29話 不意打ちはご計画的に
エルティアナはニコルという大虐殺の元凶を相手にしていた。
よってその先兵と交戦するのはオレしか居なかった。
「暗雲に囚われた我の肉体に刹那の助けを 電撃 中級魔法“雷系身体活性化”!」
どんな攻撃をしてくるか分からない以上、接近戦を挑むのは無謀である。
触れた瞬間に青い赤ん坊達がオレの身体に寄生してくるかもしれないのだ。
よって一撃離脱の戦法でやるしかなかった。
打って出たのは、受け身でいると退路が断たれる可能性があったせいだ。
「死ネ下等生物!」
「大人しく死ねるか!」
槍を構えた王国兵型屍の攻撃を回避して無防備な脚に斬り付ける。
勢いよく敵は倒れ込んでいったが確認してる暇はない。
斧や片手剣や両手剣を持った顔馴染みの脚を斬り付けていく。
残念ながら倒せる技量がないので脚を狙って動けなくさせるのが精一杯であった。
強化魔法で身体が悲鳴をあげているが常時強化してないと回避できないのだ。
それだけゴブリンという肉体は貧弱で肉弾戦で不利だった。
ならば遠距離攻撃をすればいい話だが残念ながら手段がないのでしょうがない。
「ああ数が多すぎる!」
5人ほど切り伏せても次々に湧いてくる屍達。
脚を切断して立てなくなった屍達も這い蹲って迫ってくる。
退路なんてなく突っ込むしかない状態でどんどん追い詰められていった。
「氷結 初級魔法“地面凍結”!」
エルティアナの援護によって足場が凍結して屍達は動けなくなった。
彼らは例外なく出血しており足場が凍り付く際に脚も凍結した様である。
これは幸いと石像が置いてある場所まで後退する。
一方、エルティアナは、大虐殺の主犯と万国魔法びっくりショーを繰り広げていたがさすがに連戦続きで疲労が蓄積されているようで不利のようだった。
このまま継戦すれば彼女が押し負ける未来しか見えなかったがどうしようもなかった。
ゴブリン1匹が参戦したところで状況は好転するはずもなかった。
唇を噛み締めて見覚えがある石像まで後退すると四肢がない人物がいた。
「その香水の香り…まさかエミリー嬢?」
メスの匂いと金髪に青い目、そして嗅いだことある香水から四肢がない少女がエミリー伯爵令嬢だとすぐに分かった。
慌てて手を差し伸べようとしたが違和感があって歩みを止めた。
差し出した手を見てエミリー嬢は泣きながら顔を振ったからだ。
よく考えればどう見ても罠であった。
あの下等生物と蔑むあいつがこんな手薄にするはずがなかった。
そう考えてしまうと足が竦んで動けなくなる自分に反吐が出る。
「聖印騎士団流剣技 陸式 “鎌鼬”!」
「ぐおおおおおお!馬鹿な!馬鹿なあああああああっ!!」
何か凄まじい悲鳴が聞こえてきて慌てて声が聴こえてきた方を見る。
そこには縦方向に両断されたかの如く頭から胴体の半身がズレ落ちるニコルと遠くで息が上がっているエルティアナが居た。
その付近には岩や氷の山が大量に転がっておりそれを照らすように瓦礫が燃え上がっており曇り空から顔を出してる夕日が辺りを赤く照らしていた。
屍達の物音が感じられず慌てて見渡すと元の死体が戻ったように動かなくなっており戦闘が終了したことを暗に告げていた。
「おい大丈夫か!?」
「ハァハァ…ああっ!」
死体に近づかない様に遠回りで彼女に近づく。
よく見ると完全に荒い呼吸をしており顔は脂汗が浮かび真っ青であった。
「どうなったんだ?」
「わか…らない、ただ死体の活動が停止したから何かしら有効打だったらしい」
短剣を握り締めながら手の甲で額の汗を拭いながら彼女は答えてくれた。
間違っても『やったのか?』なんて尋ねたら敵が復活しそうなのでどう質問して良いか困ったが語彙力がないのでこんな問いになってしまった。
「少し休憩した方が良いんじゃないか?」
「そう…もいかない。ここは危険だ、早く逃げないと…」
