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落雷ゴブリンのどたばた奮闘記  作者: Nera
第二章 死神に魅入られた少女と亡霊に見初められるゴブリン
19/56

19話 真夜中に蠢く者達

夜の帳が下りてかなりの時間が経過している。

オレは夜の見回りを始めて1週間が経過して事もあり慣れた足取りで進んでいる。


「暇っスね」

「そうだな」


今晩の相方はゴブリン退治で仲良くなった三等兵のヒューゴだ。

腰にランタンを身に着けて両手で槍を握りしめて歩いている。

顔馴染みで人気がない通りを歩いているのでつい気力を失ってしまう。

それでも任務なので気を振り絞って歩いているオレに対して欠伸をしている彼を見て絶対に昇格できないなという謎の確信を感じてしまう。

そう思うオレも性格も実力も糞なので昇格できないだろうけど。


ちなみに20時から21時の見回りは既に終えており2時から3時の任務中である。

夜行性のゴブリンはともかく人間では体内時計が狂って大変だな。

そう他人事に感じてしまうほど気が緩んでいた。

ホラー要素がある物語ならオレ達は真っ先に殺されるポジションである。


「そういえばゴブタロウ兄貴達って今回で警備の任務を終えるらしいっスね」

「それなんだけど失踪事件がまだ解決してないのに解散っておかしくないか」

「あれ?ゴブタロウさん知らないっスか?グリザイユ伯爵家のエミリー嬢が明日、王都に向かれるので正規兵以外の臨時戦力は用済みらしいっスよ」


ここで新情報が出てきた。

三等兵ですら知らされているのにDランク冒険者のエルティアナの口から聞いた事がないとすると本当にオレ達は臨時的な戦力だということを実感してしまう。


「残念ながらそんな話聞いたことないな」

「本来ならもう少し先だったらしいけど山道の復旧が早く済んだおかげでエミリー嬢だけ先に王都に向かわれるそうっスよ」

「15歳の誕生日を迎えて『王立魔法学園』の入学手続きをする為に先行するとか」

「そんな重要な話を他人に喋っていいのかよ…」


あっ…という擬音がありそうな呆然とするヒューゴの顔を見て呆れてしまう。

仲が良いとはいえ当主の令嬢の移動先を教えるのはダメだと思うが…まさか彼も悪名高いゴブリンに機密を話してるとは思うまい。

まあ、ゴブリン退治を通じて仲は戦友以上の信頼関係を築いている彼は、何も知らないオレについ教えてしまったのだろう。

彼なりの親切心に感謝しつつ辺りを見渡してオレ達以外が居ないのを確認する。


「それでゴブタロウ兄貴は、今後はどうする予定っスか」

「今日は生活リズムを整てて明日の10時に中央広場に集合って話だ」

「時間は奇遇っスね!俺は今日の10時に西方駐屯所へ集合っス!」


眠気を飛ばそうとしてるのか少し大きめな声で話しかけてくる。

そういうオレも人間生活に慣れ過ぎて右目の瞼が重くてしょうがない。

要するに団栗の背比べ…もとい、どっちもどっちという関係である。

…無駄話をしていたら任務から気がそれてしまったので頭を振って気分転換に現在の位置情報を確認してみることにしよう。


現在、グリザイユ家の屋敷の東側にある小道を周っておりもうすぐ小さな遺跡がある丘への入り口が見えるところに差し掛かっている。

地理的にいうと中央広場を真っすぐに北へ進んでいくと防壁に囲まれたグリザイユ家の別荘がありその後方には辺りを見渡せる丘がある。

その丘には遺跡がありグリザイユ家の墓が置いてある薄暗い場所であるがそこが今回の見回りポイントの最終場所であり近くに印鑑が置いてある。

その印鑑を渡された記録表に捺してそれを返却すると任務終了である。


普通に考えればここに駐屯兵を置くべきはずであるがグリザイユ家からして神聖な場所である為にこうやって見回るのが精一杯である。

なお、グリザイユ伯爵家の屋敷には常時25人以上の見張りに120名以上の護衛に加えて見回り任務の交代要員まで居るので人気が無い遺跡に戦力を割きたくないのが現状らしい。

