全身が激しく燃え上がる。

豚巨人(オーク)に焼かれた兵士と同じように悲鳴をあげながら火を消そうと転げ回っているが却ってダメージを増やしただけに終わったようで動かなくなった。


「おのれ…エミリー。世話してやった恩を仇に返しやがって…」

「ふふふ…私は…そういうー冗談はー嫌い…です」

「またしてもー女に…」


エミリー嬢が放った火炎魔法がアイホートの本体を焼いたようだ。

アイホートの身体はよく燃えたせいかボロボロの炭のように真っ黒になっている。


「ククク!勝ったと思うなよ…。我は死なないー仮初の肉体が滅びてもいずれまた再生して同じことを繰り返すだけだーせいぜい一時の安らぎをー噛み締めながら下等生物同士でー無様にー殺し合え…ぐふっ」


力尽きたアイホートの身体は風に煽られて飛散して大気へと消えていった。

それを見届けたオレは勢いよく倒れ込んだ。



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