「あの石像の所にエミリー嬢が居るんだがどうすれば良い?」
「とりあえず様子を…見に行くぞ」
エルティアナは弱弱しく立ち上がってエミリー嬢の方に向かっていった。
彼女があれほど弱り切った姿を見せることなんてなかったので内心驚いたがそれほどの激戦だったと思うと仕方ない気がした。
そう感じていたら思ったより早足で離されたので慌てて彼女の背を追う。
「エミリー…なんて姿に」
「手足は元に戻せるのか?」
「無理だ。少なくとも上級クラスの治癒系神聖魔法じゃないとどうしようもない」
「手足がないからだろ?そうだと言ってくれ!」
「いや、わざわざ傷口を焼かれてるのを見る限り…ね」
悔しそうな顔をしているエルティアナ。
内心ではかなり後悔している様子でなんとも言えなかった。
「ああ、そうか」
何か罠がないか確認する為にエミリー嬢を観察してみる。
肘と膝から先を失っており傷口は止血の為か焼かれた痕跡があった。
そして胸はなかった。
まるで抉られて焼かれた痕跡がある。
不謹慎だが胸凹女子と例えてしまう。
「エミリー話せるか?何が起こったか話してほしいんだけど…」
「~~~!」
何故かエミリー嬢は口を頑なに開かなかった。
ただ涙目で何かを伝えたいことは分かる。
「どうする?はやく安全な場所に運びたいが何か罠っぽくて動かせないんだが…」
「でもこのまま放置するわけにもいかないよ…良しここは私が」
「塊土 初級魔法“岩石噴射”」
一瞬視界が暗転した。
あれ?なんか視界が回転してる。
グルグルと夕日に照らされて赤くなっている雲が回転している。
どうやら身体が空中に投げ出されているようだ。
なんで飛んでるんだ?
「ゴブタロウ!?」
あっ!エルティアナが見える。
なんて顔をしてるんだ。
全てがスローモーションのように動きがとろい。
何かが遠くでぶつかった音がする。
ああ、なんか心地良い。
目の前に地面が見える。
ああああああ!
「あぐっううう!!」
全身が地面に叩きつけられた。
その衝撃で鉄仮面が吹っ飛んだ気がしたがそれよりも!
痛い痛い痛い!!!!
痛い痛い痛い痛い!!!
息ができない!!あああおえっ!!
「ああああああああああっ!!」
「ははっははっは!下等生物が苦痛で歪む姿はいつ見ても滑稽だ」
あああああ畜生…あいつだ。
一体どうやって。
ああああああああ。
エミリー嬢のーお腹辺りから何かが見える。
痛い痛い痛い!!
たくさーんの目玉がー付いている禍々しーい青白い物体がーそこにあーった。
そうか本ー体はエミリー嬢にー寄生していたのーか。
痛い痛い痛い!!!
「ははっははは良い目だ!今度はこっちは不意打ちしてやったぞ!!」
「貴様ーッ!!」
「このアイホート様が直々に手を下してやる。感謝したまえ下等生物共!!」
その瞬間、眩い赤い光を放つ複雑な紋章を描いている魔法陣が出現した。
中央広場を包み込むように展開しているようだった。
それきっかけに屍達は再び立ち上がって動けないムカデ人間の方に向かっていく。
ムカデはどんどん屍達を取り込んで巨大になっていきそれと同時にブドウの房のようになっていた頭が肉に埋もれていく。
吐き出し切ったのか赤い粘液は徐々に排出されなくなり体表が見えてきた。
青白い肌に無数の目がある化け物がそこに居た。
「なんだあれ」
「ふふふ!ようやく我が肉体が顕在してきたな」
「まさか肉体を取り込んでいたのは…」
「ほう?さすがにここまで生き残った事はあるな!その通りだ!」
エミリー嬢に巣くっている化け物が嬉しそうに目を細めている。
「これは我が肉体となる物!この大虐殺を起こしたのは我の失った肉体を顕在させる為の儀式の序章に過ぎないのだ!」
「なるほど合点がいった!わざわざまどろこしい手段で大虐殺したのは自身の肉体になる死体を集める為か!」