こうして地理を再確認していざ、丘へ登ろうとした足が止まる。


濃厚な血の匂いが【嗅覚】を刺激したからだ。

慌ててグラディウスを柄を握り締め鞘から抜いて匂いが漂ってくる方向に構える。

残念ながらワンちゃんほどの嗅覚ではないが匂いの濃厚さからヤバい感じだ。


「ど どうしたっスか!」

『シッ!静かにしろ。やけに濃い血の匂いが漂ってきたんだ』

『亜人種特有の能力ってワケっスか。どうするっスか!?』

『2人で慎重に確認しに行こう』


本来なら誰かここに残して1人が応援を呼びに行くべきである。

だが2人組(ツーマンセル)なので戦力を分散させると却って悪化しそうである。

少なくとも犠牲者が複数いるような濃厚な血の匂いが漂ってくるのをみると…。

4人組(フォーマンセル)だったら良かったのであるが。


オレ達は、あえてランタンの光源を遮って移動することにした。

見回りの居場所を知らせないのもあるがオレの左目は【夜行性の目】であり夜目が利いて真っ暗でも328フィート(約100m)程度なら見渡せるのを知ってたからだ。

誘導するようにヒューゴの手を握りしめて慎重に前を進んでいく。


『まったく状況が分からないけどどんな感じっスか』

『今の所、異常はない。ただ匂いがどんどん増している』

『じゃあ、警笛をいつでも吹けるように準備をしておくっスよ』


こうして慎重に前を進んでいくと覚えがある香水の匂いが漂ってきた。

前に進むほど強くなっていき血の匂いを掻き消すほどである。

そして光源が見えてきてある人物が近づいているのを目視しランタンの光源を遮っている蓋を上げて再び辺りを照らす。


『ゴブタロウ兄貴!?光源出すのは早くないっスか』

『あれは執事ニコルさんだ。ここで光源照らさないと職務怠慢になるからやったんだ』


小声で理由を説明した後、すぐにグラディウスの刃を鞘に戻す。

前からやってきたのはエミリー嬢付き執事のニコルさんだ。

後方には護衛と思われる王国兵4人が付き添っていた。

相変わらず鼻を刺激する香水を付けており血の匂いが分からなくなってしまった。


「これは見回りの皆様。こんな所に何の用があったのでしょうか?」

「ニコル様申し訳ございません。付近を哨戒していたら血の匂いが漂ってきたので慌ててこの場にやってきた所であります!」

「なるほど、亜人種の嗅覚が感じ取ったのですか。残念ながら道中でそのような血濡れた現場を見ておりませんぬ。お役に立てず申し訳ない」

「いえいえ、我らもこのような勝手な行動を取ってしまい申し訳ございません」


その為、ニコルさんに訊いてみたがどうやら道中でそんな事なかったようだ。

後ろに居る兵士達からも血の匂いがしない代わりに香水の匂いが漂ってくる。

あのニコルさんの傍にいたらそうなるよな…そう思って内心同情をする。

ニコルさん本人は顎の髭に手が触れており何やら考え事をしているようだった。


「ふむ、万が一という事を踏まえて念のために2個小隊をこの場に派遣しておきましょう。ゴブタロウさんご報告ありがとうございます」

「いえいえ、こちらこそ!恐縮な思いで一杯であります!」

「それでは私は散歩の続きをさせて頂きましょう。これにて」


そう言ってニコルさんは兵士を引き連れてその場を後にした。

後方に居る兵士たちは隊列を作り一糸乱れぬ歩き方で進んでいく。

その後ろ姿を見送った後、ヒューゴを顔を見る。


「今度はどうしたっスか?」

「いや、あの一糸乱れぬ行進をみて。ヒューゴもいつかああなるのかと思ってさ」

「あれは訓練されたベテラン兵っスよ!一緒にしないで欲しいっス!」


なんか悲しそうな顔をしていたのでこれ以上踏み込むのは止めておこう。


「ところで濃厚な血の匂いってどうなったスか?」

「あの濃厚な香水で打ち消されて分からなくなってしまった」

「ああ、確かにあの香水、かなり匂いが独特で強いから無理もないっスね」


あれ?嗅覚に敏感なせいだと思ったら人間でもあの香水はきついのか。

一応、香水は体臭を誤魔化すために発達したってどっかで聞いたことはある。

とはいえ、あの人があそこまで強い香水を付けなくても良いと思うけどな。


「実は、あの香水は密かに流行っているそうっスよ」

「ちょうどニコルさんが付け始めたのは俺達がゴブリン退治してた頃だったっス」


再び丘の方に戻り遺跡を目指して登っていると新情報が出てきた。

だからどうしたという情報だがエルティアナ曰く、こういう情報は重要らしい。

知っているかどうかで生死を分ける情報になってくる可能性があるそうだ。


「つまりあの香水のはつい最近の流行りって事か」

「例の連続失踪事件前にゴンサレス魔導国で流行ったそうだけど上の感性は理解できないっスよ」

「…と言っている間にチェックポイントに着いたな」


丘を登れば遺跡がある。

ちょうどその遺跡の前に小さな小屋がありそこの机に印鑑が置いてある。

この印鑑を記録表に捺して返却すれば任務終了である。


「さっきはゴブタロウ兄貴が返却したから今回は俺が返却するっスよ」

「ホント、こういう細かい点はガバガバでショックなんだよな」

「返却場所と宿舎が違うからこういう事を見逃してくれのはありがたいっスけど」


本来なら2人が揃って記録表を返却する手筈だが返却場所がバラバラの為、下手すると帰るのに30分以上掛かることもあるせいか班員の内、近い人物が1人で返却する風土が生まれたそうだ。

その為こういう2回ある任務はどちらかが返却するのを予め決めるのも手である。


「じゃあ、お疲れっス!」

「お疲れ!また会おうな」


こうして印鑑を捺して任務を終えたので見送って姿が見えなくなるまで手を振る。

宿に帰るまでが任務というが実際、何度もやってると慣れて適当になってしまう。

ここに監査官が居てこの光景を見られると非常にまずいが幸い、嗅覚がそれらしき人物の匂いを感知してないのでかなり気を抜いていた。

そして、いざ帰ろうとしたら風に乗って微かな香水の匂いが漂ってくる。

それは何人たりとも許可なく立ち入ることができない遺跡から漂ってきた。


知らないフリをして帰ることもできたがあえて、その人物に話しかける事にする。

本来、ここに居るはずもない人物を。


「エミリーお嬢様、こんな時間にここで何をなされていらっしゃるのですか?」

「ああ、バレちゃいましたか。うまく身を隠したつもりでしたのに」

「さすがゴブリンさん。女性に対する嗅覚は誰にも負けませんのね」

「話をはぐらかさないでください」


遺跡に身を潜めていたのはなんとこの街を治めている伯爵の娘。

エミリー・ティティス・グリザイユ伯爵家令嬢がそこに居た。

ただ、ドレス姿ではなく簡易な外套を身に纏ってサンダルを履いていた。


「ここで立ち話するのも何ですから奥で話しませんか?」

「よろしいのですか?」

「ええ、その方が双方にとって良いと思います」


彼女から発せられた言葉の真意は分からないが双方ともここに居るのはまずいと分かる。

それにも関わらずオレを招き入れるのを見るとよっぽどこの事を口外してもらいたくないので理由を説明してくれるのかもしれない。

どの道、拒否できるほどオレは偉くないので黙って彼女に付いていく。


「どうして私がここに居るか気になりますか?」

「あ、いいえその…」

「遠慮せず訊いてくれればいいのに。だってここには2人しか居ないのですから」


彼女の立ち振る舞いや台詞からするとフレンドリーな対応だが逆に違和感がある。

明日、王都に向かわれるはずの彼女がこんな無人の場所にいるのが不気味でもあるし、そもそも護衛を引き連れずに単独でここに居るのも不思議である。


「何故、私が護衛を引き連れずにここにいるか不思議そうな顔をしてますね?」

「普通ならありえないシチュエーションですから」

「答えは、密かに屋敷にある隠し通路を使ってここに来て墓前まで進んで安らかに眠られているご先祖様にご報告してきただけですわ」


彼女は、さも当然のような口ぶりでとんでもない事を言い出した。

つまり、この遺跡とグリザイユ家の屋敷は隠し通路で繋がっている。

こんな事が判明すれば今までの警備体制が崩壊する大事件になるのは明確だ。

おそらく伯爵ですら周知してない極秘であるのは間違いないだろう。

にも拘わらずそれを告げるということは…()()()()()()()という事なのだろうか。


「失礼だと思いますが嘘ですよね」

「なんでそう思われるのですか?」

「ご先祖の報告であるならば計画を立てて公式にやる事ができますよね」

「墓参り事態は嘘ではありませんわ。建前ではありますけど」