「はははっは!やはり自分の至高な考えは読めないか!だから下等生物なのだ!」
アイホートと自称した化け物はエルティアナを見下しながら楽しそうに話している。
どうやら見下さないと気が済まない傲慢な性格のようだ。
「この魔法陣はなんなのか分かるか?」
「魔法陣を構成している紋章から見て生贄を使用するタイプだ…つまり生贄を使って復活の儀式をするきか!?」
「残念でした!まあ、半分当てたのは下等生物にしてはやるとは思うがな!これはな!このヴェールヴィエンヌの街を包み込む魔法陣の効果を打ち消す為の魔法陣だ!」
「馬鹿な!そんな広範囲な魔法陣が展開できるわけが…」
エルティアナが狼狽えているのを見ていると相当ヤバい物らしい。
それを見たアイホートが更にドヤァ顔で話しかけている。
まるで自身の最高傑作を観客に伝えるように丁寧にかつ残酷な言葉で紡いでいく。
「下等生物は自身の知識からあり得ないと判断するのは結構だがこのアイホート様ならそれが可能なのさ!さあ、刮目せよ!この街に居るあらゆる生物が生贄となり我が肉体を高次元の存在へと近づけさせるのだ!!」
「まさか人間や亜人種どころか魔族ですら生贄にする気か!?」
「ああん?まさかこのアイホート様を魔族と一緒にする気か!!はははは傑作だ!」
魔法陣は更に光が増しておりなにかが起こっているようだ。
そして異変が現れた。
まずは空を我が物のように飛んでいた鳥系魔物が一匹残らず墜落していった。
辺りから苦しそうな悲鳴が聞こえてくる。
思わずこっちの意識も何かに引っ張られる気がする。
「だが分からない!何故それをすぐにしなかった!何故このタイミングで!?」
「ふむ、自分は優しいからな!冥土の土産に教えてあげよう!それはな!あの憎き魔王軍と張り合えるデュラント教国の精鋭部隊が居たせいだ!あいつらに邪魔されると我が計画が破綻する可能性があったからな!」
「ああ、デロリアン中隊の事か」
「ねえどんな気持ち?どんな気持ち?鬱陶しくて腹が立つあいつらのおかげで街が守られていた現実は!本当に無様で可哀そうだなはははは!」
やっぱりカーチス大尉は強かったのか。
でもな、お前は間違えているよ。
そのデロリアン中隊の部隊長格はまだこの場にいるんだ。
「あはははは!何を言い出すかと思えばそんな事か!」
「なんだ?絶望してやけになったか?」
「ねえ?私の顔を見て何か分からないか?」
「ふん、下等生物の顔なんていちいち覚えてられるか」
エルティアナは思わず苦笑して笑っていた。
彼女が同僚をどのように評価していたか分からないがあの様子からすると…。
「じゃあ、上等生物様に改めて自己紹介をさせて頂きます。私の名はエルティアナ!エミリー伯爵令嬢の親友にしてデロリアン中隊の1つの元部隊長にして異端者だ!お前が危惧していたカーチス大尉と同格だと考えて結構だよ!!」
ああ、言っちゃった。
オレが逃げる為に時間稼ぎをしてると思うがゴメン。
腹にできた傷口を抑えるので精一杯で身動き取れないんだ。
「ふん、そんなことはわかっていたさ!お前は絶対に簡単に殺さないからな!生き地獄を味わってもらうぞ!」
「ねえ、コレなんだと思う?」
エルティアナは何かを手に持って見せびらかしている。
形状からして手投げ弾か何かだと思うが…。
「手榴弾か!自決なぞさせんぞおお!!攻撃指令!お前達!あの手榴弾を奪取せよ!」
「残念!喰らえ!!」
彼女は何か引っこ抜いた後、思いっきり上空に向かって放り投げた。
慌てて屍達がそれを回収しようと駆け寄る。
次の瞬間、眩い光が辺りを照らした。
その光が瞳を揺らがせたのか視界がブレて瞼が痙攣した。
「閃光弾か!おのれえええええええええええ!!」
アイホートの悔しそうな怒声が響いてきた。
その迫力は凄まじいもので空気の振動が遠く離れたオレにも伝わってくる・