つまりここでしかできない後ろめたい事があると?

実は、死霊魔術(ネクロマンシー)の研究をやってましたとか実は連続失踪事件の真犯人とかだったら口封じでオレは消されそうだ。

嗅覚からは伏兵の匂いは感じないし血の匂いも死臭もしない。

だからといって安心できる要素など1つもない。

ここで彼女と会ってわずかな時間しか経過してなかったが緊張は高まるばかりだ。


「ここに腰掛けてくださいませ」


朽ちた石壁やボロボロの石像に蔦が覆っており辺り一面雑草が生えていて放置されてから長い時間が経過してるのが分かる。

そんな場所に最近持ち込んだと思われる木製の椅子がいくつか置いてあった。

周りの景色と比べて真新しさが目立つが風景にうまく溶け込んでおり違和感はなかった。

その椅子の一つに手を向けて座るように促されたのでとりあえず座る事にする。


「ゴブタロウさん、ここまで奥まで案内された事に疑問はありますか?」

「…仰る通り疑問だらけで頭が一杯です」

「実はこの場所に隠し通路があってここから街の郊外やグリザイユ家の別荘に繋がっています」

「他には西方にある正規軍の務め所に繋がっているのをみるとご先祖様が緊急時の脱出用に密かに作られたものかもしれませんわね」


彼女は、石壁の突起を弄ると近くにあった複数の大きな本棚が音もなく横に動く。

本棚が止まると空いた空間に下へと進む階段が見えた。


「ご覧の様にここから階段を降りていくと道が複数に分かれていて屋敷や街の郊外へと出ることができますわ」

「何でそんな重要な機密を教えていただけるのですか?」

「ゴブタロウさんにしばしの間、お時間を頂きたいと思ったのですがあまり時間が経ってしまうとニコル爺や衛兵たちに怪しまれそうなので泊まられている宿への近道を教えておきます」


そう言ってオレに向き合う場所に椅子を置いたエミリー嬢はポケットから何やら紙を取り出すと携帯用の羽ペンで何やら文字を書いている。

そして書き終えたのかオレに紙を渡してきたのでありがたく受け取った。


肌触りからして紙ではなく羊皮紙と言われるものだと分かった。

まあ、そんな事よりも迷路のような隠し通路の地図がそこに描かれており一カ所にオレが泊っている宿の近くに出る場所がある様でそこに簡易なメモが書いてある。

ここに出ればタイムロスを短縮できるだろう。

改めて文字の読み書きを教えてくれたエルティアナに感謝する。


「そこから出ればエルティアナお姉さまが泊まられている宿に辿り着けるでしょう」

「えっ?あっハイ」

「それでは本題に入らせて頂きますね」


そう言うと彼女はオレの方に視線を向けてきた。

なんか発言に違和感を覚えたが彼女から目が離せず緊張してしまう。

わざわざこんな機密を教えるということは、相応の対価を支払えという事だろう。

固唾を呑んで次に紡がれる言葉を待った。


「ゴブタロウさんのお傍にいた方はエルティアナと呼ばれる女性ではありませんか?」


彼女は真剣な表情で意外な事を訊いてきた。




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