そうこうしてるうちに光が消失して徐々に視界が元に戻っていく。
気付いたらエルティアナがオレの肩に手をまわしている。
「ふん!やはりそこに居たか!!」
「私は知り合いや友人を大事にする性質でね!お前だって演技とはいえ街の住民と仲良くしていたはずだ!なにか思う事はなかったのか!!」
「ああん?この街に住んでいる下等生物なんてどうでもいいだよ!ホント傑作だったよ!味方だと思った兵士に殺されていく下等生物を見るのは!それを眺めていたエミリーの四肢を捥いだ時の絶望した顔!本当に最高だったわ!!!」
うわ…。
ゴブリン的本能すらドン引きされてなんか哀れに思う。
「攻撃指令!こいつらの四肢を捥げ!ただし殺すなよ!存分にいたぶってやるからな!」
「「「「オオオオオオオ!!!」」」」
屍達や大きな肉塊が一斉に襲って来る。
そしてアイホールは魔法を唱える素振りをしている。
詰んだ。
退路を完全に断たれてしまった。
「ん?」
ふと、エルティアナの顔を見てみる。
彼女はまだあきらめていないようだ。
そうだよな、ここで諦めたら絶対に許してくれないよな!
剣帯から短剣を抜き取って構える。
こうなりゃあ最後まで戦い抜いてやる!
目の前にいる10人以上の屍達を前にして腹を括る。
「撃て!!」
想定外の事が起こって一瞬、目の前の出来事を疑ってしまった。
こっちに突っ込んできた屍達に火の球が衝突して吹っ飛ばしていった。
更に進んでいく屍の脇腹にたくさん飛んできた石が衝突して動きが鈍る。
そして動けなくなった瞬間、首に矢が突き刺さって倒れ込んだ!
「第5、6、7、8班は屍達の掃討を!第11、12班は援護を!それ以外はあの巨大な肉塊を!全軍突撃!王国軍魂を化け物共に見せつけてやれ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
攻撃が飛んできた方向を見るとシャルル中佐と王国軍が居た。
いやそれだけじゃない。
辺りに槍、剣、弩、両手剣、斧、杖を構えた兵士達が湧いて屍達と交戦を始めた。
「なああ!?下等生物共どっから出てきた!?」
上等生物もこの展開は予想外だったらしい。
ただ1つ言えるとすればこいつの発言のせいで兵士達の士気が高まったというべきか。
「話は全部聞かせてもらったっス!!」
「このバケモンが!よくも俺達の街を!」
「ここまで舐められてノコノコ逃げられるほど我々は臆病ではない!」
「我らを照らす焔よ凶弾となり敵を焼き尽くせ 火炎 初級魔法“火球”」
「大地を見守る土精爺よ土を汚す者に石の弾丸を 塊土 初級魔法“石噴射”」
こっちは士気が昂ってやる気満々の兵士、向こうは動きがとろい屍達。
どうなるか一目瞭然だ。
「なあ、エルティアナなんかしたのか?」
「ヒューゴにこっそり部隊を展開できないか相談しただけだよ。大虐殺の主犯や生存者達を中央広場に集めるかもしれないって言ってね。まあ、強制じゃないし日が落ちたら無視していいって伝えたけどうまくいってなによりだ」
「でもいくらなんでも短時間で展開できるわけが…」
「別に地下の入り口は1つだと限らないよ。特にここは広場いくらあってもおかしくない」
想像以上にうまくいったのか兵士が集った事に嬉しかったのか楽しそうに彼女は話した。
ええっ…。なんでそんな保険を作っておけるんだよ。
まあいいか、それで助かったんだし。
友軍のおかげでゆとりをもって敵を確認できるのだから気にしない事にする。
「ふふふ見てよ!下等生物に出し抜かれて悔しそうにしている上等生物を」
アイホールはこっちを睨みつけている。
よっぽどオレ達が気に食わないらしい。
だがその眼差しは脅しにもならない。
何故なら頼れる仲間たちがこんなにいるのだから。
「そうだな」
オレはエルティアナの発言に同意した。




